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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
南の雪嶺 レグリシス山
43/318

ピンチをチャンスに。落ちますとも

――私を忘れたか。ハーク君。


ふと自身の後ろから男が顔を覗かせる。

黒髪のオールバックに額の丸傷。

タバコをゆっくり吹かすレムザであった。


「え!? え?!

 レ、レムザさん!?

 ど、どうしてこ――」


ハークの口が

レムザの手のひらに覆われる。


「静かに。ハーク君。

 用件だけ伝える」


レムザは周囲へ耳を立てる。


誰も居ないことを確認すると

覆っていた手を放した。


* * * * *


――まず、言うことがある。


「ハーク君。いま君は

 行方不明となっている。

 端的に言えば、誘拐されている」


「(……え?!)」


レムザの言葉に

ハークは呆気にとられる。



イチモの話では

本部に居た博士やベルード

それと子供たちが

バルドリア山麓村からの訴えで

全員逮捕されたとなっている。


そしてレムザからは

協力者を頼る、逃げろ、という

旨をイチモから聞かされている。


「半分事実であり、嘘の話をしたか。

 幸い、博士や他の保護の子たちも無事だ。

 それは確認済みだ。安心してほしい」


「……良かった」




「……イチモが俺を誘拐する理由って!?」


「現時点では分からない。

 ただ間違いなく、君を拐ったのは

 イチモ本人だ。それも今回の件を

 予感していたようで」


レムザは話を進める。



「いま君たちが向かっている先は

 イチモの話通り、レグリシス山脈の中腹。

 しかしそこは研究所の分所ではない。

 ……わるいこ第一症例と呼ばれる人物、

 その人がいたと思われる場所だ」


「……え?」


「第一症例についてはともかく。

 まずは、イチモから逃げろ、

 すぐにここから離れて……、と

 言いたいが、すまない」


「なぜですか? もしかして

 助けられない、とか……?」


「違う。今からでも助けられる。

 しかし、逆に今がチャンスなんだ。

 イチモの素性がようやく明らかになる

 絶好の機会だ。そこで、だ」


「……『そこで』?」


レムザはどこからか

タバコを取り出す。


重厚そうな銀のライターの火で

先を点け、ゆっくりと口にする。


よく見る銀のライターには

角にはひしゃげた傷がある。


シンプルで装飾のないライターの

銀塗装も剥がれかけ、

ひっかき傷が多く見受けられた。


吐き出された煙は宙に漂う。

しかしタバコ独特のニオイは

ハークの鼻ではわずかしか

感じられなかった。


狭く、一時的な雪の中でありながら

タバコの煙や火などからくる

閉塞感、圧迫感といったものは

ハークにはほとんど感じなかった。


一口吸う。一呼吸置いた後、言い放つ。




――そのまま、イチモにさらわれてくれ。




「はあああああ??!!」


ハークの叫びは雪の中であったが

どこまでも突き抜けて行った――



* * * * *



「私と出会ったことは

 イチモに悟られない様に。

 すまないが、私はやることがある」


「待ってください! 訳が分かりません!

 さらわれてくれ? 悟られないように?

 なぜその、最初のわるいこが居た所に?!」


「……イチモ自身

 経歴自体が不明な点が多い。

 ゆえに、今回の動きについては

 経歴の穴を埋められるであろう

 確たる証拠になる」


レムザは雪に押し付け

タバコの火を消す。


タバコを手のひらで握り

次に開いた時には跡形もなく

消えてなくなった。



「ハーク君。今回の件は

 君がさらわれた人間だから

 ではない。一番は、君だからだ。

 良くも悪くも、君自身が

 『ホーリーを夢中で助けようとしたこと』

 何よりも私からみれば、信用に足りうる。

 これだけは約束しよう。

 必ず全員助ける」


レムザはその場から姿を消した。


「『信用に足りうる』か。

 『必ず全員助ける』か」



* * * * *



ハークは雪の中から脱出する。


雪の平原に立ち尽くす。


「……どこから来たんだ。これ」


周りはどこも

同じような風景であり

ハークは辛うじて残された

脱出した穴を頼りに歩き出す。


「(熊はいない。

 どこかへ行ったんだろう。

 足跡は……あった。

 これに気を付ければ

 熊とは会わないはず、だ)」


ハークはとにかく歩き出す。

レムザの言葉が気になるも

とにかく戻ろうとした。



「はぁ……はぁ……寒い」


雪が吹き付ける森の中を

ハークは歩く。


雪の降り積もる道は

思うよりも体力を奪う。


見知らぬ土地で

足をとられうまく歩けない。


ハークには負担の大きい状況である。


また、風が雪を運んで突風となり

ハークに襲いかかる。



一際強い風が吹いたその時。


風が止む。


一切の空気の流れが穏やかとなり

ハークの目の前に金色の光が

ひとつの球体がごとく現れる。


先程まで周りの風景を飲み込み

幼き子の行く先を惑わす

雪で飾られた木々が

光を避けるべく動いていた。


金色の光がひとつの塊となって

ハークの目の前まで近づく。


ハークはただただ何の事かわからず

呆気にとられている。


金色の光はハークの足元に

何かを雪の地に落とす。


金色の光はその後すぐ失せ

木々の奥へと消えていった。


「なんだったんだ……?

 うん? 光っているな」



そこには鈍くも光る

金色の二本角の小道具が

置かれていた。


小道具には

何かの花を模したような

細かな装飾が施されている。


ハークの手に持っても

大した重さはない。


しかし作りは頑丈で

少し力を入れても

曲がらなかった。


「何か理由あってくれた、

 のか? ……ん?」


"ミシミシ"


ハークが小道具に注視するなか

上から音が聞こえる。


"ズンッ!"


音と共に、ハークの頭上に何か降ってきた。

それは雪ではない形ある重さ。

ずっしりと勢いそのまま頭にのしかかる。


「……ッ!?」


ハークは何かと理解しうる前に

雪へと突っ伏した。


「今度は何だ! 石か!

 それとも雪玉か!?」


ある程度の重さがある。

固くはない。柔らかくはある。



ハークは頭にのしかかった物を

ぶっきらぼうに片手で掴む。


その感触は雪にしては温かく

石にしては柔らかい。


目の前に現すと、そこには

ちょこんとすました顔で

何があったと言わんばかりに

ハークの顔を眺める――赤ん坊。


「まー!」

お疲れさまでした。

ここまでが6話です。


続きます。


次話投稿予定は

2021年5月27日(木)です。



次回は7話もしくは

区切りの話を投稿します。


よろしくお願いいたします。



追記:5月24日(月)18時18分

次回は区切りの話を投稿します。


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