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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
神鯨に、竜たちは挑む
59/327

答えは、彼だった

ーーウホゥホーゥ!


「あぁ! あぁ我が、我が主よ!

 お待ちしておりました!

 あの日から、あの日までの私を捨て

 あの日から、私を下さった我が主!

 あなた様から賜りました、使命を。

 あなた様から与えられました、役目を!

 今日まで然と! お守りしました!」


地の底へ落ちたはずのゴリラ・ジョーが

穴の壁を器用に登りきり現れる。


天に漂うクジラを涙ながらに

手を組んで膝を突き、うつむきつつ

喜び、むせび泣く。



「我が神よ。我らが神エアディス。

 我らが同胞ジョーは、あの日からずっと

 あなた様の命を全うした。

 彼の者に救いをーー」


イチモはそう高らかに

クジラへ言い放つ。


それに答えたか定かではないが

クジラはゆっくりと口を開かれる。


固く閉ざされていた牙は

せり出した牙は開かれていく。



「あ"あ"う"う"あ"あ"」


ユミナが小刻みに震えていた。

否、空気が、全てのものが震える。

施設の方がより強く震えたように見えた。


その様子をクジラから発せられた風圧か

超音波によるものだとレムザと考えた。



「ジョー。彼の神よりお言葉だ。

 『任を解く』と」


「お、おおおぉぉおおお!

 我が神よ。身に余る光栄――」


ジョーが歓喜のあまりに

顔をあげた瞬間、表情が固まる。


ジョーの目の前に

クジラの口の中が見えたのだ。


「あ、あぁ、あぁ……。

 あああああああああ!!」


ジョーはたまらず泣き叫ぶ。

それは先ほどまでの歓喜ではない。


恐怖。


顔の穴という穴から

出るものが出ていた。


その眼で見た世界。


光のない暗闇。外から入るはずの光など

それまでジョーが己の意思をもって

動かしていたはずの指が、腕が、足が

果ては自分自身が、吸い込まれていく。


粒子となり、塵となり

もはや形などあったのかと

思われるほど、ジョーの身体は消えていく。



「主よ! 主よ!

 これが、これが、私の最後!

 は、はは、ははは、主よ!

 お達者で! ははは!」


ジョーは消えた。



* * * * *



クジラの口がゆっくり閉じられる。


イチモは語り叫ぶ。


「我が神よ。我が神エアディス。

 ――いや、エド。遅れてしまった。

 ごめんよ。でも、ようやく手に入れた!

 これでまた一歩近づけたはずだ。

 どう? 少しはーー」


エアディス、もといエドと

イチモに呼ばれたクジラ。


ただ目の前の人間を見据えている。


それまでおぼろげなその眼は

いくらか光を取り戻し

一回り大きく見開かれている。



”ヴォォォォォ……”


低くうなる。


身体の各所から生えていた鱗は

ガラガラと音を立てて

地上へと剥がれおちる。


地上に落下すると

ずしんずしんと土煙をあげる。


「や、やった……。

 少しは鱗が――」


しかしそれだけであった。


鱗は落ちた。

しかしまた同じ鱗が生え揃う。


イチモの表情は直後こそ笑った。


すぐに表情は元に戻り、槍を握る。

それがさも当然な様に。

それが常であると言わんばかりに。

それしか知らないであるように。


「……これもか。ごめんよエド。

 まだだ。まだ僕らの旅路は

 終わらない」 



イチモはウェネスを掲げる。


ほのかに光輝く。


光はウェネスから

赤い液体――血液――を吸いとり

エアディスの皮膚へと入っていく。


"ヴォォーーーーーンッ!"


エアディスは声を放つ。


何かを感じ取れたのか

その巨体をうねらせる。


皮膚の鱗が剥がれ落ちたのち

一部だけ鱗は生えなかった。


そこから見えたのは、紛れのない

クジラ本来の皮膚が見えたのだ。


「やはり、やはり、この血だ。

 ようやくだ。ようやく半世紀かけて

 ようやく見つけた。やはり、やはり

 ハーク君だったッ!」


イチモは掲げた槍を両手で掴み

大きく天へと掲げる。


全ての血液を光で送った

ウェネスは輝きを失い

元の鉄槍に戻った。


エアディスは、みるみるうちに変わる。


およそ半分ほどクジラとは

違う動物の様相が消えた。


まだ口からせり出る牙が

頭から穿たれる絡み合った角が

そのふたつを大きく残った。



* * * * *



「ーーどういうことだ。

 異形のクジラが

 ハーク君の血液によって

 元のクジラに戻った……?」


レムザは理解が及ばなかった。


しかし

イチモは神と呼ぶクジラと共に居る。

ハークをさらい、かつ危害を加えた。


この事実だけは変わらない。


レムザの跳躍は勢いを増す。

目的は達成している。

とにかく駅へと急いだ。


「ーー、ー、ーーー!」


「あー!」


レムザの着地予定点。


その周囲がミシミシと小刻みに揺れる。

レムザがそれを確認する前に、ユミナが叫ぶ。



それをレムザが反応する一歩遅く

レムザたちを狙うように、全てのものが

宙で圧縮されていく。


宙で圧縮に捕まったレムザは

触手を増やし、重圧から二人を守る。


「む……っ! グッ……ッ!!」


レムザの強靭な触手も

ゆっくりと圧縮に巻き込まれていく。



ーーはは、凄いな。流石は赤い悪魔。


イチモはクジラを背にして

レムザたちを眺める。

ここまで読んで頂き

ありがとうございます。


続きます。

次話投稿予定は

2021.7.23(金)です。

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