神は、いない
レムザの触腕が足に絡み
身動きできないイチモ。
すかさずレムザは間合いを詰める。
姿勢を低くし、イチモの懐めがける。
「戦い慣れてます、ねッ!」
鉄槍ウェネスを
足に絡まった触腕へ一閃。
切断面はまっすぐ均等に
力なく、足に絡まったまま
ぐったりと触腕は落ちる。
その場で回転し
勢いそのままウェネスにより
周りが薙ぎ払われる。
レムザは一瞬止まるも
目の前の人物から目を離さない。
鉄槍の一閃を、寸でで止めて見せる。
ギリギリと鉄槍と触腕が拮抗する。
鉄槍から軋む音が短く、かつ確実に起こる。
「ーー子供の味方をしたいと
言ったのは嘘か」
「一体何のーー」
「君が、面接で答えたことだ。
……なぜだ。なぜハーク君を拐った。
なぜ保護の子達の身の上を探った」
「……レムザさん。
貴方は子供達には保護を
より良い環境を与えるのが
必要とお考えでしょう。
だからこそ、研究所に入った。
しかし、僕は知っています。
……それでも全ては救えない。
その一人は、環境が彼を殺し
遺伝が彼を苦しめ、そして彼は
歪んだ象徴となったッ!」
イチモは大触腕を払いのけ
鉄槍ウェネスを確かめる。
今一度握りしめ
その感触に手応えを感じる。
"ヴォォォォォ……"
その時、遠くの方で
低く、わずかに周りを揺らす
音が響く。
* * * * *
イチモ、そして彼の脇に
抱えられたユミナが気付き
その方へと目を向ける。
「ーージョーッ!!
もうすぐ大主神はお帰りだ。
彼の命より、屋敷を守れ。
侵入者を払い除けよ。
願わくば任を全うせよ!」
イチモの言葉に
今まで倒れていたジョーは
その場からガバッと飛び起きる。
その目は朧気で、焦点が合わない。
口は半ば閉じるのが難しいのか
ダラダラとよだれがこぼれる。
「ゴー、ゴーフェ
ル、ティ、シア……ッ!」
ジョーは残った力の限り、身体を動かす。
「我が神が来た。
なら迎えねばならない。
ジョーッ! ようやくだ。
我が神が戻った!」
イチモは闇へ紛れる。
「ッ! ……待てッ!」
イチモへの一撃。
ほんの一瞬伸ばした触腕が、
ちょうどイチモからユミナが
こぼれおちる。
すかさずレムザは
もう片方の触腕を伸ばし
ユミナを奪取する。
ジョーは拳をおもいっきり
地に叩きつける。
「ホ、ホホウッ!
我が主の命、ここに!」
残ったジョーは
胸を大きく拳で叩き鳴らす。
建物は揺れる。
ハークの渾身の一撃を、
胸に刻まれたX字から
吹き出る血を諸ともしない。
巨大な手のひらを
レムザたちに指し向ける。
「守ル……ッ! 我が神に誓ってッ!」
ジョーの姿勢に
レムザはふぅと息を整える。
身体の力を今一度抜き
再度拳と掌を構え直す
「……私にも守るものがある。
いや、守らねばならない。
仲間を、恩師を、誓いを。
そして、この赤ん坊ユミナを!
この子を守ろうとした一人の少年を!」
「ホホゥ!」
ジョーの拳。
力が綺麗に入った一挙。
背や腕から伸びるレムザの触手が
ジョーの掌を押し返す。
次のジョーの一振りは速く、重い。
レムザはそれを避けつつ機会を伺う。
ジョーの側面へと潜り込む。
「小さき者め!」
ジョーの攻撃をかわしつつ
レムザはユミナを奪取する。
それにすかさずジョーが腕をひねり
勢いそのまま、裏拳を放つ。
レムザは避けられない。
「くっ……。すまないッ!」
ユミナを遠くに居る
ハークの元へ勢いよく投げる。
触手を束ねて裏拳を
正面から受け止める。
「あ、あ、あうあー!?!?」
レムザの投擲は
正確にまっすぐ飛ぶ。
ジョーとレムザから
ちょうど手の届かない範囲で
勢いが落ち、ゆっくりと床へ。
ゴムボールのように跳ねて
ハークの近くへと転がるユミナ。
ユミナは起き上がる。
ふと落下した時の痛みが
ほとんどないことに気付く。
自分の周りには
レムザの触腕と思わしきものが
束となって一種のクッションの
役割を果たしていた。
「あう! ……う! あうあー!」
ユミナはその場で
倒れているハークに掴まる。
そして貫かれた傷を見て
ユミナは大きく息を吸う。
* * * * *
「逃げてばかりか! 侵入者!」
「否」
レムザはぐるりとジョーの周りを
一周し終えると、立ち止まる。
ジョーは息が上がっているが
一度の深呼吸で調子を戻した。
「彼の大主神の命
我が成す。覚悟!」
「――神は、居ないから
神なのだ!」
レムザは床を
両の大触腕で叩きつける。
すると、ジョーの視界は沈む。
「ここに居るのは、人だけだ!」
レムザは宙へと跳躍。
ジョーの真上に位置する。
体を回転させ、右腕に触手を束ね
巨大な腕と拳を形作る。
「おおおおおっ!?」
レムザの巨大な拳は
真下のジョーへと圧し落とされる。
自身より巨大な存在に
自身より圧倒的な力に
ジョーは地下へと落とされていくーー
「その信仰心。感服する」
* * * * *
巨大な穴を作ったレムザは
すぐさま穴の縁に触手で掴み
地面へ降り立つ。
ハークを、そしてユミナを回収し
ここから逃げるべく、急ぎ、駆け出す。
「ハーク君! ユミナ! ……むッ!?」
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ありがとうございます
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次話投稿予定は
2021.7.16(金)です




