ハークとホーリーとで脱走
「――えぇ、大丈夫。ウォートとクラック、行ったの?」
ホーリーが画面越しに問いかける。
「分からない。
けど、レムザさんたちが一緒に行ったから
何事もない、と思う」
監視室にはモカウ棟にある部屋すべてに監視カメラがある。
ベルードの話曰く、部屋全体を神木モカウで作ったことで
部屋の中を全体的に見渡せるという謎の力があるらしく
モニター越しに部屋の様子が見渡せた。
3と4の部屋。ウォートとクラックと呼ばれた子供たちの部屋。
モニターからは誰も居ないことが分かる。
中は、机やベッドが綺麗に整頓されていた。
「二人は仲良しなの。
いつも一緒に遊んでいるのを見かけた。
でもどうして二人して、わるいこになったのかしら?」
ホーリーは二人の話ばかり話した。
ウォートとクラックは兄弟ではない。別々の場所で発見され
わるいこ研究所内で3番目に長く暮らしている。
運動が大好きで、所内で走り回っている様子が見受けられた
とホーリーは詳しく話す。
「……もしかしたら、二人は分かったのかもしれないわ」
突然の言葉に、ハークは興味を抱いた。
ホーリーにそれを尋ねると、話を濁す。
レポートにこのことを書かないことを約束するなら
と交換条件を提示された。
半信半疑だったが、ハークはそれを約束し、ホーリーに尋ねた。
「――実はね、ここはわるいこ研究所の他に
もうひとつ違うことをしているの。
人身売買。つまり、子供を捕まえて
誰かに売り飛ばしてしまうことをしているわ」
「人身売買? ……」
「大体はどこかの国の奴隷になるって私聞いたわ。
……わるいこって、化け物だからすごく強いの。
どんな兵器よりも強いから、兵士になる子もいるの。
二人は運動好きだし、すごく強いわ。
きっと兵士として売り飛ばされたに違いない!
もうすぐ私も売り飛ばされてしまうかも……」
あまりにも突飛な話に、ハークは嘘じゃないかと疑った。
しかしここに来る前に、ハークはモカウ棟前で
レムザたちが荷台に乗り込む姿を見ている。
もしかしたら、ホーリーがいう人身売買の最中ではないか。
もしかしたら、自分もそうなのではないか?
体よく職員としているけれど、いつかは人身売買されて
酷いことに巻き込まれるんじゃないか?
この1週間、大方レムザとベルードだけだが
とても良くしてくれていることに、ありがたさがある一方
なぜそこまでしてくれるのか分からなかった。
それがホーリーの言う、人身売買までの道のりの一つではないか。
ハークはホーリーの話を信じることにした。
「……ねぇハーク、一緒に逃げない?
私、いい逃げる場所を知っているの。
今日の夜、私の部屋だけ開けてほしい。
そうすれば、私が案内してあげる。
大丈夫。私、知っているわ」
ホーリーはその内容を軽く説明した。
ウォートとクラックを博士の元へと
厳重に移動させるには、レムザやベルードほどの
手練れでないといけない。大体は明朝までは戻ってこない。
その時間。まさに今夜が絶好の脱走できる日である。
「どうして、それを教えてくれるんだ?
ホーリー。申し訳ないけど、理由を教えてくれ」
「貴方、家族から見放されたんでしょ?
分かるわ。私は、お母さんと離れて暮らしている
いまがとても苦しいの。早く会いたい。
お母さんの知り合いに掛け合えば
貴方の家族も見つかるかもしれないわ!」
家族が見つかる。
それだけでハークの心は決まった。
ハークとホーリーは、互いにここから出る事
その為に、互いに協力して脱走する事を
二人だけの約束を交わし、その場を後にした。
* * * * *
その夜。
研究所内は静かであった。
しかし、よく見ると、警備は厳重であった。
武装した兵士が、内外問わず歩いている。
ハークはゆっくりと職員用の部屋を出る。
職員は非常時にすぐ動けるよう、灯りがついている。
ハークは死角を使いながら、モカウ棟を目指した。
辺りは暗く、最低限の灯りだけが点在しているだけ。
兵士が数名ほど巡回しており、たびたび手持ちライトが
辺りを照らし出している。
モカウ棟の扉は、本来なら消灯時間になると
内側からは空けられない。
だが、外からなら職員であれば開けられる。
ハークは職員であるため、棟内への侵入は容易であった。
ガチャリと監視室へと入る。
日中に訪れた時となんら変わらなかった。
ふとホーリーの部屋の様子に目を向けた。
ひとり、部屋の中で日記をつけている様子が映っている。
ただ、数枚ほど書き間違えたのか、日記帳からはがして
くしゃくしゃに丸めて机に転がせていた。
「きっと、話にあったお母さんと逢えるだろうから
その気持ちを書いているんだろう」
ハークはそう思い、ホーリーの部屋を開けるために
必要な操作を行おうとマニュアルに目を通す。
すると、ホーリーの部屋を映す画面が操作不良なのか
ザザ……、ザザ……、と音を立てながら白くなってしまう。
「ん?! な、なんだ?! 故障!?
それとも、ホーリーに何か……。
ホーリー? ホーリー、聞こえる!?」
ハークが部屋へ連絡すると、すぐに画面が元に戻る。
白かった画面は部屋を映す。
先ほど見た様子とほとんど変わらなかった。
「あぁ、ハーク。待ちくたびれたわ。
さぁ、早く部屋を開けて。出たら部屋を閉めて。
そしたら、行きましょう」
ホーリーは日記帳を抱えて、部屋の扉で待った。
すぐさま部屋を開けると、ホーリーはゆっくりと部屋から出た。
周囲を確かめ、扉の横の柱に寄りかかる。
扉を戻し、ハークは急いでホーリーの元へ向かった。
「待たせた、ホーリー。それじゃ、行こう。
……どうやって行くんだ?」
「隔離棟とモカウ棟の中間。
ゴミ捨て場の焼却炉から脱出できるわ」
それは焼却炉の構造を突いた脱出方法だった。
夜間は焼却炉で焼かれたゴミを外の排出口へと送りだす。
子供一人くらいなら、脱出できるという算段だった。
ふたりは暗闇に紛れてゴミ捨て場へと至る。
焼却炉の重い鉄の扉を開けると
黒く焼け焦げた塊がまだ残っていた。
「残っているってことは、今から排出されるのか?」
「たぶん、そう。もしくはただ固まっているだけで
押し込んでしまえば……」
ホーリーは焼却炉横に置いてあった火かき棒を手にする。
ザクザクと塊を刺していくと、ボロボロと下へと落ちて行った。
それじゃ先に案内するわ。とホーリーが先に焼却炉の下へと入っていく。
ハークがそれに続き、ゆっくりと焼却炉の扉を内側から閉める。
続きます
2021年2月18日
モカクをモカウに変えました。作者の打ち間違いです




