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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】も、ゆっくり休む
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嘘も方便。

「(ティーノ。……ティーノ?

 ちょっと頭に血、上ってない?)」


ベルードがティーノに駆け寄る。

こそこそと耳元でそう言われ

一拍置き、ハッとしたティーノは

すぐに両の手のひらで口を隠した。


「(うっ!? なんでわかった?!)」


「気を付けてね。ティーノ」


あまり触れてほしくないのか

ティーノは話を半ば聞いたかのように

はいはい、とあまり真剣味もなく答える。


「……ちょっと休もうぜ。

 次の作戦会議だ」


* * * * *


ハークたちはドッジボールを

一度中断し休憩することにした。


ティーノたちに混じり、ハークは話をする。

話は自然と、保護される前の事について

となった。


「ハークって、どこから来たんだ?

 俺たち、レムザって怖い奴に連れられて

 ここに来たんだ。何時だっけな……」


「ぼ、僕が覚えている限りでは

 たしか一年……前だったかな。

 僕がすぐに捕まって、すぐ。

 それからカンジ、グラッド

 最後にティーノの順だね」


「エルジーが覚えているなら当たりだな。

 俺たち四人で物盗んで、食べてたよな。

 いつもグラッドとカンジが盗み役で

 エルジーと俺で、店の人引き付けて……」


「んでいつもグラッドが

 何かにぶつかってバレて

 みんなで慌てて逃げてたよなぁ」


「なんだよカンジ! お前だって

 物落として、それでバレたのもあるだろ!

 俺だけが悪くないぞ!」


カンジからの話にグラッドはカッとなり

有無を言わさずつかみかかった。

それを眺めていたベルードが仲裁しようと

動き始めたが、エルジーが二人の間に

割って入る。


「ま、待ってよ。それなら僕だって

 話が下手だからティーノの作戦を

 失敗したのが、四回あったよ。

 そ、それに僕らが何度も行ったから

 顔がバレてて盗めなかったのもあったし……」


「そうだな。保護される直前には

 俺の作戦うまく行かなくなってたし

 その時々、グラッドが挑発して注意引いて

 カンジがボヤが起きたって

 騒ぎ立てたときもあったな」


四人はしみじみ昔を思い出していた。


「まぁ、捕まって良かったかもな。

 ここにいれば飯は食えるし

 寒くも暑くもないし。

 何より一緒にいられるしな」


四人は互いに笑っていた。

そうだそうだと思い出を語っていた。


ハークはただ四人の話に耳を傾け

話を膨らまして輪に入った。



「へぇー、ハークは東南の海沿いか。

 あそこって、ゴミだらけの所だろ」


ティーノの話にハークは頷く。

他の三人は、あぁあそこかと

思い出した様子だった。


「あそこ、色んな所のゴミが集まるから

 人が来るって大人たちが言ってたなぁ。

 俺たち居たのは、そこから近い所だな」


「そ、そうだね。

 ティーノが周りの子達より

 強かったからそこで僕と会って

 カンジ、グラッドの順で。

 何とか生きてたね」


「俺たち、一人だったもんな。

 んでグラッドに会ったときは凄かったな。

 大人に噛みついて、俺たちが大人の味方だと

 思って襲いかかってきて……」


「カンジ! やめろよ! 忘れてくれよ!

 ……でも、そこのゴミ山出身の子って

 あんまり見ない。東南の子はいるけど

 東南のゴミ山は大人が集まるって」


グラッドの言葉に、言われてみればと

ハークは疑問に感じた。


確かに周りは大人ばかりだった。

子供、と言えば弟たちはいたが

他の子は見ていない。


「まぁ、あそこは危険だし、大人だから

 居られるのかもな。ハークは珍しいな。

 ……よし、もう一度ドッジボールだ!

 ベルード! やるぞ!」


「作戦会議は、終わった?」


ティーノたち四人は口を開けて

あ、と声をそろえて言った。


* * * * *


結局、ベルードの圧勝で

ドッジボールは終わった。


いつもの事らしく

四人は次に勝つ方法を思案した。


「ハーク。お前、ベルードの

 ボール当たらないし、すごいな。

 またやろうぜ!」


ティーノはまた手を差し出す。

初めてながら何とかこなせたハークは

彼の握手に応える。



「ああいう関わりかたもあるのか」


「うーん。まぁね。四人とも元気だし

 ああいう勝負事だと、なおさら。

 けどあれでいいんだ。

 ハーク君も一緒にやったから

 とりあえず関わりとしてはいい、かな」


外は日が傾き始める。


ベルードは肩を回しながら

今日のご飯はなにかなぁ……とつぶやく。

顎に手をおいて、あれかなこれかなと

歩きながら思案しているようだ。



子供たちも各々の部屋に

戻っていく時だった。


ハークはその中で

まだ使われている部屋を見つける。

イチモが座学をしている部屋であった。


イチモの座学を数名ほどの子達が

一所懸命に黒板の字を書き取っていた。

扉には特別授業と札が掛けられており

部屋の明かりで反射する銀色の小物が

子供達とイチモの前に1つずつ置かれている。

それを用いる授業なのかと、ハークは考えた。


「……なぁベルード、イチモの授業ーー」


「くんくん……。むむっ!

 ハーク君、なんか向こうから

 良い匂いがする! 行こう!」


ベルードはハークの腕をつかんだ。


「いや、イチモの授業……。

 ま、待て! また走……、あぁー……」


ハークはベルードに抱えられ

匂いの元へと向かった。


* * * * *


匂いの出所は共有食堂であった。

先に来ていた子供達は

既に食事を取っていた。


「あれ、今日の料理。

 なんか雰囲気も匂いも違う」


「あら、ふたりとも。早いわね」


エリーであった。三角巾を頭に

簡素なエプロンを付け、立っていた。


「……んーと、エリーさん?

 何のーー」


「ごはん。食べるでしょう?

 何が良いか決めなさい」


エリーは指差す。

小さな黒板の立て看板に

メニューが二セット書かれていた。


「え、えっと……日替わり――」


「ま、待て小僧!

 こっちの薬膳定食なら

 すぐに出せるぞ!」


エリーの後ろからロニィが慌てて現れる。

白い前掛けに、タオルを頭に巻いていた。


「な、いきなり何をーー」


ロニィは二人の肩を掴んで

小さく話始める。


「(あのお嬢さんの料理はイカン!

 舌はよく肥えているのだが

 如何せん料理はからっきしだ!

 あれを見ろ!)」


ロニィの指差す先には中くらいの

鉄鍋がひとつだけ置かれている。


「(あれは……)」


「(匂いしないすが……。

 何かワケでも……)」


「(密閉しないとイカンほどだ。

 ちょうど掃除が終わってから

 通りかかったときで良かった!)」


ハークとベルードは顔を見合わせる。

もう一度鉄鍋を見る。

鉄鍋には鍋と蓋の持ち手に

おたまで封され、かつ厳重注意なのか

丈夫そうなベルトで縛られている。


「何しているの?

 日替わりのビーフシチュー

 もう冷めるから温め直すけど」


エリーがそう言い、蓋を開けようと

少しずらした瞬間、ベルードはすぐ鼻を押さえた。


「ロ、ロニィさん!

 薬膳はすぐ出ますか!?

 二人ともドッジボールで

 クタクタで!!」


「そ、そうか! わかった!

 すぐ用意しよう!」


ハークは何も言わずに

ロニィの薬膳定食の前に立ち、待った。


「そう。……おいしいはずだけど……」


エリーは蓋をしめる。


* * * * *


ハークとベルードは

ロニィの薬膳定食を貰って

カウンター席で横に並んで

食べ始めた。


話は先程の関わりについてとなった。


「一緒に遊ぶ、というより

 一緒に何かする、てのが関わりなのか」


「そうだね。ティーノたちが

 共通して出来ることでもあるワケだし」



「所でベルード」


「なんだい?」


「当たらないのは、部分的に

 狼の目とか手足とか使ってない?」


「い、いやいや! ないない!

 ははは! 冗談にしては、きついなぁ!」


「ベルード。動揺しすぎ」


「……バレてた?」


ベルードは狼になりはせど

部分的に狼に変えられるらしいと話す。


ただ、人間と狼とでは

かなり身体の構造が違う。

あまりそれに頼ると

人に戻りにくくなり、極力控えている。


……が、それとは別。

子供たちとの遊びの手前、相手として

不足ないようにするには、必要な手段でもあった。


「ティーノたちも気づいてないし

 卑怯な気もする」


「まぁまぁ。嘘も方便なワケ。

 その内ハーク君もわかるって!」


「そういうも……って、やめろ!

 髪をぐしゃぐしゃにするな!」


ベルードはハークの頭をガシガシと

ぶっきらぼうに撫でる。

あまりうまくないのか

ハークの髪はくしゃくしゃになった。


「い、意外と直すの苦労するのに……」


「くせ毛?」


「分からない。ゴミ捨て場にいた頃は

 そんなことなかったけど……」


「もしかしたら、洗いかたとかかな。

 エリーさんに聞いてみたら?

 女優なら、そういう髪の事とか

 知っているだろうし」


確かにそうだ、とハークは納得する。


しかしもう夜近くなり、誰もが寝静まり始めていた。


「それじゃ、また。おやすみー」


「おやすみ。ベルード」


ふたりは別れ、各々の部屋へと戻る。

ハークはスタッフ専用の部屋ではなく

6番の部屋へ入る。


まだ腕にわるいこの様相が

収まりきれてなかったからである。


「(今日は、疲れたな……)」


ハークは6番部屋の隅に身体を寄せる。

この寝方であれば、わるいこに変わっても

身体を痛めずに済む。


その日、ハークは久しぶりに

すぐ眠りに落ちたのであった。

続きます。

ここまでが5話です。

お疲れさまでした。


次回は区切りのため

サイドストーリーを

挟みます。


次話投稿予定は

2021年4月29日(木)です。

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