「黒い虎が突然現れた」と村人は語る
続いています。ここから便宜上4話です。
「おまいさんたち、どこから来た?」
村の入り口の前で見張りの老人が声をかけてきた。
「車が動かなくなったのです。
電話をお借りしたいのです」
「なに車? それなら村長の所だな。
おぉーい、誰か連れてってやれ」
老人の一声に若い村人が現れ
村長の家まで案内された。
* * * * *
「ここに来るのは珍しいですね。
……失礼ですが、観光ですか?」
村長がタバコを吹かしながら
ハークたちへ言葉をかけた。
タバコ、と言っても紙タバコではなかった。
村長いわく、村を訪れたある商人から
買い付けたもので『煙管』と
呼ばれる代物であった。
細長く伸びるそれの先、
煙がゆっくりと天井へ立ちのぼる。
村長の口から吐かれた煙も混ざり
一種の空気の流れの様子が見て取れた。
村長は比較的若い男であった。
笑みを絶やさない愛想のいい痩せた男だが、
目尻には赤い点、まぶたには黒い線と
化粧のようなものが見て取れた。
ハークの見た限りでは
レムザと同年か少し上と思えた。
長く伸びる整えられた髪は
紐で首筋辺りで一度ひとつにまとめられ
再度上へ持っていき、銀の大きな髪留めで
邪魔にならない様に止めておかれていた。
服も、村人たちの質素且つ簡素なものとは違い
深い青色を多く取り入れられ、小さな意匠が
所々にちりばめられたものである。
魚のうろこのような模様かと思えば
蛇の目のような模様もあちこちにあり
何か規則性があるわけではなかった。
「そうです。電話をお借りしたいのです」
「そうでしたか。
……おふたりは親子で?
村の牛飼いが、見慣れない二人を見かけた
って言っていたので」
「そ、そうでーー」
「いいえ」
「(即答?!)」
村長はそれを聞いてタバコの先に入った
灰をポンと灰皿へ落とす。
長く吸ったようで、中にあったものは
ほとんどが灰と化していた。
「それは大変だったでしょう。
では、こちらに。ご案内いたします。
あいにく電話を導入してまだ日が経たず
且つ模造品でしてね。切れることもあります。
何分不便化と思いますが、ご了承のほどを」
村長は電話専用の小さな部屋へと
二人を案内した。
* * * * *
旧式電話。
ラッパの送話口に、黒い半円の受話口。
ふたりとも初めて旧式の電話であったため、
村長に使い方を教わる。
一通り説明したのち、村長はどこかへ消えた。
「――はいはいアナグマ博士です」
「エリーです。やむを得ず車が大破しました。
新しいのを調達できませんか?」
「えー、予算かさむよ?いいの?」
「仕方ありません。
それと博士、ロニィ氏と逢えましたが……」
その直後。
電話室の外からガコンと
物々しい音が響く。
ハークが扉を開けようとするも
内にも外にも開かない。
「なんの音かな?」
「……すいません博士。閉じ込められました」
「えぇ?! 困ったねぇ。
他の人たちはまだ保護に忙しくて、
誰も出せそうにないんだ。
終わり次第向かわせるね!」
「待ってくれ博士。
ロニィさんの娘が、わるいこかもしれない。
熊だった!」
「え!? 熊?
うーん至る所で見つかるなぁ。
わかった。とりあえず、君たちで何とか頑張って!
それと、もし変身しても、気をしっかりね!」
向こうは電話が絶えず鳴り響いていた。
それに追われるスタッフの忙しない足音や
対応の声が止まなかった。
* * * * *
「おめぇさんたち、ロニィの知り合いけ?
なら悪い奴等だな? もう騙されねぇぞ!
俺んとこの娘返せ! 金を返せ!」
電話室の外から複数の怒鳴り声が
ハークたちへ向けられる。
返せ。返せ。返せ。
誰もが返せといい放つ。
「ハーク。ロニィさんに助けを求めて。
ここは私が何とかする」
エリーはそういって髪を結んでいた黒いゴムを外す。
いったい何を、と尋ねる前にエリーは扉を前に立つ。
ぞわぞわとエリーの身体が変わっていく。
黒髪は質量を増し巨大なタテガミに。
細いながらもしなやかさと程よく保たれた四肢が
その強靭さ故に床を圧していく。
「何の音だ?」
村人の一人が扉に耳を当てる。
"ぐるる……"
唸り声のすぐ。扉は外へと吹き飛ばされる。
部屋から黒いライオンが姿を現す。
続きます。
次話投稿予定は、2021年3月8日(月)です




