ふぅ、と息をかければ
足跡の幅はだんだん大きく
かつ新しいものになりつつあった。
それが靴底の跡であることは見て取れた。
また、ハークの靴よりも一回りも二回りも
大きいところを見るに、大人。
探しているイチモ、もしくは
先ほど出逢ったレムザの物では
ないかとハークは考えた。
ついで真っ直ぐな足跡は
徐々に乱れ、あちこちに現れ始める。
それに交わるように
横から靴とは全く違う丸い足跡が
深く雪に刻み付けている。
ポツポツと血痕らしき赤色が
足跡を中心に飛び散っていた。
「ど、どっちの血だ?!」
イチモがクマと遭遇し
逃げた、もしくは戦ったのではないか。
それもかなり激しい戦いではないか。
ハークは息をのむ。
「うー!」
ユミナは続けて指し示す。
血痕は続いており
先ほどよりも新しく
かつ鮮明であった。
「(なんでユミナはわかるんだ?)」
ユミナはハークの頭の上で
せわしなく動きながら
周りを眺めている。
* * * * *
歩み続けたその先、
拓けた雪の地の近く。
木の幹に身体を預けて
座り込むイチモが居た。
「イチモ!」
ハークは慌てて駆け寄る。
それに気づいたイチモは
ハークへ目を向ける。
彼は左腹部を右手で押さえていた。
服の上からでも、血がにじみ出ている。
また右の上腕に何か鋭いもので
斬られた痕が二ヶ所あった。
幸いイチモはわずかだが意識があった。
彼は服に付けられたポケットから
物を出して欲しいとジェスチャーする。
「な、なにかあるんだな?!
待っててくーー」
ハークがそれを取ろうとしたとき、
勢い余って赤ん坊ユミナが
イチモへと滑り落ちる。
突然の衝撃にイチモは堪えるも
何とか保った。
「ご、ごめん! ユミナ、戻ってくれ。
……ほ、包帯か。これを巻けばーー」
ハークがそれを
イチモの右腕の傷へ
あてがおうとしたその時。
「うー。ふぅー、ふぅー」
ユミナはイチモの右腕の
傷口に息をかける。
それはごく自然に
したことのように見えた。
これにはハークは目を疑い
暫し眺めていた。
「ふぅー!」
ユミナは口から大きく息を吹く。
そのままイチモの左腹部へ体を動かす。
「ーーな、何してんだ!?
お、おり、ーー」
ユミナを引き剥がそうとしたとき、
ハークの目はイチモの右腕に留まった。
「治……ってる?」
服は引き裂かれていたが
その下の傷はほとんど
塞がっていたのである。
傷の周りにはカサブタが
ちらほらあるも、治っているのだ。
ユミナはハークの手を振り払い
イチモの左腹部へ向かう。
「ふー、ふー」
同じく息を吹いている。
何度か細かく吹き、
数度行った後には、
腹部の傷は大方治っていた。
* * * * *
「助かったよハーク君。
――この子が治してくれたんだね。
ありがとう」
イチモは傷の具合から
目を疑うも、念を入れて
包帯を巻き付ける。
「むふー!」
ユミナは得意気である。
しかし傷が治るとイチモから
すぐに離れて、ハークの近くに
しがみついている。
「ハーク君が気に入っているようだね。
この子は、どうしたの?」
「実は、落ちてきたんだ」
「……えぇ?」
これまでのことを話す。
雪から落ちて途方に暮れているとき
雪と共に落ちてきた謎の赤ん坊。
髪止めに書かれた文字から
ユミナであると思われる、と。
「ユミナ、ちゃんかな。
ハーク君、その髪止めの文字
読めたの?」
「――いや、何となく。
たぶん語感がユミナには
合っていると思うんだ」
「なるほど。……けど助かったよ
ハーク君がいきなり居なくなって
慌てて探したら、白熊に出くわして。
逃げたり追い払ったりして
結局この有り様でね。
ははは、参ったよ」
イチモは立ち上がる。
傷の具合はほとんどよくなり
腕を振るって見せる。
「生死の境目だったのに
呑気すぎじゃないか!?」
「うー?」
イチモはその後
白熊が何かを察知して
逃げていったと続ける。
ハークたちは
新たに赤ん坊ユミナを連れ
カマクラへと戻った。
続きます。
次話投稿予定は
2021年6月10日(木)です。
※2021.6.8 細かい表現など修正しました。




