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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
ExⅧ:国立大学教授A&B
83/322

手記『神様という奴隷』

僕は、エド。



僕は、アーロン。

アーロン・モルトホーゲン。



私はエアディス。



私は、誰だ。

誰だったーー

本資料――以下、甲とする――は

大陸創生の歴史や当時の生きとし

生けるものの記述からくる

手記と思われるものである。


学術的側面から貴重な資料として

大陸共通認識から創立五十周年を迎えた

国立大学にて保管・保存を行う。


甲の持ち主は、幾度となく変わり

現在こうして研究書物として

たどり着くまで約半世紀は

経っていると推定される。


甲の著者と思われる人物エドが

自身の幼き日から名を変えて

手記の最後に至るまで記述されている。


最後までを我々研究者が解読し

今後の大陸発展にわずかでも

力になることを祈っている。



――国立大学 歴史研究者 教授A


――国立大学 考古学研究員 大学生B


エイール大陸国立大学

第3回考古学論文誌より



― ― ― ― ― ― ― ― ―



家庭教師のあの人が来てから

僕は毎日勉強しています。


いつかあの人のように

誰かの役に立てる人になりたい。


そのために僕は毎日頑張っています。



あの人は僕の話を聞いてくれます。

どんな小さな話でも、聞いてくれます。

嬉しいです。だから、僕はあの人のような

信頼できる人になりたいです。


父のような素晴らしい人と共に

あの人のような素晴らしい人に

なれますように


おやすみなさい



* * * * *



僕はこの日、家督を継ぎました。


あの人は今日この日をもって

家庭教師から僕の執事になった。


僕の初目標は家督を継ぐこと。

続いて、それを継続すること。


父からの約束で私はここにいる。

家の存続と繁栄のため奮闘した。


それを支えてくれたのは

執事であるあの人だ。


どんな時も僕を案じてくれた。



だから私はここに決意する。


目で聞く父の恐ろしく

鋭く突き刺さる言葉を受け流す。


一度たりとも僕に

目を向けてくれなかった母を

恨み、妬み、悲しむことを、しない。



このふたつを決めたからか

私の体に変化が起き始めた。


母と呼ぶには耐え難い

あの女からの繰り返される

執拗な暴力だけは

僕の分厚い皮膚が守った。


あの女は、いつからか姿を消した。



* * * * *



父が家を継いだ歳から

数年後になったが、私は成し遂げた。


私もようやく領主として

周りからも認められ始めた。



大陸北部の領主となり

私自身が人々を導かんとする

【祖】となった。


領主となったと聞きつけた領民が

領主となったと聞きつけた外人が

見慣れぬ人たちが、見知った人たちが

かつて私を襲いかかったあいつらが

私を影で馬鹿にしていたあの人たちが


いままさに私を前にして

涙を流して平伏している。



誰もが涙ながらに訴えている。

誰もが私に手を伸ばしている。

誰もが手を組んで拝んでいる。


歯を食いしばった。

涙があふれ出た。

頭を抱えた。


そこに感じたのは

いかりとかなしみとくるしみ

とやらだった。



――私は、そんな彼らを

導くためにここまで来た。


だからいままでのことは

水に流さねばならない。


それが祖である。


それが私の唯一

唯一、出来うることなのだ。


私が彼らを導き、守り

次の世界を、次の世代を

次の新たな秩序のために

私は頑張らねばならない。




父の言葉は、意味はなかった。

私がたいかんした結果

ようやくわかった。



あぁ、こんなの、いやだな。


いまさらそんなかおをするんだ。


あぁ、まるで、わたしが、ばかだ。



* * * * *



わたしは、誰だ?


私に平伏する彼らは

本当に私へ救済を

求めているのだろうか。


私ではない。


私の力にだけ

目を向けているのではないか。


なら、私が私である必要はない。


どうして私が、あんな人たちを

助けねばならないのだろう。


どうして私が、そんなことを

しなければならないのだ。



――【ここから十数頁ちぎられている】――



――【ここから新しく記述される】――



執事、執事よ。私の執事よ!

いや、先生。助けてください!


僕の身を守るべく!

私から生まれた鉄鎖のひとつを!

ようやく持つに値する人となって!

敵から僕を守らないで!


違う、違うんだ。

僕は、貴方に助けてほしい!

僕を知る、私を教えてくれた。

僕の身を案じてくれた貴方。


どうして聞こえないんですか?

どうして僕の声が聞こえないんですか!


助けてください。


僕は、もうこんな一生なんて嫌だ。


助けてください。


どうして、そんな目で

僕に背を向けて、その槍を

振るうのですか?



* * * * *



――あの人は僕を迎えてくれた。


それなのに

鉄鎖は見知らぬ小さな命に受け継がれた。


なぜだ。なぜだ。なぜだ。

先生は、いやになったのか!


僕の、……あぁそうか!

僕のお守りを押し付けたんだな!


あぁ、あぁ、なんて、なんて事だ。


そうか。先生、貴方も

彼奴らなんですね!


あぁそうか。もう、嫌なんですか!

なら、どうして助けたんですか!


どうしてあの日に断らなかったんですか!

その優しさが! その一瞬の永遠を!


僕は! それにすがった。

それがそもそもの間違いなのか!



……僕の勘違いだったんだ。

信じた私がバカだった。


あの人は僕に何かを

叫んでいるだろうか。


目などもう見えやしない。

耳は遠い彼方の何かを捉えるも

雑音としか思えない。


喉など父の手の中で消えた。



* * * * *



はろー。はろー。きこえますか。


ぼくはエド。僕はアーロン。

私はエアディス。私は名のない異形のクジラ。


聞こえませんか。

どうか、どうかもう一度

私に、助けを乞う赦しをーー


はろー、はろー。異国の言葉で。


おーう、でぃーう、ふるへくふと。



ー ー ー ー ー ー ー



本論文の著者であるAに対し

とある人物から資料甲の

提供を打診する申し出があった。


相手は仲介人を寄越した。

大陸内で古美術商を営む人物とし

持参した甲と相対した。


なぜAの元へ連絡し

甲を提供したのかは不明である。


しかし代理人いわく

「大陸の発展のためと承っている」

と話した。


甲の真贋については

間違いなく本物である。



信用担保のため

他研究者である考古学者Cにも

鑑定を依頼した。


おおよそ時期は前後したものの

間違いない代物である。



祖、という単語の意味を

調べても該当するものはなかった。


これは何かしら彼自身が作り出した

イメージの一種であると考えられる。



最後に至るにつれて

筆者であるエドの筆跡が

乱雑である。


最後の部分はエド本人ではない。

別の人物による代理筆記と思われる。


甲は今後、解読を続ける。



― ― ― ― ― ― ―



最後に。


私たちの死後

もし世界の情勢や法律が

この本資料の一般へ公開すると

なった場合、どうか目に触れる人々が

甲の著者エドに対しての興味・関心を

持っていただき、後世への研究に

つながることを祈っている――

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


続きます。次話投稿予定は

2021.11.1(月)です。

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