見学と実習
――窓の外は一面銀色になる。
木々は数本ほど
生えているのが見える程度。
他にはレグリシス山に
連なる山の一部が見てとれた。
どれもレグリシス山よりも低く
雪が積もり、白と灰色の二色で
塗りたくられていた。
「次はー、レグリシス山麓ー。
お忘れ物なく、お降り下さいー」
山麓の駅は
古く質素な駅舎と
ベンチがふたつ。
改札はなく、
出入り口らしき順路に
そって歩いていく。
「……ほ。おやおや、乗客が来おった。
見慣れない人、いや見慣れた人。
さてどっちだったか。まぁええか。
切符を拝見します」
真っ直ぐな背筋で
目を細める駅員らしき
痩躯の老人である。
イチモは二人分の切符を手渡す。
切符を受け取った老人は
目が悪いのか切符に目を凝らす。
「はぁはぁ。
遠い所からお出でで。
お疲れさンです。
して、山に登るんで?」
イチモの手にあるパンフレットを
指さしてそう問いかけた。
「え、えぇ……。
用事があるんです。
なにか?」
「いやぁ山の天気は
移りやすいンでね。
この時期は特に」
ハークは駅舎の窓から
外へ目を向ける。
先ほどの景色に加え、
猛吹雪が吹き始める。
積もった雪を巻き上げ
窓に打ち付けるような
勢いであった。
「急がないといけないんです。
駅員さん、何とかなりませんか?」
「うーん……。あぁひとつだけ。
一時間すればバスがあるから
それに乗れば……」
「こんな大雪で
動くバスがあるのか?」
「おぉ?
あぁ弟がおったか。そう。
専用バスが動いとるんだ」
専用バス、というフレーズに
ハークは期待を膨らませた。
遠くからゴォンゴォンと
駆動音が鳴り響く。
ハークの目の前に止まったのは
巨大な塊であった。
バスはバスでも
寒冷地専用の巨大バスである。
吹雪で打ち付けれられたはずの
雪などもろともしない
黒く分厚い巨大なキャタピラ。
寒暖差で窓ガラスが曇るはずが
一切曇らない不思議なガラス。
まるで鱗のように何枚も打ち付けられ
鎧のように並んだ白い迷彩柄の外装。
そもそもバスと言っていいのか
わからないほど重装備のバスであった。
「バスか、これ?」
「そうみたいだね。
……急がないとハークくん」
イチモに急かされバスに近寄ると
圧縮された空気を吐き出してドアが開く。
これはバスと同じだとして
二人は乗り込んだ。
* * * * *
駅舎から出発したバスは
目指すべき山へと走り出す。
ハークたち以外に誰も乗客はおらず、
隔絶された運転手の後ろ姿だけが
存在を知ることができる。
「ほら、見えてきた。
あれが話にあった大蛇の道。
山全体に這うように
あったらしいんだけど
今見える山の半分だけにあるんだ。
ここで問題。
なぜ半分だけか分かるかい?」
イチモが山を指差し
ハークに問いかける。
イチモは楽しそうに
腕時計に目をやり
指で時間を刻む。
「え? ……向こう側が崩れて
道じゃなくなったとか?」
「うんうん。いい線だね。
けど理由が足りない。
どうして崩れたんだろう?」
ハークは山をよく観察した。
道は右へ左へ斜めに向かってある。
雪に覆われてない山肌本来の部分は
スカスカなスポンジの様だった。
「山肌に穴が見えるから
何かが在ったんじゃないか。
大きな石とか岩とかもしくは……
たくさん空気が入っていて
それが外に出てしまったとか?」
「お!」
イチモは感心している。
とても満足そうな表情である。
おおむね答えだったようで
嬉々として詳しい解説に移る。
続きます。
次話投稿予定は
2021年5月17日(月)です。




