達人いえども、村に入れず
バルドリア山脈の麓村から離れた森の奥。
個室ふたつに共用部屋ひとつ、小さな木造小屋。
ハークたちは男から茶を出される。
「ワシが、ロニィ・ジェンだ。
アナグマ氏の使者とはな。
資金援助、だったか?」
ロニィから出された茶は緑色をしている。
コップではなく、湯飲みと呼ばれる食器に
淹れて出された。
『緑茶』というもので、ロニィが薬剤師の仕事で
ある商人から手に入れたものだと語った。
ハークは緑茶に手を付けず、じっと眺めている。
少し濁った水やコーヒーならまだしも、初めて見るものであった。
ハークの中では緑色は、腐ったものやカビたものという
イメージが拭えなかった。
一方、ハークの横に座ったエリーは
緑茶に目もくれず、すぐさま話を切り出す。
「はい。近年、保護の人々が増えています。
特に本部では他方から優先保護の子たちが居ます。
今の財政では厳しいため、御支援いただける方を探す中
ロニィ氏を――」
「……えぇい! 面倒な敬語は止してくれ!
仕事以外で、そう話されると嫌になる。
あい、わかった! しかしはっきり言えば
無理だ!」
ロニィは手に取った湯飲みを置く。
はぁ、と大きくため息をついた後、
作業着の胸ポケットから細長いタバコを
一本取り出し、手慣れた様子で火をつけ始める。
「何か出来ない理由でもあるのか?」
「む。小僧。……若いな。
ふたりは親子か?」
「え!? いやそのーー」
「違います」
エリーはきっぱりと否定する。
ハークはその様子にエリーの方を向くも
彼女は気に止められなかった。
「この子はハーク。私と同じスタッフです。
申し遅れました。私はエリー。
エリー・スカーレットです」
「ほほう。若いのにな。
ワシもそのくらいの歳から修行に明け暮れ
村一番から国一番にーー」
「ロニィさん。支援できない理由は?」
「……お嬢さん。ちょっとくらい
人の話を聞くもんだろう。
ユーモアは大事だぞ。特に生きる上では――」
「此方は子供たちの保護が優先ですので」
* * * * *
「パパ、誰?」
個室から出てきたのは
茶髪のくせっ毛の女の子である。
ハークと同等かそれより少し背が小さい。
くせっ毛は肩を越し、上から身体を
すっぽり覆ってしまうほど。
何も知らなければ、そのような小さな木と
見間違えそうな髪である。
少し眠いのか目をこすり
うつむきつつ心配そうに現れる。
「フェンリー。あぁ、すまない。
起こしてしまったか。
ワシの友人の知り合いが来たんだ」
フェンリーはハークたちへ目をやる。
その眼はまだうつろで、おおきなあくびをする。
「また、仕事?」
「仕事じゃない。
フェンリー、まだ寝ているんだ」
はぁい、とフェンリーは部屋へと戻る。
「もしや、先ほどの子はーー」
「娘のフェンリーだ。
いつ頃か、あの通り熊に。
遠くの医者に見せても
気味悪がられてな」
「博士、アナグマ博士の知り合いなら
検査してもらおうとは思わなかったのか?」
「……む。あぁそうか。ずいぶん昔に
博士と会ったきりだったからな。
いろいろ忙しく、すっぽり抜けていたな。
では、博士の所で検査できないかね?」
「可能でしょうが、あいにく車に置かれた
機器類が全て壊され、連絡出来ないのです」
「なんと。災難だったな。
だと村に……、いや無理か」
ロニィは肩を落とし、頭を掻く。
「何か行けない理由が?」
「……仕事が仕事で、事が事だ。
決定的なのは、娘の事が
村に知れ渡ってからだ」
ロニィは顎をさすりながら思案する。
「お前さんたち。村に入って連絡できないか?
村人たちに、顔を知られてないだろう。
村長に掛け合えば連絡できるはずだ」
「わかりました」
ロニィはそこまでの道のりを簡単に説明する。
エリーとハークは研究所に連絡するため
村へと入っていく。
続きます。
次回から便宜上、4話になります。
4話で、一区切りにする予定です。
次話投稿予定は、2021年3月4日(木)です。




