達人、獅子をも制す。
"グルルァァァ!"
ライオン・エリーは威嚇しつつ
ゆっくり村人たちに近づく。
怯えた村人たちは物を、あたり構わず投げつける。
しかしその立ち姿から村人たちの手元が狂い
どれも狙いがそれる。
村人たちには、それが黒いライオンが
何か得体の知れない力によるものと考え
一層ライオンから逃げるハメとなった。
「ロニィさん! ロニィさん!」
「なんだなんだ騒がしい、って
やや、先ほどの。ハークだったか。
何だ。連絡はついたのか」
「それがーー」
ハークは村での話を伝える。
そしてまさにいま、助けを求めるため
自分を逃がしたエリーが
ライオンに変わったことを伝える。
「あのお嬢さんがライオン……?
本当かね。つまり、なんだ。
娘のように変身する人が居るのか。
まだ他にも……!?」
「博士と知り合いなら
知っているんじゃないのか?!」
「ただ酒の席で意気投合しただけだ!
あぁそうか。また俺は……。まぁいい!
それよりもお嬢さんを助けないとな!」
ロニィはハークをグイッと脇に抱えると
壮年の男とは思えない、狼となったベルードと
匹敵するほどの速さで、村へと走り抜けていく。
* * * * *
「気を付けろ! この虎は物が当たらねぇんだ!」
「バカなことを言うな! そんな話があるわけーー」
"グルルァァァ!"
「「ありそうだなぁ!!」」
ライオンの雄叫びに、村人の何人かは失禁した。
泡を吹いてその場に倒れる者もちらほら見える。
村人たちは手製の木の槍や農具をもって応戦した。
「おぉおぉ! なんと立派な黒いタテガミ!
これは強いと見受ける!
一度手合わせ……、いやいや違うか!
カッカッカ! これは、良いな!」
村人の前に勢いそのままにロニィが勇み立つ。
村人は突然のことに呆気にとられた。
「な、なんだロニィ! 恩を売り付けんのか!」
「そうはいかんぞ! 熊になる娘なぞ匿ってからに!
今度は虎を連れて来おうて! 疫病神め!」
「カッカッカ! まぁそういうな!
まずはライオンを止めねば!」
「なにいうてんだ! あれは虎だ!」
「爪に牙におっかない叫び声。どっからどう見ても虎だ!」
ライオンなんだけどなぁ、とハークは村人たちの話に
内心無意識のツッコミを入れる。
「……て、違うだろ!
ロニィさん! 熊の時みたく止めてくれよ!」
「保証せんが……いざ!」
* * * * *
"イヤーッ!"
ロニィは片足に力を入れ、跳躍。
ライオンの背に難なく降り立つ。
ライオンは振り落とそうと縦横無尽に跳ね回る。
それを利用し、ロニィは飛び上がる。
ライオンの上から、右掌を押し付ける!
熊に変わったフェンリーとのひと悶着と同じく
ライオン・エリーは勢いに負け、地に伏す。
ゆっくりとその真下から地面に亀裂が入った。
「おぉ! 初めてだが、これで良し。
幾分か耐えるとは、頑丈なライオンだ!
……いや、これは何かわけでも……」
「呑気なこと言ってないで! 逃げろ!」
ハークの一声に、ロニィはライオンを担いで
その場を疾風のごとく立ち去った。
「「……ライオンてなんだ?」」
残された村人は、ただ呆然と亀裂の入った地面と
空を眺めてそう思ったのであった。
続きます。
次話投稿予定は、2021年3月11日(木)です




