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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
25話(仮)
319/322

暗雲纏いて浮かぶは鼠の鉄城

暗雲がレックス海運の港を覆い尽くそうとする。

そこから降り注ぐは鼠。それが雨水がごとく地にたどり着くと

倉庫を埋め尽くさんとなだれ込む。


その倉庫から一台のトラックが猛スピードでその場から走り去ろうとする。

荷台には数人の男たちが乗り込み、暗雲を眺めている。

トラックの行き先は北側に位置する大きな建物。倉庫と工場を兼ねるそこは

立ち並ぶ倉庫とは海運本社と隔てられ、どの建物よりも大きく目立つ。


鼠の雨は倉庫を埋め尽くすと倉庫内へ押し寄せ、手当たり次第に調べている。

ひくひくと鼻を鳴らして臭いをたどり、残った痕跡から何者かを探す。

その中にひとつ。何者かが直前まで居たような散らかり様の倉庫が見つかる。

倒された画架スタンドに小さな机椅子ひとつずつ。破壊された牢ひとつ。

鼠はそれを見つけるとすぐさま後ろの仲間へ素早く伝えていく。


それが暗雲にたどり着くまでそう遅くはなかった。そして暗雲に座するは

豪華絢爛なドレスに身を包む女性。その膝に横たわらせるは赤髪の少年一人。

憔悴し、虚ろな目のまま女性の膝に頭を預け、うずくまったまま。


「ポチョムキン……。どこなのポチョムキン。あぁ、まだ騎士として

 エイールに仕える役を未だに全うしているのですね。ならば待ちましょう。

 そのための、貴方のための兵士たちはここよ。いくらでも私が支えます。

 凱旋の時、私たちの王国はきっと素晴らしい繁栄を手に入るのでしょう。

 貴方の……いいえ、私たちの王国に住まう子供たちも、此処に居るわ。

 だから、早くお帰りになって、私の愛しき騎士王ポチョムキン。

 まだなの? まだ帰らないの? ポチョムキン……」


暗雲に倉庫の様子が伝わると、女性は俯き、地上を見下ろす。

そこには何者も居ない。寂しさと愛しさからか、彼女の目に涙が溢れる。

美しい両掌で覆うも、止めどなくこぼれ落ちる。しかしそこに眼はない。

ポッカリと空いた深淵の向こう側から這い出て、顔を伝って流れ落ちるそれ。

鼠の形を成して暗雲の一つとなり、地上に降り注ぐ黒い雨となる。


* * * * *


「……あ"ぁ"!? また奴らか!?」


「まさか、一気にあれで俺たちを倒そうと?」


「ど、どうだろう。しかし、すごい大規模なワケで」


ハークたちはトラック荷台の上で暗雲を目視する。

すぐそこまで迫る鼠の洪水は倉庫を呑み込み、中へ侵入していく。

そんな中、画材道具を抱えるキアロは洪水を眺めながらキャンバスに向かう。

両足でそれを固定しつつ、口に筆をくわえ、手にはパレットを持ち

かき集めただろう絵の具類を巧みに混ぜ合わせ、描き込んでいく。


「ーーあぁ、全くひどい様じゃあないか。こんな異常気象は生まれて初めてだ。鼠が豪雨のごとく地上へ降り注ぐ? エイール伝説にはこんなことは書かれてなかっただろう。例えここから生きて出たとしても、こんな突飛な話など誰も信用などしない。嘘つきの出任せか、どこかのペテン師のつまらない話くらいにはなるだろうね。君たちが先ほどまで繰り広げただろう冒険譚を聞きながら描くつもりが、こんな面白い事が起きるとは思わなかった。もっと近くまで寄ってくれるかい? 鼠たちがどう洪水の一つとして成しているかよく確かめたい!」


「あ"ぁ"ッ?! バカ言ってんじゃねぇよ!

 おいレムザ、もっとスピードを上げろ! 追いつかれるぞ!」


「残念だが、このトラックの馬力じゃ無理だ! 燃料も底尽きかけている。

 それに全員乗り込んでいるから、かなり重すぎる! 捕まれ、曲がるぞ!」


レムザは思いっきりアクセルを踏み込み、倉庫の間を抜けていく。

洪水の最前線は曲がり角にて壁にぶつかり、失速しながらも道に沿って流れる。

キアロの望み通り、洪水がすぐそこまで迫るとぴちゃりと勢いよく飛び跳ねた。


ハークが前に出て鉄杵ライゼンを浮かべ、格子状に雷の網をトラック全体に張る。

大きな鼠は弾かれると、帯電した鼠は洪水に飲み込まれた。

一瞬こそ小さく爆ぜ、それらが複数加わると洪水の勢いが削がれた。

しかし網をくぐり抜ける小さな鼠は荷台へ迫る。


「ーーなんぞ学んだはずが、同じことの繰り返しがか」


水飛沫のごとく荷台へ飛びかかるが、銀狼ハチの直刀がすらりと斬り伏せる。

一つ残らず両断するも、刀から感じる違和から鼠の様子を確かめた。


「……鼠じゃ無か。形はそうじゃが、中身は全く違う」


ハチは斬り伏せたひとつを見逃し、荷台へ転がせる。

話の通りで、真っ二つとなった鼠から血は流れない。白と黒とが混ざり合った

ボロボロと細かな砂粒が散らばり、崩れ去って横たわる泥人形であった。


「……あの黒い雲、様子がなんか変なワケで」


ベルードが感じ取り、荷台に乗った全員がその方を見る。

何やら粘土の如くグニャグニャとうねり、何かを形作った。


「……大砲、か?」


「ーーあ"ぁ"? ルナードを名乗った奴の武器じゃねぇか?」


暗雲から顔を出したのは左右にズラッと並んだ細い円柱。

それらを多数すっぽりはまるほどの大砲を中心とした砲列。

ルナードと名乗ったあの少年が、両腕に装備した鉄機関砲オーダのよう。

だがそれから発射されたのは、鼠たちが身体を寄せ集めて出来た一つの弾。

無尽蔵に生み出され続けるそれらは、ひどく軋んだ駆動音を鳴り響かせ

ハークたちを狙いすまして、絶え間なく細い銃身から発射される。


遅れて中心の大砲は、まるで生きたように大きく息を吸い、吐き出すように

トラックはおろか、倉庫一帯を飲み込まんとする巨大な弾を撃ち出す。

その様子をレムザはバックミラー越しに確認し、すぐさまハンドルを切る。

しかし一歩遅く、トラックの左右を防ぐように鼠の洪水が襲いかかり

もはや直進して行くしか道は残されていなかった。


「ーーッ!? 無理だ! 躱せないッ! 防ぐか、はじき返すかしてくれ!」


「あ"ぁ"!? あんなデカいのをか!? 虎掌で弾き返すにもデカすぎるッ!」


おいの直刀でも斬れん! 細かいのを裁くのがやっとぞ!」


「ダァーッ! 鉄槍と雷の力で何とかできるだろ!」


「止せキーン! それでは貫くだけ。飛び出しても銃弾の的。

 方向だけでも……。そうだ、ガライよ。お主の大盾は頑丈か?」


「シド師範の言う通り。このガライ、守りは得意です。

 故、この大盾は何者も破れませぬ。……して、どうしてそれを?」


「よし。ガライは前で構えよ。我が弟子、そしてベルードよ。

 後ろでガライを支えよ。弟子は我の合図で虎掌をーー」


* * * * *


大砲から撃ち出された鼠の巨弾が、ハークたちのトラックへ迫る。

着弾して地面ごと押し潰さんとするはずが、巨弾はそのまま留まっている。

そのすぐ先で、ガライの大盾が巨弾の勢いに耐えていた。ゆっくりと圧され

踏ん張ってもジリジリと後退させられているが、ナギとベルードの二人が

必死になってガライの背面を支えていた。


ふと巨弾が後ろへ弾む様子が伺えた瞬間、「今だ!」とシドが叫ぶ。


「ーー加減しねぇ。耐えろよ、ガライッ!」


「手加減無用にて!」


ナギが一瞬離れベルードに支えを任せる。ナギの拳に鉄籠手が纏うと、腰を落とす。

シドの合図で一気に踏み込み、ガライの背へ開かれた虎掌が打ち込まれる。

背面からの強撃に、ガライは意識が飛びかけるが耐えてみせる。

その衝撃はガライの身体を抜け、大盾に到達すると巨弾へ余すことなく伝わる。

ガライとナギ、ベルードの三人が一気に巨弾へ力を押し込むと

巨弾は大きく揺らぎ、向こうの水平線へ向かって吹き飛ばされてしまう。


「ま、まだだ! 次が装填されている!」


「ーーデカいのは時間が掛かっちょる。俺たちが露払いば請け負う!」


ハークとハチは周囲から襲い来る鼠の銃弾を払いつつ、暗雲の様子を伺う。

暗雲の大砲はまるで生きているようにゼェゼェと息を切らしていた。

ぐったりと砲口から大きく息を吐くと、左右に並んだ細い銃身がそれに気付き

銃弾と化すはずの鼠たちに合図する。慌てて大砲に群がり、姿を現した頃には

キラリと大砲は元気を取り戻した。大きく咆哮し、やる気に満ちてハークたちを狙う。


”ドォン!”


大砲は先ほどよりも勢いよく、巨大な砲弾を撃ち出す。

それをハークたちが伝えるも、ナギたちは慌てる様子はなかった。


「……さっきの一発で何となくわかった。打ち込む先の、中心を狙えばいい」


再度打ち返す。ナギの拳は軽く握られる。

撃ち出す瞬間、グッと掌の中心へ向かって力が入る。

そうしてガライへ打ち込まれる瞬間、拳は掌へと変わる。


大盾と巨弾がかち合い、ナギの掌がそれを相殺しながらも打ち返す。

巨弾はまっすぐ発射の軌跡を逆に辿って行った。


巨弾が大砲へ帰還する。その衝撃は左右の銃列へ、そして暗雲へと伝わる。

ぶわっと暗雲が霧散していった。


「むむ! 弟子よ、見事な虎掌! 我が奥義をついに――!」


「感心している場合じゃ無か! 見ろ、奴らの姿が現しおうた!」


倉庫内の道を抜け、ようやく広い場所へ出る。

空に浮かんだ暗雲は消え去り、ハークたちは目を凝らす。


「……城、か? いや、デカすぎないか!?」


空に浮かぶは巨城。高くそびえる城壁に頑丈そうな門。

いくつもの城塔や砲台が設けられているのが見てわかる。

城壁の向こうから顔をのぞかせているのは立派な城。

あちこちで慌ただしく動き回るのは鼠たちのようで

その中で全く動じずハークたちを眺めるは、一人の女性。

色とりどりの装飾品、絢爛豪華な青のドレスを纏う女性の頭上には

ひときわ輝く王冠。女王らしき人物ではないかとハークたちは考えた。


ウォートではない。鼠を指揮するのはウォートのはず。

ではあの女性は誰だ? ハークたちは警戒しつつ観察した。


「あぁ、あぁポチョムキンではないわ。どこなの、ポチョムキン」


そう嘆く女王は涙を流す。すると城はたちまち暗雲が立ち込め始めた。

ここまで本作をお読みいただき

誠にありがとうございます。


続きます。次話投稿予定は

2026年1月16日(金)〜翌17日(土)です。


お楽しみに。

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