例えば、話せる人がいるという幸せを
便宜上、ここから第5話になります。
よろしくお願いいたします。
「おかえり! ってあれ?!」
本部研究所でべルードが待っていた。
「ただいまべルード。
早速だけど手伝ってくれる?」
博士はヘリに居るふたりを指し示す。
ひとりは意識はあるも
人に戻れていない黒獅子エリー。
もうひとりは人の形を保ちつつも
竜の様相を持つラプトル・ハーク。
「エリーさん、は分かる。
えっと、ハークくん?!
どういうワケ!?」
「ガ……ガ……ガ……」
ハークは身振り手振りで
伝えようと腕を動かす。
しかし状況の複雑さから
必死のあまり、ぎこちなさが
目立ってしまう。
「……あ、あぁ話せないワケね。
わかったよ。そういう子もいる。
博士、ふたりは」
「ミス・エリーは14番ね。
ハークくんは、6番。
……みんなお疲れ様。まず休もう」
博士の一声に、イチモは電話をかける。
本部から数人のスタッフが
ぞろぞろと足早に現れた。
黒獅子エリーを丁重に
人として連れていく。
黒獅子エリーの歩みはどこか重く
目線は斜め下を向いていた。
「ーーハークくん。行こうか」
べルードの言葉に
ゆっくりとハークは歩きだす。
少し猫背気味だが、足取りは変わらない。
変化した腕を隠すようにして歩いた。
その様子に、ベルードはどこか安堵する。
一歩一歩をみまもり、ハークの横に並び
共に歩いていく。
「……博士。来てよかったのか」
そんなふたりの様子を
眺めるロニィは心配そうに話す。
「いいとも。あの酒の席で
僕の話を聞いてくれたのは
ロニィくらいだったし。
こうして来たのも君の言う縁? だよ。
……さぁ娘さん、だっけ? 調べようか」
「よろしく頼む」
娘フェンリーを大事に抱えて
ロニィは深々と頭を下げる。
博士と共に研究所へと入っていく。
* * * * *
ーー次の日。
エリーは元に戻っていた。
しかし浮かない顔で
しきりに髪をいじっていた。
髪がうまく整えられないようだった。
「おはよう。ミス・エリー?
君に言われて、ご飯を新しくしたんだ」
「……そう」
「口に合えば幸いだね。
……まずは食べようか」
エリーは無言のまま
用意された食事を取る。
「博士。前に聞いたこと
答えてなかったわ」
「前?」
「周りがよそよそしくなった? って」
「あ、あぁ、そうだね。
……思い当たる節が?」
エリーは食事の手を止め
記憶を巻き戻すように言葉にしていく。
「――私、誰もが自分の出来ることをするのが
何より良いって思っている。
無理して、周りに迷惑かけるよりも、ね。
そうすれば、みんな自分の力を発揮しあえば
物事全て解決する……って思った。
……けどそれは私の一方的な考えで
誰かにとっては、間違いだった」
小さいながらも、ため息ひとつ。
エリーの話は堰を切ったように
それまでの思いも交じり始めた。
「……だんだん周りに合わなくなるなんて
よくあったわ。それで自棄になってた。
そんな時、あのマネージャーに声かけられて
スタイルとか褒められて、女優を目指した。
浮かれてた。あの時は本当に楽しかった。
けどやっぱり、私の考えは変わらなくて
結局私は、ひとりになったの。
――あの駅でのこと。あんまり覚えてないわ。
気づけばここに鎖で繋がれてた」
手にしていたフォークを握りしめる。
危うく机を叩きつけかけたようで
内から沸き起こる様々な感情が混ざり合う中
エリーは震えつつ、ナイフとフォークを置く。
「そしてこの前、村人から取り囲まれた。
何か言われているのはわかったの。
その時、本当に悲しかった。
……私、間違っていたのかなって。
周りに、押し付けてたのかなって」
エリーは一筋の涙を流す。
感情と口とが並行ではない。
語るその姿に、博士はゆっくりと口を開く。
「ミス・エリー。
君の言うとおり、自分の正しさは
誰かの間違いなのかもしれない。
……僕も、今でもこの『わるいこ』の
研究について言われるんだ。
そんな研究するな、何の役に立つんだって。
けど、最初の子と出会って研究して……
それから半世紀経った、かな。
ようやく、ハークくんやべルード、レムザ。
それにミス・エリーの話を聞く人になれて
よかったと思っている」
博士の話に、エリーはなぜかホッとしていた。
小さくも重く持ち上げられないほどの
心の底にあった何かが、ふわりと浮かんでいくような
そんな心地であった。
エリーの目には涙が溢れた。
「ーーミス・エリー。
ロニィからの資金援助の話
なんだけど、ね」
博士の言葉に涙を拭う。
元のまでは行かないが
毅然とした表情へとなり
エリーは向き直る。
「そ、そうね。ゴタゴタで
話が進まなかったわ。
……でもロニィ氏はあの時
無理と」
「実は村に納めるお金だけで
ほとんど持ってかれてたから
持ち合わせ無いって。へそくりもない。
つまり、一文無し」
しばし、沈黙が漂う。
「……いいジョークね。嫌いじゃないわ」
エリーは涙をぬぐい、深呼吸ひとつ。
笑顔のまま、額に青筋を立てていた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
続きます。
次話投稿予定は
2021年4月8日(木)です。
追伸;2023年10月11日 より
一部描写を修正しました。




