歪んだ神様の帰還
ーーむ?!
レムザの目の前で
ハークの傷に絶えず
必死に息を吹くユミナ。
「何をしているのだ、ユミナ。
それである治るわけがーー」
何の意味が、と疑問に思い
駆け寄ると、瞬時に理解した。
傷が塞がっている。
しかもイチモから受けた
二つの大きな貫通痕。
ユミナが息を吹く度に
その周りから中心にかけて
徐々に塞がっていく。
一息吹けば、貫通した面から
骨が、肉が、そして血管が生えていく。
それがいままであった位置を
完全に覚えているようで
ゆらゆらとくっついていく。
二息吹けば、内臓はほとんど
つながり終えており
それを丁寧かつゆっくりと
皮膚が覆っていく。
ここまで至るとハークの血色も
いくらか良くなり始める。
「ふー! ふー! ふぅーっ!」
ユミナがこれ以上なく
息を吹くと、ハークの傷は
ほんの少し痕が残る程度まで
治ってしまった。
「ふ、ふぅ……」
ユミナは疲れから
その場にへたりこむ。
「(……これは、ユミナの力か!?)」
レムザは半信半疑ながらも
ユミナへ頭を下げる。
「すまない、感謝する。ユミナ」
「う? うー!」
ユミナは残るわずかな体力で
片腕をあげ拳を掲げ、返事する。
* * * * *
しかし、あまりに未知の事に
信じられないレムザであった。
恐る恐る、膝をついて
ハークの傷跡に触れてみる。
しっかりと皮膚であり
小さいながら脈動もある。
立ち上がり、一息つく。
「戻ろうハーク君。そして、ユミナ。
今ならまだ間に合うはずだ!」
レムザは小脇にハークを
肩にユミナを担ぐ。
「うっ! うー!」
ユミナはぺしぺしとレムザの腕を叩く。
ジョーの攻撃を受けた打撲傷があった。
少し赤みがあり、うっすらと腫れ始めていた。
「む。見抜かれてしまった。
すまない、感謝する。
だが、これくらいは大丈夫だ。
君はハーク君をその不思議な力で
治してくれた。十分に休んでほしい」
「うっ!」
「(言葉は理解できるようだ……
しかし、この赤ん坊は一体……)」
「では、ハーク君を回収。
計画外だが、赤ん坊を保護。
これより、帰還するッ!」
レムザは触手を両足にまとわせる。
「しっかり掴まっていてくれッ!」
バネのように勢いよく跳躍。
混戦の中、壊れた壁から
外へと抜け出す。
* * * * *
--外は雪原。
ちらちらと雪が降り始める。
異様なまでの静けさ。
遠くの森から様々な鳥が
突然飛び立っていた。
雪深い中、レムザは触手を
器用に束ね、静かに着地。
急いで目的地である駅を目指す。
「うー!」
ユミナは指差す。
それは森のある一方向を示した。
「なに。此方か。わかるのか」
レムザの問いかけに
小さな手で、その通りだ、と
親指を上げる。
半信半疑ながらも
レムザはその方へ走り抜ける。
雪深い中を埋まる前に
次の一歩を踏み出す。
立ち並ぶ木々を支柱に
パチンコのごとく一気に進む。
その時、レムザ達の後ろから
ゴロゴロと雷らしき音が響く。
「む、雷か。急がないと」
「あ、あ、あうあ……」
ユミナが小刻みに震え始める。
ユミナの反応に
レムザはチラリと
後ろに目を向ける。
「!?」
そこに居たのは、クジラ。
おおよそ、レムザが知りうる生物で
当てはまったのはそれだった。
先ほどまでいた施設を
それが立つ山をも飲み込めるほど巨大。
背中側は真っ黒、腹側は灰色がかった
シロナガスクジラが、空を泳いでいた。
その身体の至るところには
ボコボコと無数の水疱と
その破裂痕が、遠くからでも見てとれる。
水泡とは別に、ハ虫類のような
ツルツルした色彩豊かな鱗が
ある部分には密集して
ある部分には数枚程度ずつ
クジラの身体に生えている。
背には、形も色も羽も
全て違う鳥の翼が泳ぐための
船のオールの役割を果たしている。
牛や羊などの用途の違う角が
複雑かつ天を突かんと絡み合う。
禍々しい鬼のような角を
頭に合うようにせり立つ。
クジラのその巨大な口には
収まらないほど巨大で鋭い
何者の肉をも引き裂けるほどの
何本もの様々な肉食獣の牙が
遠くからでも見える。
「(クジラ、か?!
否、あれはクジラじゃない。
あまりにも動物の特徴が
共通点が無いのに、多すぎる……。
ーーなんだあれは?!)」
レムザはクジラの口に近い
腹部のシワに目が留まる。
クジラの特徴である
肉のシワの真ん中に
三角錘のようなコブ。
あまりにもクジラそのものが
持つには不自然な特徴に
レムザは目を離せなかった。
「……あれが、大主神とやらか」
それを確信したのは
クジラへ相対する人間。
クジラを見上げ、両腕を広げる男。
雲の切れ間から差し込む光が
ギラリと反射する。
その手には銀に光る槍。
間違いない。
イチモが施設の屋上から
クジラに相対していた。
槍を持ち、クジラへ両の腕を広げる。
イチモの目からは
一筋の涙がこぼれ落ちる。
「おかえり、エドーー」
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次話投稿予定は
2021.7.19(月)予定です




