たった一瞬の永久王国
女王キャサリンの号令に、戦闘機は一斉にハークたちへ襲いかかる。
それを後押しするように、暗雲に浮かぶ城から大砲が唸りを上げる。
それまで細い銃列だったのが大砲へ急成長し、ドンドンと砲弾を降り注がせる。
あまりの猛攻により、とうとうガライの大盾から軋む音が鳴り始めた。
このままでは倒されてしまう。何か打開策はないのか、とハークたちは考える。
するとキアロがはぁ……と大きなため息をつく。
女王の姿をもう一度拝もうとするも、凄まじい猛攻により叶わず、とうとう管を巻く。
「ーーあぁ参ったね。こんなひどい土砂降りに遭うなんて。まるで荒れ狂う嵐のようだ。……もっとも、降ってくるのは鉛玉じゃあ話にならない。せっかく彼女をモデルの依頼したかったけど、これじゃあキャンバスがダメになってしょうがない。それに、僕たちへこんな真っ直ぐ敵意を向けられちゃあ雨宿りも出来やしない。これが厭味ったらしい奴なら、ふんぞり返った態度は粉々に叩き割って、天高くそびえる鼻っ柱はへし折ってやりたい所だ。……残念ながら、彼女の鼻はそんなに高くはない。いや、これ以上手を加えずとも不要なほど整っている。それどころか身に付ける装飾品の何もかもが上等、特注品といったところか。だが従者たちがあんなに血気盛んじゃあ、謁見どころか顔すら拝めやしないと来た。おっと失礼、彼らは見たところ全員野郎どもだ。これだと手練れの執事と言った方が良いか。……いや、しかし特にあの王冠と半冠とが混ざったあれは、かなり腕のいい職人が作り出したと見て間違いない。ここらじゃあ見たことのない技法だ。彼女の号令に合わせて煌々と光り輝いた辺り、それもまた僕らに対して息巻いているのか。……いや、強いて言うならオカンムリってところか。ははは」
「バカなことを言っている場合かキアロ! このままじゃ、我々は彼女らにーー」
「ーーあ"ぁ"? 今なんて言ったキアロ」
「王冠が、光り輝いた? 号令とともに?」
ハークとナギは真面目な顔をしてキアロに尋ねる。ガライの怒声は止まり
キアロはその瞬間を逃さず「あぁ光ったとも。まるでこの鉄筆のようにね」と答える。
「うむ。まさかとは思うが、鉄の武器のひとつかもしれない。
そうでなくとも、この状況を覆すにはあれを壊す他なかろう」
これまでの様子を伺っていたシドはそう言って顔を出す。
少年レムザもまた、少年ルナード同様、鉄の武器を持つものならば
あの女王キャサリンがウォートに宿るわるいこの関係者ならば
あれだけの鼠の大軍を、そしてカラスたちも統率しているのではないか、と。
「み、皆さん。そろそろ、この大盾も限界。……申し訳ございませぬ!
本来なら、私たちを置いて先に皆さんが工場へ行きべきはずが……。
その瓦礫の山さえなければ……! せめて、このまま私が足止めを――!」
大盾に亀裂が走る。戦闘機の絶え間ない攻撃は止むことはない。
あと一発、砲弾の集中攻撃といった大きな攻撃を受けてしまえば
今にも破壊されそうな状態であった。もう少し時間が欲しいが
ガライの言う通り、先へ進もうとナギが走り出そうとする。
しかしそんな話を一蹴するように、キアロが眉をひそめて口を開く。
「おいおい、冗談は止してくれガライ。冗談は僕の出来る唯一の事だ、こんな時にいきなり奪わないでもらいたいね! それに、君が倒れても残された無力な僕が、彼らの銃弾で蜂の巣になったり、砲弾でぺしゃんこになったりしたらどうするんだい。ミシェルだってタダじゃあすまないだろ。それと、僕の絵が完成した後の事も考えておくれ。この僕の全く無意味に近いこの一生涯を全て賭けて、ただひっそりと何処の誰かが足を止めて一瞬でも眺めるような素晴らしい絵を描き、今にもこの世へ、社会へと送り出すんだぞ。これを無事に守り切るのも君の役目だ。今からアーティアから追い出されても、この絵を完成させれば、ひとまず僕の一生はそれから、いくらかマシなものになる! 口だけの、屁理屈ばかりこねて、ゴマを擂ってばかりな奴らより、毛が生えた程度だがひとつの形を残せるんだ。僕らは二度目の生を受けたんだ! 僕はこの絵を完成させればいい! 君は僕らと、この絵もしっかり守ってくれ。それと、僕らは非力だ。この筆を持つのでさえ――」
全くブレないキアロに、ガライは大盾を構えながらハァ……と大きなため息をつく。
こんな事なら自分たちを置いて、ハークたちを向かわせるべきだったとこぼす。
それだ。シドはそう言って、周囲を今一度確かめる。するとコンテナと木箱が
まだ積み上がっている。それを以て、シドはある作戦を打ち出した。
* * * * *
「お答え頂けないのですね。残念です。……それでは、行きま――!」
「――今ですっ! おおおおおっ!」
ガライの掛け声で三人は一斉に駆け出す。
ガライは雄叫びを挙げながら、女王キャサリンへ大盾を構えて真っすぐ突進する。
その勢いは荒ぶるサイの如く、女王以外の臣下たちはガライに釘付けとなる。
狙いは女王だ。戦闘機らは一斉に旋回し、城の銃列は急いでガライを狙う。
しかし銃弾を恐れないガライの捨て身の突進は何物も受け付けない。
ならばと肉弾戦を仕掛けるも、紙飛行機の如くグシャグシャに蹴散らされる。
自分たちよりも何倍もある巨躯の突進は、全ての注意を惹きつける。
そのわずかな間に左右へ飛び出したのはハークとナギであった。
ナギはコンテナ類のある海側の方へ一瞬でたどり着く。
虎掌で残り全てを、ガライの突進を邪魔しない位置へ殴り飛ばす。
宙へ飛ばされたそれらは戦闘機らをいくらか巻き込んで墜落させ
ガラガラとあちこちへ散らばると、一種の遮蔽がそこかしこに生まれた。
「うむ! これだけあれば奴らも――!」
「――あ”ぁ”? 何寝言言ってやがるジジイ。まだ足りねぇッ!」
”ズゥンッ!“
ナギは戦闘機の翼で斬られた右足で、地面を一気に踏み抜く。
その衝撃は地面とその地表にまでズシンッ! と大きく伝播した。
ガライたちには届かず、衝撃は広範囲に伝わっただけではなく
自分たちの周囲の大気にも僅かに震わせた。
戦闘機らの視界は突然ぐらりと揺れ、状況把握し体勢を整える間もなく
戦闘機同士がぶつかり合い、ばらばらと地上へ墜落していく。
女王の視界も遅れて伝わり、意識が一瞬だけ遠のいた。
しかし何とか持ちこたえ、迫るガライを制すべく号令をかけようとする。
瞬間、左から異様な気配が迫っていた。
整えた髪がふわっとほぐれ、肌で感じるバチバチとした感覚。
女王はいつの日か感じた、命の危機に似た本能的な直感。
今まさに一人の少年が、雷を纏って間近まで飛び込んできている。
竜の爪。竜の腕。竜の眼。竜の足。バチバチと迸る迅雷。
――それだッ!
――奪ったッ!
女王から王冠だけが離れる。
ここまで本作をお読みいただき
誠にありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2026年2月6日(金)~7日(土)です。
お楽しみに。
追記:作者のきむらさんです。
明日、更新予定でしたが、急きょ本日2月5日よりしばらくお休みさせていただきます。
更新再開のお知らせは本作のタグ、活動報告および旧Twitterにて行います。誠に勝手ながら申し訳ございません。再開をどうぞお楽しみに。




