達人は器用に、仕事をこなす
「(寝よう)」
ハークは身体を丸めて眠りにつく。
竜の身体は鱗同士がぶつかると音が鳴る。
尾も何かの拍子で壁や床に叩きつけてしまい
不必要な痛みをもたらす。
そのため、猫のように丸まって眠るのが
比較的楽なのである。
* * * * *
――単刀直入に、わるいこだね。
「……そうか。博士ーー」
「残念ながら治す薬はまだ無いんだ」
ロニィは診察室内で肩を落とす。
いつぞや出逢った男
アナグマ博士の言葉を
事実として受け止めようと
ロニィは必死だった。
「話に聞けば、ここの子達も
その、わるいこ、だったか。
すまない。言葉の意味通りなら
そんな風に見えないが……」
「本来、いやそもそも、みんな人なんだ。
泣いたり、笑ったり、怒ったり
好きなもの、嫌いなものがあったり……。
何よりも、ロニィ。君がフェンリーを
熊になろうとも、娘だって知っていて
信じているからそう思える、と僕は思う」
「……これ以上の詮索は不要。
して、どうすれば娘は」
「ロニィ。君は、鍛えたんだろう?
心を保つ。ここのスタッフたちも
近いものを得ているんだ。
それが何かしら言い表せられる物では
ないんだけどね。
自分を律する、絶えず変化に応じていく
……何て言ったっけ? あの日、言ってたね。
タコ? ハコ?」
「道、か」
「そうそう。現時点で、それが重要」
「うーむ。しかしフェンリーは」
「鍛えたけど、わるいこになったのは
フェンリー自身がどこか引っ掛かる
部分があるんじゃない?
例えば、そう、鍛えられない部分とか」
ロニィは腕を組み、頭をひねる。
「思い、付かんっ!」
「まぁ気長にね。
フェンリーはここで保護しようか。
そしてロニィ、君は」
「わかっておる。
このロニィ。例えこの老体でも
恩義、大義、仁義を必ず守る。
……もとい、それが娘のことだ。
尽くせぬかもしれん。
尽くせても、相当かかるだろうが」
「そこまで思い詰めないでほしい。
僕は、お金とか欲しいんじゃない。
僕ができることで、子供たちを
出来る限り、助けていきたいんだ」
その言葉に、ロニィは深々と頭を下げる。
よろしく頼む。
その姿勢は、地位も力も関係ない
ただ子供を案ずるひとりの親としての
事であった。
「それに、ロニィ?
危険な用心棒稼業から
安心安全な薬を作る薬剤師に
本職を移す時期じゃないかな」
「む!? 知っていたか」
不意の言葉に
ロニィは痛い所を突かれ、頭を抱えた。
* * * * *
数日後。ハークは目を覚ます。
目を開け、うっすら映る自分の姿を確かめる。
見慣れた自分自身に戻っていた。
ハークは入念に身体を確かめる。
首筋や背中、特に見えない部分を映してみた。
「(……大丈夫。腕だけだ)」
ハークはようやくホッとし、壁に寄りかかる。
「……お! おはようハークくん」
部屋に響いたのはベルードの声。
その調子は待ち望んでたと言わんばかりだ
とハークは感じた。
「今回はどう? 見た感じ、前と同じかな?」
ハークは頷き、両腕をカメラへ向ける。
ベルードは、良かったと呟く。
部屋を開けると伝えた直後、扉が開く。
ハークはまだ覚束ない身体を押して出入口近くで待った。
「む。おぉ小僧! 戻ったようだな!
これは良かった! カッカッカ!」
ハークの姿を見て、近寄ってきたのは
村で出逢った薬剤師ロニィである。
彼はあの灰色の服と似た
真新しい上下を来ていた。
手には程よく濡れたモップがあり
廊下の掃除中のようだった。
「あ、あぁロニィさん。
どうしたんだ? 廊下を掃除して」
「む? そうか、聞いてないか。
ワシはここで事務・警備・清掃員として
働くことにしたんだ」
「なんだその三点セットは」
「聞けばここのスタッフは
子供たちの世話やらなんやらで忙しい。
ならワシは、ここで手の回らないことを
しよう、という寸法でな」
ロニィは誇らしげにそう語り
ふとある部屋へ目を移す。
「フェンリーは、やはりわるいこ
ということだった」
その表情は、やはりそうだったと
笑い飛ばそうとしているものの
どこか申し訳なさと悲しさの入り交じる
困惑した様子であった。
「熊になって、落ち着いて、心のどこかで
フェンリーは病気ではない、間違いない、と
自分に言い聞かせていたのだろう。
……結局、どこぞの医者の見立てを信じて
何かの因果だ、と償おうとしていた。
全く……、一体何のために鍛えたんだと」
ロニィは精一杯に笑う。
取り繕っているが
落ち着かない様子であった。
続きます。
次話投稿予定は2021年4月15日(木)です。




