出来る、ではなく、する。必ず。
ウィルクスが整理した書類は
一通りの作業の末、束となり、山となる。
「先生! 置いておきますぞ!」
それがある程度まとまると
ウィルクスがシャカシャカと
グーンの机へと置かれていく。
グーンは数束手に取る。
ペラペラとめくり、手元にある
別の書類と見比べながら
必要な箇所に線を引いている。
ある時は赤いペンを使って線を引き
ある時は万年筆に持ち替えて
サラサラと書き足しているようだった。
部屋には机のほかに
ある壁一面に設置された本棚。
グーンはふぅと息を吐きつつ立ち上がり
そこから何冊か引き抜く。
書類の束と、積んだ本の山の
その谷にてグーンは目を凝らしている。
ただ、ウィルクスのまとめる書類の束が
自身の机からはみ出ないように
一定数を超えることはなく
文字通り、さばいていた。
* * * * *
「裁判の仕事って――」
ハークは恐る恐る
グーンへ声をかけた。
「つまらんぞ。君のような子が
目指すものじゃない。
それこそ、この場にいない
あのふたりが言うスポーツ選手やら
音楽家……、今はミュージシャンというべきか
そういうのを目指せば――」
グーンの回答は速かった。
それがハークが次にいうことを
もしくは問われるだろう事項を
あたかも予想していたようだった。
「そうじゃなくて
仕事内容が知りたい、です」
「ははは! 先生、早とちりですな!」
ウィルクスが茶化すも
グーンは書類に目を止めたまま
手にした万年筆で頭をかく。
「……私がしているのは
両者の意見やそれまでの行動
背景に心情なんかを見極めている。
それが今回の件でどう繋がるか
どう理由づけになるかを
来る短い裁判中に証明できるかだ」
「それが出来る、のですか」
「違う。するんだ。
必ず、そして真実とやらを導く」
出来る、ではなく、する。
それも、必ず、という。
書類に向かいつつ
顔色ひとつ変えず
グーンはそう言い切る。
その言葉は、ハークには衝撃だった。
なぜそうなのかは、今のハークには
理解は出来ずにあった。
しかし、グーンの言葉は
確実にハークの脳裏に焼き付いた。
では、グーンの言う
見極め、どう繋がり
どう理由となり、証明するか
ハークは考えを巡らせる。
「先生は難しいまま言いますな!
甥っ子さんが困惑してますぞ!」
「あまり説明など出来るものじゃない。
だから、興味など持ってくれるな」
「ははは!」
「なぜおまえが笑うのだ」
ウィルクスの手は休まることはなく
グーンの持つ万年筆は
書類にインクを刻んでいく。
* * * * *
「ウィルクス。ナドル裁判官は?」
「ははっ! しばしお待ちを!」
ウィルクスは予定がぎっしり
書き込まれた手帳を取り出す。
本来は大きめの手帳だったようだが
端から飛び出る付箋が
一種のアートのようにきっちりと
等間隔に並んである。
そのため、分厚い一冊の本のような
状態をなしていた。
「……予定では先ほど
2つ目の裁判を終えて
現在休憩中と思われます!」
「次の裁判は、確かーー」
グーンの一言に
すぐさまぺらぺらと数ページめくる。
「露天での窃盗と傷害、ですぞ!」
「なに。それは、他の裁判官が
請け負うものじゃないか」
「今日は他に裁判担当者が
いないですぞ!」
「まて。常駐の裁判官はどうした。
非常勤でもいるはずだろう。
職務怠慢では」
「いえいえ! 裁判官の皆様の
休暇理由のほとんどが
『勉強会』とあります!」
「勉強会、か。まったく
勉強熱心で頭が上がらないな。
ーーまたあそこか」
「ご慧眼で!」
パタンと手帳は閉じられる。
グーンは眉間にシワをよせつつ
頭を抱える。
「おや! 仕事が終わりました!
では、しばし失礼します!」
ウィルクスは仕事を
ほとんど終えたようで
部屋からすぐさま出ていった。
「(仕事は出来るし、予定もメモしてある。
あのやかましさとニオイを我慢すれば
使える男だ。だからこそ、その欠点が
気になって仕方ない……)」
* * * * *
「――博士達は」
「む?」
「博士や他のスタッフの人たちは
子供たちを保護して、いろいろやってる。
一人でも生きていけるように。
一人でも多く助けて、悲しいことに
ならないよう、頑張っている。
いま居ないレムザさんは分所のリーダーで
ベルードは子ども達を見つけている。
博士はみんなの治療のために健康診断や
施設をより良くしようとしていた。
俺の後に、エリーさんが来て
お金の管理をしていた」
ハークはソファに座ったまま
グーンへ伝えようとしていた。
「……そうか」
「だからーー」
「それを決めるのは、私ではない」
「だからこそーー」
「私は、真実を証明するだけだ。
それ以外の事など、知る由などない。
君が話したことは、君自身が見た景色だ。
私が、ばあさんが、あのユミナという赤子が
同じような世界を見ることなど不可能だ」
グーンは万年筆を止め
ハークへ眼を移し、言い放つ。
「……っ!」
視線に気づき、ソファのひじ掛けに
ハークは手をかけ立ち上がろうとする。
「憎いか。だが私の出来ることなど
ただ、それだけだ。分かるかね」
グーンはそれをイナすように
言葉ひとつ、放つ。
「それって……」
「ーー時間だ」
グーンは腕時計に目をやる。
すくりと立ち上がり
書類をトントンとまとめあげる。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
便宜上、次話で9話が
終わり予定です。
続きます。
次話投稿予定は
2021.8.30(月)です。




