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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】も、裁かれるのか
63/318

裁判官 イヴェル夫妻

便宜上、ここから9話です。

よろしくお願いいたします。

「……なんだ。騒がしいな」



レグリシス山脈近くの駅。


そこに時刻通り到着した電車の中。


あまりにも騒々しく乗り込んできた

レムザ、ハーク、ユミナ、そしてイチモ。


その四人に目を向け

声をかけるは、車内でひとり

四人席に座った老人であった。



品のよい紺のコートを羽織り

席横に黒い大きな鞄を置く。


顔に刻まれた深いシワと

四人の全てをも通さんとする

鋭い眼光を持つ壮年の男である。


「驚かせて申し訳ありません。

 我々は急いでいたもので――」


「急ぐにもほどがあるが……。

 まぁ、なんだ。二人、いや三人担いで

 やってくる男を見たら……。

 それに、その様子だと、乗るのは

 電車これじゃなくて、救急車の方が

 いいだろうに」


そう言って老人はイチモに指さす。


老人はピクリとも動かないイチモに

不審そうに様子を伺っている。


「あ、あの!

 実は雪崩に呑まれそうになって!

 二番目の兄貴が驚いて伸びて

 仕方なく一番上の兄貴が全員担いで

 スキーで逃げてきたんですっ!!」


ハークはここに来る前の

イチモとのやり取りのように

大袈裟に話を広げ、まくし立てた。


あまりに突飛な話に

老人はポカンと口を開けた。


老人は四人の様子を

もう一度よく眺め始める。



三人を担いでいる大男には

黒のスーツに白いマフラーをしている。


先ほど話にあったことが本当なら

所々に雪、もしくは融けて水滴となり

少なからず濡れたシミが見えるはず。


老人は大男の前身を注意深く見ると

ようやく膝の下あたりに数か所だけだが

水滴が見えたのを確認した。



次に大男に担がれている

二番目の男に目を向けた。


微動だにせず、ただただ

まるでマネキンのようにも見えたが

しかしゆっくりとだが、鼻がひくひく動き

呼吸していることが分かった。


状況を説明した少年、と赤ん坊の

ふたりは特に気にする様子もなく

ようやく腑に落ちた様である。



「もしかして駅向こうにある

 レグリシス山から降りてきたのか。

 ……あの山で、その様子なら仕方ない。

 年に何度か揺れ、その度に雪崩が起こる。

 しかし、服装が――」


「あら貴方。どうしたの?」


声をかけたのは、老人とおなじ

品のある紺のコートを羽織った

整えられた白髪、小さくも装飾が施された

黒い帽子を着こなす老婦人であった。


「あぁばあさん。三人担いで

 乗車してきた男がいれば

 誰だって気になるものさ」


「あら、あらあら!

 みんな雪まみれねぇ。

 どうしたの? みんなで雪合戦?」


「ばあさん。それなら雪を

 ほろって来るだろうに……」


そうね、と婦人は口に手を当て

笑いながら男と向かい合う席に着いた。


「まぁ、なんだ。

 隣に座ってはどうだ」


「それでは、失礼します」


レムザたちは横の四人席に座った。



* * * * *



男に誘われ、ハークたちは

その横の四人席に座った。


レムザが男に近い席に。


その横、窓側でぐったりと

横たわらせるはイチモ。


ハークはユミナを膝にのせて

老婦人に近い席へと座った。


「あら可愛らしい子ね。

 見たことない服。いい髪色ね。

 違う大陸の人?」


「い、いえ。ユミナはーー」


「あらぁユミナちゃんっていうのね!

 可愛らしいわ。服の模様も面白いわ。

 よく見せてちょうだい!」


老婦人から手を伸ばされ

ハークは慎重にユミナを渡してやる。


老婦人はユミナの服を眺め

自身の膝に乗せてやると

髪色をじっくり眺めた。


「綺麗な髪ねぇ。服の模様も初めて。

 面白いわ。それに、こんなに可愛らしいわ」


「うぇっへへ」


婦人に褒められ、ユミナは満足そうである。

婦人の膝の上で無邪気に笑っている。




「ところで、君たちはどこへ行く。

 これはレグリシス山脈を沿って

 東のバルドリア山麓行きの列車だが……」


「はい。私たちは一度

 大陸東南の端へ行くつもりです」


「なんと。まぁなんだ。

 ……あそこに古い知り合いが居る。

 アナグマという男でな」


「博士をしーー」


ハークが言いかけたとき

レムザはそれを止める。


「そのアナグマ氏、は存じませんが……。

 ――失礼ですが、もしや貴方は“慧眼けいがん

 イヴェル・グーン1等裁判官では?」


グーンという名前を出され

老人は一拍置いた後、口を開いた。


「“慧眼”は勝手に付けられた異名だ。

 ……君はどこかの新聞記者かね?」


「いえ。共通紙エッセイでの

 取材記事を拝見していたのです」


「あら、よかったわねぇ貴方。

 取材受けて、お読みくださった方が

 実際にいるなんて!」


「ばあさん……」


「では、もしやご婦人は“無冠むかん

 イヴェル・ソニア副裁判官?」


「あら! 私も覚えてくれていたの。

 嬉しいわ。この歳で誰かに覚えて

 いてくれるなんて、今日はいい日だわ」


「あうー!」


ソニア婦人はニコニコしつつ

ユミナをあやす。



「私たちはね。その仕事でね

 博士の所に行くのよ。

 それで、聞けば、この人の知り合い

 って言うから、私は楽しみだわ」


「ばあさん。頼むから仕事だ。

 きっちりしてくれ。それに今回は

 そう楽しみに行くものでもない」


「いいじゃないの。

 あんまり知らない人と会って

 はいさようなら、なんて寂しいわ。

 ねぇユミナちゃん?」


「あいっ!」


その通りだ、とユミナは腕を組み

鼻を鳴らして大きく頷く。



「そこの寝ている男は、起きないな。

 よっぽど疲れているのか――」


グーンはレムザの背中で隠れたイチモへ

のぞき込むようにそう言い放つ。

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


続きます。

次話投稿予定は

2021.8.6(金)です。

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