打ち付けるは風切音か、音色か
「ハーク君、どうし……。
こちらはどちら様?」
「……スタッフとか?」
「少なくとも、僕の電話の
相手ではないね」
大男は頭を掻きながら
ひとりひとり確かめるように
目の前の三人に目を向ける。
一人は自身よりも何倍も小さな男の子。
もう一人はその男の子に抱えられた赤ん坊。
大男は自身のその大きな手のひらを
じっと見つめる。
何かを思い出したのか
手のひらを握りしめ、後ろへ引く。
ギリギリと筋肉のうなる音とは違う
本当に弓矢が引かれる音そのものが
大男の腕から鳴り響く。
――オー。ディ、エル。
――グ、ッド、ブ、ラス、ト。
大男は三人へと拳を突き出した。
それは突風。
まっすぐ突き抜かれた拳の後から
圧された空気が遅れてやってくる。
大男の拳の圧が
三人の態勢を一瞬にして
その場から吹き飛ばす。
その威力、もとい風圧は
外の猛吹雪とそう変わらない。
まるで大男の拳が一種の強力な兵器
大砲のような威力を示した。
ハークはユミナを守りつつも
とっさに身をかわして
真正面に受け止めずに
廊下の側壁に吹き飛ばされる。
「嘘……、ちょ、……うっ」
イチモはちょうど拳の真芯に立ったため
そのまま向こうの端まで吹き飛ぶ。
風圧に耐えきれなかった窓ガラスが破壊
そこから吹雪に横から圧され、落ちていった。
「うー! ……ふー!」
ユミナを守ったハークの体は打ち付けられた。
ユミナは大きく息を吹き掛け
ハークの打ち身をみるみる内に治した。
「あ、ありがとうユミナ」
「う!」
ユミナは手を挙げて
満足そうである。
* * * * *
「エル。ディテ、ィ、カップ」
大男は大きく前へ一歩踏み出す。
ズシンズシンと廊下は衝撃を伝える。
しかしその衝撃は大きく
強いものなのだが、文字通り、遅い。
身体をゆらゆら左右に揺れながら
半歩ずつ進んでいく。
しかしその半歩は
分所内を大きく揺らし
ハークが踏ん張らないと
立てないほどである。
ゆっくりハーク達へ迫る。
「今のうちに逃げないとッ!」
ハークはユミナを抱えつつ
その場から逃げる。
逃げるその先
イチモが吹き飛ばされた方へ
そこしかない方へと
必死になって走り出す。
大男の半歩のタイミングは一定であり
ハークはそれをすぐに見極める。
揺れる瞬間を狙って同時に飛び跳ね
大男よりも早く距離を離す。
「オー、ル、コー、ル……。
ホー、ドネ、ッド」
大男がそうつぶやくと
ハークの駆け出した先へと
上からワープする。
どうやら距離を詰めるべく
大男が大きく飛び跳ねたようであった。
「そんなのアリかっ?!」
ハークは慌ててブレーキをかけて止まる。
大男はもう一度、拳を引く。
「オーディ、エ、ル、ゼシア」
「あー!」
ユミナは横にある少し先の扉を指差す。
ハークは急いで扉を開けて飛び込む。
衝撃がぶつかりあう。
それは外へ向かって
ふたつの衝撃が飛び出す。
外の壁の方が吹き飛び
ガラガラと瓦礫を作り出した。
「待テ」
大男はハークたちが飛び込んだ
部屋の戸へと両手を伸ばす。
体が大きすぎた結果
入ることも出ることもできなくなる。
「あー!」
ユミナは廊下側へのもう一つの戸ではなく
別の部屋へ行くだろう扉を指差す。
「そっちか!」
ハークはユミナを信じ、急いで扉に手をかける。
「待テ。逃ガスカ」
大男は力任せに戸の部分をこじ開ける。
戸が形を残しつつ、大男の腕に絡まったままとなる。
大男は目の前で逃げるふたりを
急いで追いかける。
* * * * *
ハークが間一髪、扉の先へと入り込む。
鍵をかけ、いくらか時間を稼いだ。
その先に在ったのは、薄暗くじめじめした部屋。
物がたくさん置かれている。
全て硬く、ハークがコンコンと叩いてみる。
あるものはカツカツと木の音がした。
あるものはカンカンと高い鉄のような音がした。
あるものは、ドンドンと大きな音が響いた。
部屋の一角、一線の光が差し込む。
その光に照らされた部分、厚手のカーテンが見える。
ハークはそれを開ける。
ようやく光が差し込み部屋を照らす。
見えたのは、そこが多くの楽器が
置かれた部屋であった。
「楽器。音楽室ってやつか?!」
続きます。
次話投稿予定は
2021年6月21日(月)です
【報告 2021.6.20】
次話で7話(2021.6.21)終わりです。
その次は8話もしくは
区切り(2021.6.24)の予定です。




