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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】も、ゆっくり休む
33/318

話せる、という確かな一歩

【遺伝……7 環境……2 その他……1】


「これは統計といってね。

 あぁ、僕が長年保護した子たちと

 関わって、分かった理由を

 分析して集めた結果なの」


博士の特別授業は

イチモの座学で使用した

部屋で行われた。


博士は部屋に設置されたPCを使い

スクリーンに資料やデータを

小さなリモコンで操作して

写し出していた。


博士が言うに、最初の第一症例だけ

多くの要因が重なったこともあり

統計データには含んでいないらしい。


「たぶん数字は前後するけどね……。

 僕が集めた限り,おおむねこんな感じ。

 共通して、繊細だったり優しかったり

 元気いっぱい、いたずら好きで……。

 つまり、とっても子供らしい子供。

 けど、そこに例えば……そう

 自分が自分でいられなくなることが

 あるんだ」


「自分で、居られなくなる……?」


ハークはその言葉に引っ掛かりを感じた。


「そう。例えば、明るい性格なのに

 明るくなってはならない。

 止めなければならなくなった。

 他にも、誰かから悪口を言われたり

 バカにされたり……

 うん、そんな感じでーー」


「博士。俺の話の方が

 分かりやすいと思うけど」


ベルードは進み出る。


「ベルード。いいのかい?」


「んー、別に隠しているワケでもないし。

 ……ハーク君は、俺が村にいたことは

 何となく知っているよね」


ベルードはこれまで幾度か、

ある村に居たことを話しているのを

ハークは思い出す。


村では狼になることがバレるとまずい

ということである。


* * * * *


ベルードは立ち上がり

ハークと向かい合った。

さながら教師と生徒である。


「俺、村で牛や羊を育てる家に生まれたワケでね。

 大袈裟でとにかく明るい母さんと、そのじっちゃとばっちゃ。

 ふたつ上の兄貴もいてさ。ハーク君とすこし似ているかな。

 でも、親父が居なくてさ。ある時、兄貴が出稼ぎに出て

 残った四人で牛や羊を育ててた。

 それからじっちゃとばっちゃが死んで、残された母さんは

 文字通り、狂った。言うことなすこと、何もかも違った。

 村はそ母さんを嘘つきと呼んで、俺まで嘘つき呼ばわりされて……」


いつもは穏やかそうなベルードの表情が

少しずつうつむき始める。


「兄貴は、そんな時でも戻ってこなくてさ。

 出稼ぎが忙しいから、と今でも思ってる。

 そんな時、俺は夜、家から無意識に飛び出してたんだ。

 空を見上げて、何かを振り切るように走り続けて、俺は泣いた。

『俺一人で母さんを見てやれるか? 兄貴のいない今

 俺は何ができるんだ。俺はどうすればいいんだ?』

 そう強く思った日は、必ず朝になるまで、そこで眠ってたんだ。

 家に戻って母さんが寝ているのを見て、ある意味安心してた。その時かな。

 ーーうん、つまり、俺、その辺りから、知らず知らずに

 わるいこに、狼になってたワケ!」


ベルードは精一杯の笑顔をハークに向けた。

しかし彼の目から、一筋の涙が伝う。


「……ベルード。ごめん。

 俺が言えることじゃないけど」


「うん? 何だい?」


「重すぎないかっ!?」


「……やっぱりそう思う?」


「どうしてそんなことを」


「誰かに笑い話として、言えることが

 俺の最初の一歩だったワケ」


「へ?」


ハークの困惑を他所に、ベルードは話続ける。


「それから博士とレムザさんが村にやって来た。

 俺は保護されて、母さんは違う所に住んでる。

 安定しているって聞いてる」


「聞いてるって?」


「少なからず、一緒に居るのは難しい。

 うーん、そうだなぁ……」


「ハークくん。ベルードのケースは

 環境、その他に該当するんだ。

『知らない内に変わっていた』。

 自分で居られなくなった、あと家族の事も

 相まって、わるいこになるきっかけに、と

 僕は見ている。特例だね」


「いやぁなんか特例って言われると

 むず痒い気がするワケでーー」


博士の説明に、ベルードは恥ずかしそうに

頭を掻く。なぜ恥ずかしそうにしているかは

ハークはわからなかった。


「そ、そうなのか……。

なんか、こう、ベルードには

似合わない話な気が……」


「ハーク君、辛辣すぎない!?

確かに俺も当時めちゃくちゃ

悩んだワケだけどさぁ!?」


ベルードは涙を拭って驚いた様子で

ハークに問いかけた。


「いやいや!

 いつもヘラヘラしているのに

 重たすぎない!?」


「――わかる!」


ふたりは互いに顔を見合い、一拍おいて

同時に腹を抱えて、笑いあった。

続きます。


次話投稿予定は2021年4月22日(木)です。

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