校外学習
――失礼。お急ぎで?
研究所から出て十数キロ。
本部からの最寄り駅にたどり着く。
その前にて警官に
二人は声をかけられた。
「そうです。……すいませんが
電車の時間が迫っていますので」
「いやいや。時間は頂きません。
ご協力のほどをお願いします」
ベテランそうな警官が詰め寄る。
もうひとり若い警官も加わり
とてつもない圧をハークは感じた。
イチモの話によれば
研究所関係の人物を
警察が捜索しているはず。
だから駅前にいるこの二人は
話が正しければ、研究所の関係者と
バレてはマズい。
「(……ハークくん。
僕にいい考えがある。
大袈裟に咳き込んで)」
「(え……。わ、わかった)」
"ゴホッ ゴホッ"
ハークは周りにも聞こえるように
咳き込んだ。
それにビクリと反応したイチモは
とっさにハークの背中をさすりつつ
心配そうに声を掛ける。
「だ、大丈夫!?
すいません! 弟は体調悪くて
電車で遠くの病院に行くんです!
お願いです!通してください!」
イチモは大袈裟に叫ぶ。
芝居なのだろうが
それらしく振る舞った。
周りの通行人が
なんだなんだと集まった。
「そ、それなら病院への
救急車を手配しますが……」
「そんな無責任な!?
ならレグリシス山まで行けますか?!
あそこは知っての通り
大雪でその車では行けません!
今日を逃すと薬がなくなるんです!
だから! 通してください!」
イチモは食い入るように
ベテランの警官に詰め寄る。
「わ、わかりました!
ど、どうぞ!」
イチモの迫真すぎる演技に
警官たちは圧倒され
見事その場をやり過ごす。
イチモはハークを抱えて
駅へと駆け込む。
その速さは通行人の間を
スイスイ避け、抜けていく。
通行人たちはその鮮やかさに
イチモが横を通りすぎてから
気づくばかりであった。
「(うまくいったぞ!
よし! このまま電車に!)」
「(いつまで具合悪いフリを
すればいいんだ……)」
「――何事だ」
「あぁ、すいません。
少し事情が在りまして……」
警官二人の前に現れたのは
鋭い目つきの、軍帽を被った男。
警官たちは男に事情を話した--
* * * * *
駅から出て数時間。
レグリシス山行きの
電車が出る駅へとたどり着く。
乗り換えの駅には警官はおらず
ハーク達二人は堂々と歩いていく。
外は今まで温暖な気候から
木々の葉ははらはらと落ち
代わりに雪が枝に白い葉を飾っていた。
その駅構内で
次の電車を待つ間に
イチモは嬉々として
何かを手にして帰ってきた。
「ハークくん。
博士から頼まれてた座学
……の続き、してなかったよね。
山についてのパンフレットに
良いのがあったから
これを使っていこう」
「こんな時でも学ぶのか?」
「……そうだね」
「博士たちが心配じゃないのか?
レムザさんが何をしているのか
気にならないのか?」
「……気になるよ。
けど僕一人では、ただ捕まる。
だからこそ、出来ることをする。
エリーさんがよく言っているよね。
僕が出来ることは、こうして
レムザさんの指示に従うことと
ハーク君に色んな事を教えること。
それが僕に出来ることだね。
……話が長くなったね。
レグリシス山について学んでみようか」
改札の近くのベンチに座る二人。
いかにも観光客向けに作られた
パンフレットに目を通す。
それは作られてから
大分時間が立っている性か
端々はひしゃげている。
書かれたインクは
日光や風に晒され
色褪せていた。
――レグリシス山。
昔、人間たちが移り住み始めた時。
一匹の天を覆うほどの大蛇が
人々の前に現れた。
大蛇は山を守る神である。
人間が山を荒らしに来たと思い、
多くの災いをもたらす。
しかし人々は互いに力を合わせ
災いを退け、とうとう大蛇の方が
諦めてしまう。
大蛇は、人々が正しい道を歩む限り
見守ることを約束する。
以来蛇は身体を変え
山の頂上に続く唯一の道となった――
「なかなかユーモアあるよね。
レグリシス山は今ある文献によると
大昔巨大な活火山の一部と言われててね。
エイール大陸の南西部を分ける
北と東側の山脈の地層には火山灰の成分が
ちらほら見つかってね!
一説には大昔の大噴火による
噴煙・噴石が大蛇と見立てたって……」
「そういうのが好きなのか?」
「……どうして?」
「研究所での座学より
生き生きしている様に見える」
イチモは一瞬固まり
すぐさま恥ずかしそうに話始める。
「そっか。……うん。
まだ諦めきれてないのかも。
ええっと、そう、歴史は好きだね。
こうして伝説、子供でも分かる内容で
伝えるのがロマンだと思う。思わない?」
「どうかな」
「分かるときが来ると嬉しいな。
あ、電車来たから行こう!」
イチモは立ち上がり、改札へと向かう。
"カキィィィン"
ハークが追おうとすると
ベンチの下で甲高い音が響いた。
ハークはその方へ
目を向けるも何も無かった。
聞き間違いだろう、と
気に止めずに走る。
イチモに急かされ
改札を通っていく。
ーー窓の外は一面銀色になる。
続きます。
次話投稿予定は
2021年5月13日(木)です。
5月10日(月)17時14分
少し加筆しました。




