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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
巨毒狐を倒すは、竜か、狼か
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78/333

竜の浅知恵、狐は毒をも食らう

ナドルは牙を向く。


自身を討たんとする竜の子に

非情という死を与えるべく

待ち構える。


恐ろしくも整列され、一つ一つが

獲物の肉を、骨をも切り裂く牙。


「(子供だ。所詮は子供。

 どんなに鉄槍を変えようと

 どんなにその姿を変えようと

 その知恵、子供ッ!!)」



落ちてくる竜の子ハークは

変わらず鉄槍、両鉄槍を構えている。


その眼は竜。

小さな身体に全身全霊を持って

自分を見据えている。



「(そうだ。我を見ろ。

 私だけを見つめろ。

 それが幼き貴様が今生で

 最後に見るものとなる!)」


巨狐ナドルは口を大きく開ける。

一瞬だけ、彼の目は喜びに満ちた。



竜の子ハークと巨狐ナドルが

まさにぶつかる瞬間。


巨狐は八本ある尾のうち

四本だけうねらせる。

残りの四本で隠しつつ

流線形を操る。


ハークの死角である背面へと

流線形がひらりひらりと

気配を悟られぬように

宙へと配備していく。



――巨狐ナドルは思い描く。

竜の子ハークの鉄槍をいなす。

それに驚く、もしくは戸惑った

瞬間に背面からの流線形の強襲する。


これで奴は致命傷を受ける。

そこをバクリと食べてしまえばいい。

もしくは毒を打ち込めばいい。


白蛇も狼も、竜の子を失えば

戦意がそがれるだろう、と。


ナドルの意識は、輝く未来が

全てを包み込んでいた。



* * * * *



ハークは鉄の槍を持ち直す。

体勢をナドルとまっすぐに構える。


「ふはは! 無駄なあがきだっ!」


ナドルの四本の尾が

隙なくハークを捉え

突くべく、乱舞する。


しかしハークはそれらを

槍の先で、はたまた槍の柄で

軌道をズラしていく。


ハークへ向けられた尾を

飛び越えられ、とうとう

ナドルの目の前となる。



先に動いたのはナドル。


まがまがしい牙は肉を裂き

骨を砕かんと、ハークの槍を持つ

腕を狙う。



ハークは巨狐ナドルの口を利用し

視界から外れつつ、槍を構え直す。



"ガキィィィン――ッ!"


鉄の響く音。


ナドルは捉えたと直感

すぐに口を閉じた。



「(勝った――ッ!

 ……ッ?!)」


ナドルは。

じんわりと口から広がる鋭い痛み。

舌で感じる生暖かい苦み。

ひゅうひゅうと通り抜ける風が

神経を通して体の内側から

ナドルの感覚へ直接知らせる。


二ヶ所。口の上と下。


「槍を、かマセた!」


ハークは巨狐ナドルの口の中へ

両鉄槍を縦に構えていた。


それはぴったりと

巨狐ナドルの上下の口を貫く。



「あ、あぁ、あああああッ!?」


ナドルはただ叫んだ。


鉄槍が食い込む。

鉄に当たる部分は黒ずみ始める。


「(ま、まだだ! 油断した奴に

 毒を打ち込んで……)」


ナドルはすぐさま尾を振るも

宙に浮かんだはずの流線形は動かない。


否、それら全て打ち砕かれる。

霧散し、欠片となり

地へと降り積もっていく。



「――兄様を守るは、私の使命。

 その身に降りかかる火の粉なぞ

 見落とすなど、言語道断!」


大人ユミナが息を切らす。

彼女の白い蛇の尾には

流線形の細かな破片が刺さる。

それを薙ぎ払ったためか

白い尾には細く赤い線が

いくつも引かれている。


しかしそれを背に隠しつつ

ナドルの行動に目を光らせる。

そして竜の子ハークを案じた。



悶え苦しむナドルをよそに

ハークは食い込ませた槍を持ち直す。


ナドルの口の中で

ハークは勢いよく槍を前へ倒す。


巨狐ナドルの鼻から

口の奥までまっすぐ両断される。


「ぎゃああああああ!!」



前足で口をおさえ、悶え苦しむ。

ナドルは身体を縮ませ

人に近しい姿へと変わる。



* * * * *



「か、か、き、きさ、ま……ッ!」


唇がほぼ真ん中から縦に裂ける。

血はダラダラと滴る。


「まだだ……!

 まだ死ぬに、負けるにいかない。

 ならば! ここで!」


ナドルは尾一本を振り

わずかだが毒粉を漂わせる。

それを形あるかの如く

むんずと掴む。


「ふぅ……、ふぅー……

 むぅんッ!」


それを己の口へと叩きつける。


一度こそナドルの瞳孔は

光を失いかける。


しかし踏ん張る。


手のひらを退けた跡は

切り裂かれたはずの口元は

傷痕の黒と毒粉の紫とが

互いに色を主張しつつ

入り交じりつつ、治っていた。


「こ、これで

 まだ、戦える、……ッ!」


ふしゅぅぅ、ふしゅぅぅと

ナドルの息遣いから

毒粉が吹き出される。


金毛の身体は徐々に光を失い

毒粉の色へと変わり始める。


「ガアァァァァァァァッ!!」


ナドルは駆け出す。

その口は大きく開き

足は地に食い込ませ

爪は眼前の敵を切り裂かんとする。


ハークを狙う。

ナドルの口が差し迫る瞬間

天から落ちる一撃。



「あまりに、単調な、もので」


大人ユミナが白蛇の尾を

ナドルへ振り下ろされる。


一瞬意識を失ったナドルが

次に目にするもの。


「ーーコれは、アニキの分ッ!」


狼ベルードは

両の剛腕と爪を振るう。

ナドルの顔を切り裂き

そのまま首を狙うも逸れて

胸元が切りつけられていく。


「こレハ、カーサンたチッ!」


切り裂いた傷へと

もう一度切りつける。


ナドルの傷口からは

血が噴き出す。



「ギャアァァァァァッ!」


ハークの雄叫びと共に

鉄槍を構え、竜の足による疾走。


ナドルの切り裂かれた胸へと、一閃。


その時ナドルの首から

金属の弾ける音。


それを掻き消さんと

声にならない叫びが響いた。



「ま、まだだ……」


三人の連続攻撃に

ナドルは瀕死の状態となる。


半孤ナドルは尾から毒粉をつかみ

またも傷へと叩きつける――

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


便宜上、次で

10話終わり予定です。


続きます。

次話投稿予定は

2021.9.27(月)です。

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