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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
神鯨に、竜たちは挑む
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61/332

奪還、完了

――頼みがある。


ハークは三叉槍となった

鉄槍ウェネスを制しながら話す。


「ハーク君。その銀の腕は」


「分からない。けど、貫かレタ時

 少し、鉄、残っタかも、しれナい。

 タぶんそれガ、身体にーー」


「あい!」


「ユミナが、治したぞ、と誇らしげだ」


「あリガとな。ユみナ」


「うぇっへへ……」



* * * * *



身体の変化に慣れ始めた

ハークはいくらか発音が良くなる。


「それで、どうする?」


「この槍、イチモの元に、戻るはず。

 戻らなければ、取りに来る。そこを狙う」


「だがそれを――」


「レムザさん。ここの全部

 レムザさんの、わるいこの力

 たぶん何かしらの触手、でしョう。

 それを使って。そこを、貫く」


「その後は?」


「……その時、考える」


「ーーやってみよう」



* * * * *



「いくぞッ!」


「頼みまス!」


丈夫そうな二本の木に

レムザは触腕をガッシリ掴む。


ギリギリと限界まで後退する。

その真ん中には、ハークが構えている。


レムザはハークを解き放つ。


ハークはレムザの触手で拵えた

即席人間パチンコで、イチモへ大突進。



速さに耐えられるように

速さを殺さないように

速さで貫けるように

ハークは半竜のまま襲いかかる。


そして宙に置かれた触手付き槍を

一足早く手にする。


イチモへと三叉槍を向ける。


「ハーク君。凄いな。

 ……うん。教えてよかったかも。

 でも、うん、別の形でなら

 僕を分かってくれたのかもーー」


イチモは抗わず

ハークの突進を正面から食らう。


大きな三叉槍の三つ穴。

流れ落ちる血は三叉槍が吸い始める。



鉄槍はイチモの身体を

完全に貫くことはなく

そのまま身体に刺さったままとなる。


イチモは自身の身体を貫いた

鉄槍ウェネスへ片手を添える。



"――死を超え、生を終え、我らは行く。

 あの日を戻れない。あの日へ戻らない"




「なにを言っテ――」


イチモの言葉に鉄槍ウェネスは

サラサラと光の粒となり、散り始める。


「槍が、消エていク……?」


ハークが手にしている鉄槍の存在が

感覚から徐々に消え始めた。



光は天へと昇り、果てていく。


「本当なら、彼を、導くは

 僕、なのに、ね」


そうつぶやき、もう一度

イチモは天に昇る光を眺める。


「これで……、……ッ?!」



うすれゆく意識の中

ホッとしたのも束の間

イチモは目を疑った。


光は天に昇ってすぐ軌道を変え

ハークへと向かった。


そして、半竜ハークの所々に生えた

銀の鱗へと光は集まり、吸収されていく。


それを見たイチモは慌てて

光を払おうとする。


「ーーダメだ……。ダメだッ!!

 エド! どうしてだッ!? 違うッ!

 彼は違う! ハーク君は――!」


あまりの突然のことだったようで

イチモは取り乱した。


エドと呼んだクジラの方へ

目を向けようとする。


しかしそれは叶わず、振り返る瞬間

イチモはぐったりと力なく

そこから倒れ、落下する。



「イチモ、さ――」


ハークも共に落ちる。



地にぶつかる瞬間

二本の触手が受け止めた。


「残念だがイチモ。

 君にはまだ用がある」



* * * * *



その様子を、エアディス

もといエドと呼ばれたクジラは

しばし眺める。


イチモ、ハークが落下し

それを受け止め、その場から

すぐに逃げるレムザ。


おぼろげ且つゆっくりと見つめ

ようやくその状況を理解したのか

クジラ・エアディスは体を大きく動かす。


一振りで何物も吹き飛ばせる巨尾を振り抜く。


巨体は速度を一気にあげる。


その移動だけで空間は揺れ、ねじれる。


逃げ去ろうとしたレムザたちは

空間のねじれ、それに元に戻ろうとする

力に引き寄せられる。



"ヴォォォォォーー!"



クジラの鳴き声。


それは喉を震わせ発している。


周囲は激しく揺れる。



「なんて声だ……ッ!」


「無理だ、レムザさん!」


「心配しなくていい。

 私は、まだ走れるッ!」


レムザの鼓動が強くなる。


それは同時にふたつ同時に動き

今までよりもレムザの身体は

より速く、より遠くへと跳躍する。


クジラ・エアディスの声と打ち消しつつ

レムザはさらに加速する。


立ちはだかる木々を避け

ある時はその木を触腕を振るい

なぎ倒していく。


その様子は何者も打ち壊して

前に突き進む重機のよう。


”ヴォォォォォォォーーーッ!”


エアディスは一層声を強める。


するとレムザでたちではなく

雪山がそれに負けたようで

山々が大きく震え、巨大な雪崩が発生した。


雪崩の速さはレムザたちを追いつこうとした。


「まずいッ!?」


雪崩の中、聞きなれない音。


雪崩に押し倒され、根元から折れ

そのまま巻き込まれる木々が

レムザの目に留まる。


「掴まっててくれッ!」


レムザは勢いをつけ、木々へ飛び移る。


雪崩の速さはクジラ・エアディスよりも速い。



* * * * *



距離が取れてくると次第に動き易くなる。


レムザが木々を触腕でからめとり

即席のいかだを作り上げる。


触腕で舵取りする。


ユミナは意識を失っているイチモの

三叉槍の傷に息を掛ける。



ハークはひとり、エアディスを眺める――

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


続きます。

次話投稿予定は

2021.7.30(金)です。

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