第1種危険生物・元気な赤ん坊
便宜上、ここから7話です。
よろしくお願いいたします。
「まー!」
赤ん坊はハークの顔を見るや否や
満面の笑みで喜びを表した。
「うー! うー!」
突然落ちてきた赤ん坊は
ハークの顔に短い手を
力いっぱい伸ばす。
ハークは何かあるのかと
顔を近づける。
「あうあー! うっ!」
”ガシッ!”
赤ん坊はハークの頭をガッチリ掴み
力強く自分の方へと引き寄せる。
そのまま抱えるように
ハークの頭にしがみつく。
「うー! うー!」
"ぎゅうううっ"
「痛たたたた!?」
ちょうどハークの鼻と口が
赤ん坊のお腹に当たり
密閉状態となる。
赤ん坊の力がだんだん強まり
抱え込まんとハークの頭につかまる。
だんだん息苦しくなる。
ハークは赤ん坊を引き剥がすべく
腕に力を入れる。
「おい、ちょっ……
離れ……離。
離、れ、ろ!」
赤ん坊の体は
ようやくハークの
鼻と口からは離れた。
「あー! あうあー!」
しかし、代わりに赤ん坊は
ハークの頭上に位置を変え
ずっしりとのし掛かった。
「うー!」
赤ん坊は成し遂げたと
言わんばかりに片腕をあげて
喜んでいた。
「……重い」
* * * * *
一通り満足したのか
赤ん坊はようやく落ち着いた。
「(いったい何だ。この赤ん坊は)」
ハークは自身の前に持って
注意深く眺める。
見慣れない青や
水色の花模様の服。
半円がいくつも散らばり
局所的に複数重なった円が
無造作にではなく規則性をもって
描かれたようである。
裾の端には荒れ狂う大波の絵。
白や青の濃淡により
それは立体的に見えた。
何枚も同じ服を着込み
それは上と下と分かれておらず
兼用していることがわかる。
黒髪か、と思えば
近くで目を凝らすと
少し青みがかっていることがわかる。
赤ん坊にしてはその髪は長く
肩を越えて腰辺りまで着くほどである。
また、髪量が多いのか
赤ん坊自身がすっぽり
髪で覆ってしまえそうである。
目は大きく、瞳は金色である。
黒目もあるが、ハークが見てきた
人たちと比べて、少し縦に長い気がした。
「赤ん坊、だよな?
なんでこんな所に。
……て、あだだ! 力強っ!?」
「う? あー!」
赤ん坊はふと
先ほどハークが手にした
金色の小道具を見つける。
すぐさまそれを力づくで奪う。
我気にせずと小道具を
棒つきキャンディーのように
べろべろ舐める。
ハークが決死で
取り返そうとするが
赤ん坊の力は強い。
離さなかった。
「まて!
これは食い物じゃない!」
「うううーっ!」
「力、強っ?!
こんなに強いか!?」
赤ん坊は小道具を離さない。
両者は力の限り引っ張り合った。
* * * * *
小道具はハークの手へと渡った。
舐めたおかげで、よだれのついた方を
赤ん坊が掴んでいたおかげで滑り
勝敗が決まった。
赤ん坊のよだれでべとべとになる。
「すごい状態だな……」
仕方なくハークは、服に備えてあった
小さなタオルでよだれを拭う。
「うー! あー!」
赤ん坊は小道具にご執心であり
離した後も、ハークへ近づき
それを奪おうと必死であった。
「わかったっ! わかったから!
こうすればいいか!?」
仕方ないので、ハークは機転を利かせ
間違って飲み込まないよう
赤ん坊の長い髪を頭の上で
ひとつにまとめる髪留めとして
付けてやった。
「おー? おー!」
赤ん坊は心なしか喜んでいるようで
それをハークにチラチラと見せつけ
最後には腰に両の手をつけ
胸を張って自慢する。
「むふーっ!」
「……あー、嬉しい、て奴か」
「う? あい!」
「言葉は分かる
でいいのか……?」
* * * * *
「何かわからないか」
赤ん坊の手がかりが無いかと
ハークは落ちてきた木の根元を
見てみる。
雪に埋もれた中
ガシガシと雪を掻く。
地上に出ている表面であれば
簡単に掻くことが出来たが
だんだん下になるにつれて
固く、そして凍っていて掻けなくなった。
すると掘った先に
白ではない赤や黒の線が見えた。
それが木の根ではない。
絵の具か植物の実の類ではと
ハークは考えた。
それを追って木の反対側まで来ると
何かが雪に埋もれているのを発見した。
すぐさまその辺りの雪を掻き出す。
「……っ!?」
ハークは突然のことに驚き、後ずさる。
そこには赤ん坊と似た服を着た
うつぶせの若く長い髪の女性、
の死体。
恐る恐るその女性へと目を向けた。
腹から大量の血を流していた。
顔は青白く、息を引き取った
後であった。
背には何度も刃物か何かで
斬られた痕が見受けられる。
時間がしばらく立っているようで
傷痕は黒く変色していた。
腹は、文字通り
何も残っていなかった。
臓器という臓器全てが
血も肉も何もかも
そこだけをそっくりそのまま
くり貫かれたようだった。
女性の髪は赤ん坊と同じ
青みのある黒髪である。
乱れてあった。
何かで留めていたような跡が
一部の髪に残っていた。
「まさか、この子の
母親、か……?」
* * * * *
この人は、今まさに髪留めにし
金色の小道具を誇らしげに付け
自分に何度も見せつけてくる赤ん坊と
何かしら関係ある人だ、と。
ハークの考えが
ふと、そこから飛躍する。
この赤ん坊と女性は親子で
何か追われることとなった。
先ほど出会った白熊かもしれない。
追われどうしようもなくなり
やむ無く木の上に赤ん坊を隠した。
母親であるこの女性は
その追っ手によって
腹をくり貫かれた。
赤ん坊だから、気づいていない。
理解していない可能性もある。
ハークは赤ん坊に
女性の姿を見せないよう
目をおおったり後ろを向かせたりし
とにかく注意を払った。
「(この子。ひとり、か……)」
この赤ん坊は、間違いなく
頼る人のいない天涯孤独。
ハークは、心なしか
最近まで家族と別れ、ひとりであった。
そんな境遇に通じるものを感じた。
「放っておけない、よな」
「うー?」
「――さっきレムザさんが居たから
頼め、ないか……。
いや、博士に言えばもしかしたら……」
ハークは赤ん坊を助けることに
頭がいっぱいになっていた。
「うっ! うー! うーっ!」
ハークの想いとは裏腹に
赤ん坊はそんな事など構うことなく
ハークの頭の上で手足をバタつかせ
無邪気そうに遊んでいた。
続きます。
次話投稿予定は
2021年6月3日(木)です。




