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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
巨毒狐を倒すは、竜か、狼か
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76/332

毒も呪わば、罪、あまたなり

――我が兄様に、何用か?


毒煙を一薙ぎで払い退け

その中から現れたのは

ハークの見覚えのある

出で立ちの女性。


青みがかった黒髪。

見慣れない模様で

それを何枚も重ねる薄い服。


そして何より

顔立ちでハークは分かる。


――あの人だ。



* * * * *



「我は無名なり。

 然し兄様は、名を与えて下さった。

 金簪これに刻まれし、ユミナ、と」


ユミナを拾い、その近くで

雪に埋もれていた女性。


ユミナの母親だと考えたあの人物。



ハークの前に立ち

ナドルへにらむ女性。

自らをユミナと名乗った。


「ユミ……ナ?」


ユミナらしき女性

――大人ユミナ――は

ナドルへ注視しつつ

ハークへと駆け寄る。


背、腰あたりから

のたうつ白い蛇の尾は

ハークと自分とを

ナドルと隔てるように置かれる。


「兄様。あぁ兄様。

 ご無事ですか。スゥー。

 ……素敵な兄様。このまま……。

 ……コホン。いえいえ、まずは

 今すぐ体の傷を、体に残してしまった

 毒を取り除きます故。あぁ背中が……。

 兄様申し訳ございません。しばしお待ちを」


彼女はゆっくり、そして静かに

ハークを頭から足の先へ息を吹きかける。

するとどうだろう。ハークの体にあった

は徐々に消えていく。


次に、彼女は自身の尾から

力いっぱいに一枚の鱗を引きはがす。


それは鋭く、かつ薄い。

それをハークの背中にある膿の部分へと

ゆっくりかつ素早く切り開いていく。


手慣れたもので

膿はずるりと外へと流れ出る。

すぐさま彼女は息を吹きかけ

開いた部分を元に戻した。



「治って、いる……」


「兄様、本来なら――」


「敵に背を向けるほど

 余裕がおありでッ!」


ナドルは尾をうねらせ

毒のカマイタチを撃ち出す。


「なんとひねりのない」


大人ユミナはナドルを

横目に睨んだのち

彼女もまた尾をうねらせる。


白い蛇の尾は

縦横無尽に行き交い

強風を作り出す。



何度も打ちだされる毒の波は

白い尾の風に切り刻まれ

拮抗しあっているため

何度も繰り返されていく。



「愛しき兄様。

 今は、あの男を制しましょう。

 ……優しきおばさまを

 誰よりも慈悲深いおじさまも

 助けねばなりません」


そう話す大人ユミナは

イヴェル裁判官のふたりに目を配る。


ふたりは座席から動いていない。


「大層余裕がおありで。

 ですが取り越し苦労なコト。

 ご安心を。裁判長代理である

 この私に任せれば皆さまを

 共に同じ元へ送りましょう!」


ナドルは毒の規模を

一気に引き上げる。


撃ち出されたカマイタチは

何重にも重なり合い

一種の球体のような形となる。


ゆっくりとハークたちへ向かい

その余波は意識を失ったままの

イヴェル夫妻にも及ぼうとしている。



「おばさ――ッ!」


大人ユミナが二人へ注目した瞬間

ナドルは一歩踏み出す。


裁判長ソニアへと手を伸ばす。


「(もらったッ!

 これが、すべての始まりにッ!)」



――しかし、ナドルの手は

ソニアに届かない。


そこに居たのは、鉄槍にて

ナドルの恐ろしい爪を止める

ハークであった。



ビリビリと痺れるような痛み。

そしてギリギリと力が拮抗しあう感覚。


「ソれハ、ダめだ……ッ!」


ハークは強靭な竜の脚を持ち

竜の腕に鉄槍ウェネスを携える。


ソニアを守るべく

ナドルに立ちふさがった!



* * * * *



ハークは鉄槍で薙ぎ払う。


その時、鉄槍の先が

ナドルの手の甲をかすめる。


「……グッ?! 手が……ッ!?」


顔をゆがませ、隠すように

距離を取るべく後ろへ数歩飛ぶ。


ナドルの額から一筋の汗が流れる。

隠した手からはわずかだが

白くか細い煙が立ち上った。



ならば、と焦ったナドルは

裁判官グーンへと横目に捉えようとする。

しかしグーンの姿がない。


ナドルの耳がとある音を拾う。


服の擦れる音。それも2つ。

ナドルはその方へ目を向ける。


少し先。席から離れ

宙を浮いている様子だけが

ナドルの目に映った。




「レムザ、貴様か! 逃がすか!

 証人がいなければ、成り立たない!」


ナドルはカマイタチを撃ち出す。

グーンもろともカマイタチが貫通する。


決まった。

しかしナドルは気づく。

貫いたそれが、ただのたうつだけの

触手の束であることを。


“ガタン”


裁判官たちが出入りしていた

扉が開かれる。


そこには、イヴェル夫妻と

アナグマ博士の三人を

束ねた触腕で担ぎ、

出ようとするレムザの姿。


ナドルに勘づかれたため

急いで法廷から脱出した。


「いないと思ったら、姿を隠して脱出!

 ……ふはは。まさか! 予想外ですとも!

 レッド=アシッド初代が敵前逃亡!

 これほど面白いコトは、ふはは」


あまりの衝撃に、ナドルは腹を抱えて

レムザへ指をさして笑っていた。



* * * * *



ナドルの手の甲につけられた

一筋の傷が露わになる。


大人ユミナはそれを目撃する。

逃げるレムザに気を取られた彼に

気づかれないよう、ハークに駆け寄る。


「兄様。あの男の手の甲。

 鉄槍の一閃こそが、彼を制する

 手立てと思います」


「だめだ。鉄槍は、うまく使えない」


「ご安心を。もしものときは

 私がご助力いたします」


「これはこれは。私としたことが。

 お喋りは終わりました、かーーおっと?」



「兄貴……、馬鹿、シタナ……?」


ナドルの背後からかけられた言葉。

ピリピリと肌で感じる、怒り。


「親に向かって何をッ!」


そこに居たのは

狼の半獣人として飛び込まんとする

ベルードである。


ナドルは振り向きつつ

爪で薙ぎ払うべく腕を振るう。


しかしそれは振るう前に

ピタリと手を添えられ、止まる。


「親? 母サン、見捨テた。

 親父、居ナイッ!」


添えた手首を掴み、思いっきり

誰もない後方へ投げつける!


ナドルは投げられつつも

くるりと体勢を立て直す。

壁に足をつけ、勢いをバネに

跳び、駆ける。


ベルードの姿が突如として

人に戻る。頭に手を置き

体の具合を確かめる様子である。


「ふはは。子供が何を……。

 お前も同じ立場になれば

 分かるとも」


ナドルは部屋中を再度眺める。


裁判長席付近に

鉄槍を構える半竜人ハークと

白蛇の大人ユミナ。


裁判官グーンの席にて

自身を睨みつける狼ベルード。



「ちょこまかと」


顔がうつむく。再度あげたとき

ナドルの瞳は金色に光る。


身体がゾワゾワうごめき

尾は何回りも大きくなる。


ナドルの身体から関節音がいくつも鳴る。

彼の口角が裂ける。


鋭く細かい歯がいくつも並ぶのが見える。

それを支えるにはいささか頼りない

細くしなやかな手は前足となる。


天に踊らんと、そこが自分自身の縄張りと

くるりくるり、身体をうねらせ主張する。


「私が、私こそが、法!

 私が、正す。私が、するべきだ!」


化け狐。

質量を増した尾は、法廷を

半分以上も隠してしまう。


根本から大きく膨らみ

それの先は赤や紫に加え

青や金色の粉が溜められている。


「被告、代理として、ベルード!

 関係者の二人! 両名へ言い渡す!

 判決、死刑ッ! 刑、執行!」


巨狐ナドルの尾がうねる。

振り撒かれる粉は光で乱反射する。

しかし粉は粘度を持ち、空間に何かを描き出す。


「ベルードッ!」


「ハーク君。……聞こえてた。

 その人が言うに、ハーク君なら

 親父を倒せる、ワケだよね?」


「そうです。兄様の鉄が」


「いいのか。親父さん、だろう?」


「いい。兄貴を、母さんたちを

 馬鹿にするのは、親父だとしても。

 ……所で、その人、ハーク君の……」


「それも後で」


「OK」



「唸れ。煌めけ。灼き尽くせ。

 在りし者たちを罪を償わせ、

 天に至る神に、赦しを与えよ……」


ナドルの描き出した

流線形が、飛ぶーー

ここまで読んでくださり

ありがとうございます。


続きます。

次話投稿予定は

2021.9.20(月)です。

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