裁判、開始
――どうやら傍聴席が空いている。
グーンは一枚の紙に目を通している。
それはウィルクスがまとめた書類からは
はじかれた紙束の中に紛れていた。
「……まぁ、なんだ。
さすがに部屋に取り残すのは
君も、アナグマも、これから出会う
ベルードという若者も、不本意だろう。
予約という形を取ってくる。
ユミナと共に1席座れるよう
話を付けてくる」
ウィルクスがまとめた書類の山から
わずか数枚だけ持ち出される。
それをグーンはクリアファイルに納める。
少し厚みが生まれ、彼の脇に
抱えられる程度となった。
「どうした。行くぞ」
グーンに急かされ
ハークは慌ててソファから降りる。
* * * * *
”コンコンコンッ”
「ばあさ、……失礼。
イヴェル、イヴェル裁判長。
時間だ。着席7分前となった」
グーンは真向かいの部屋を叩く。
返事はなかったが、誰かが部屋を歩く音は
わずかだが聞こえた。
それから少し間をおいた後
ドアが開かれた。
「分かりました。予定通りです。
ありがとうございます。グーン裁判官。
行きましょう」
中からソニアが現れる。
しかし先ほどの服装とは変わり
黒に統一された法服と呼ばれる
装いをまとっていた。
その表情には先ほどまでの
にこやかさはほとんどない。
眼は凛とし、まっすぐ全てを
見据えんとばかりである。
物腰の柔らかい、優しそうな
老婦人としての雰囲気は
目の前に立つソニアには
ほとんどない。
まさしく目の前の事象について
見極めんとする裁判官としての
ソニアがそこに立っていた。
「――ごめんなさい。よろしく」
「うー?」
抱えられたユミナをハークへ預ける。
手元にはグーンとは違い
数枚の書類だけファイルに
入れられたものを持参していく。
「ウィルクス、……はまだ休憩時間か。
二人とも、法廷の前まで送ろう。
おおよそ休憩時間を終えたら
ウィルクスが来るだろう。
傍聴席へそのまま行けばいい。
一番前の席の右端。
それだけ覚えていればいい」
イヴェル夫妻の後を追って
ハークは歩き出す。
二人は書類に顔を近づけ
話し合っている。
「争点は、被告とその関係者のーー」
「いや。まず彼らの言い分からです。
その後はーー」
グーンはまとめた書類に指さしつつ
ソニアへ説明している。
一方ソニアは、それに対して
意見しているようだ。
「何しているんだ、ふたりは」
「あうー?」
「ははは! お二人は今回の裁判!
その重要な部分を話してますぞ!」
ウィルクスは突然どこからともなく
ハークの後ろから現れた。
音もなく現れたウィルクスは
その手には無相応な木と紙でできた
今にも壊れそうな代物を手にしていた。
「うぉ!? あぁウィルクス、さんか。
……何で分かるんだ?」
「これは、勘ですぞ!」
「そんな安易な」
* * * * *
法廷。
ハークたちが訪れた以外の
他法廷はほとんどが終えたのか
札が取り払われている。
そこだけが他とは違い
立派そうな立て札が掲げられている。
『バルドリア山麓村
不当飼育および村落への脅威に
関する裁判』
と仰々しくかかれていた。
「――ウィルクス。横でふたりを
見守っているんだ」
「ははっ! お任せあれ!」
「ところで、それはなんだ?」
グーンはウィルクスが持つ
見慣れないものに指をさす。
「やや! お気づきですか!
これは――」
「いや、説明はいい。時間だ」
グーンは先に向かった
ソニアを追っていく。
「先生たちは忙しいそうですな!
私もいつかはあのように!
ははは! 夢が広がりますな!」
「あの、そろそろ、入らないと」
「おっと、これは失敬!
さぁ行きますぞ!」
ハークはユミナを抱えつつ
ウィルクスに案内される。
入って傍聴席前列右端の二席。
背もたれに『予約』と文字が刻まれた布が
かけられた席を見つける。
中席にウィルクスが
端席をハークとユミナが座る。
「あうあー?」
「(ユミナ。ここは静かにする所だ)」
「(うー? あい!)」
「(お二人とも! もしものことを考え
端席にさせていただきますぞ!)」
「(もしもって?)」
「(もちろん、トイレですぞ!
先ほど駆け込んでいたでしょう!
一度だけとは限りませんからな!
ははは!)」
ウィルクスは声を潜めて笑う。
だんだんグーンがウィルクスへの
対応の理由が分かってきた気がした
ハークであった。
"ジリリッ!"
開始の時間となったためか
耳に直接入り込まんとする音が響く。
それを合図に
法廷にはぞろぞろと裁判官たちが
入っていく。
「これより、バルドリア山麓村に
関する裁判を行います」
一番上、真ん中に座るのは
裁判官イヴェル=ソニア。
彼女は裁判開始を宣言する――
おはようございます
ここまでが9話となります。
投稿遅れてしまい
申し訳ございません。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
続きます。
次話投稿予定は
2021.9.3(金)です。




