鱗はがれて、みんな居なくなった
便宜上、ここから6話です。
よろしくお願いいたします。
――次の日。
ハークは目を覚ます。
ガラスにうっすら映る
自分の姿を確かめる。
手を振り、身体を動かす。
間違いなく、見知った
自分の姿である。
羽織った服からは見えないが
まだ腕に、数枚の鱗が残っている。
服の素材や鱗の形状などもあって
少し動くたびに、引っかかった。
最初は、鳥の羽が生えていた。
飛行するためや
寒さから身を守るため
ということではなく
言うなれば飾り羽のような物だった。
* * * * *
バルドリア山麓の村へ行った際、
小型恐竜ラプトルから一時的だが
人間の身体を元として
竜の鱗をまとう半竜人となった。
その姿はぼやけているが覚えている。
強靭かつ武骨な竜の手足。
そこから手足を守るように
生えていたのは竜の鱗。
山麓の村長の未知の力である
鉄線でも、ほとんど貫かれず
剥がされても何度も復活する鱗である。
当時、鱗の一枚一枚は
ハークを守る鎧の役割を果たした。
しかしその役目を終えたのを
理解したのか鱗は小さくなった。
まだ子供のハークの力でも
曲げられ、剥がせそうなくらい
強度は弱っていた。
ハークは入念に身体を確かめる。
首筋や背中、特に見えない部分を
ガラスに映した。
「(……大丈夫。鱗だけだ)」
ハークはホッと一安心し
部屋が開くのを待った。
* * * * *
部屋は中からは開けられない。
それも監視室の操作でのみ
開けられることになっている。
これは保護の観点からの
処置である。
保護する子の中には
いつの時代にも
脱走を図る子がいる。
ある時は、
鍵開けの技術を持った子が居たり
またある時は、
変身し、力任せにこじ開けたり
ある時は、
そう、スタッフに手引きさせたり。
ホーリーの時がそうであった。
だからこそスタッフであり
かつまだ入ったばかりで
疑心暗鬼のままである
ハークを利用した。
スタッフであれば
部屋の行き来は出来る。
ベルードもその一人である。
しかしハークは
スタッフであるが
まだその権限はない。
スタッフであるが同時に
保護される身である。
そのため、ハークは
部屋の扉が開くのを待った。
「(……おかしい。
カメラが動いているのに
部屋への通話がない)」
中の人物に動きがあれば
外から連絡がされる。
しかし無い。
ハークは心配になるが
中からはどうしようも出来ない。
ただ開くのを待った。
「(みんな忙しいんだ。
もしかしたら、例えば
レムザさんたちが他の子を
保護するために出ていることも
あるかもしれない。
……でも、遅いな)」
”ウィーン”
「!?」
その時、突如扉が開かれる。
連絡無しに開くのは初めてであり
ハークは突然のことに驚き、身構えた。
開かれた扉、その向こうから
誰かが来るのではないかと
しばし見つめた。
しかし誰も来ない。
そしてただ時間が過ぎるも
何も起こらないことに
ハークは不審に思った。
「(これって……
出ていいってことか?)」
ハークは恐る恐る扉から
顔を出し廊下を見渡す。
他の部屋は開いておらず
ハークの部屋だけ開いた。
* * * * *
ハークは仕方なく研究所内にいる
誰かに逢うべく、部屋を出る。
「(やけに静かだ)」
研究所はどこかしら音が聞こえる。
保護した子供たちの声。
大人たちの忙しなく響く足音。
換気扇や蛍光灯などの駆動音。
それがほとんど一切聞こえない。
初めて体験する状況に
ハークはゾッとした。
それまで当たり前にあったものが
ある日突然なくなる。
無音であるという異質さに
背筋が凍っていく感覚を覚えた。
「(何か、あったんじゃないか?)」
ハークは思い当たる限り歩いた。
博士の部屋。座学で使った部屋。
保護の子達が居た部屋。
どこも誰もいない。
ハークはだんだん無意識に
歩幅が広がっていく。
誰もいない。
不安が膨らんでいく。
元の自身が寝て居た部屋前へと戻る。
* * * * *
「あ! いたいた! ハークくん!」
声の主はイチモだった。
よかった。誰か居た。
ハークはホッとして彼に駆け寄った。
「みんなは?」
「あ、えっと……」
イチモの反応が良くない。
「どうした?」
「落ち着いて聞いて欲しい。
博士たちは、逮捕されたんだ――」
――え?
ハークは、状況が呑み込めず
首を傾げた。
続きます。
次話投稿予定は
2021年5月6日(木)です。
※5月3日(月)午後5時40分に
描写を加筆および書き直ししました。




