ラプトル・ハーク
ラプトルの動きは、動物の持つ直感を駆使する。
爪や脚はもちろん、長く細い尾を鞭のように振るう。
「ちょ、ちょっと!
この隙に逃げるわよ!
あれに構っている隙に!」
「ア? アァ……」
ベルードを気遣ってか、エリーは歩幅を合わせる。
”ギャアアアアアアアア!”
ラプトルは唸る。
特殊部隊たちの大半はたじろぎ
もはや自分達の身を守ることだけで精一杯だった。
「くそっ! 恐竜なんて聞いてないぞ!
ちぃ……っ! 引き上げだ!」
男の一声に、一塊の集団となり
彼らは研究所から出ていく。
しかしそれを許さない者がいる。ラプトルだ。
一塊となった特殊部隊へと、地面を思いっきり蹴る!
蹴って蹴って蹴って、ぐんっと跳躍。
特殊部隊の中心へと、牙と爪を広げて飛び込んでいく!
「う、うわあああああ!」
「逃げろ!逃げろ!」
統率が一瞬にして散っていく。
車に乗り込むもの、それを追いかけつつ逃げるもの
とにかくどこかへ駆けていったもの。
そこに集団の影も形も無くなった。
”ギャアアアアアアアア!”
ラプトルは天に向かって吠える。
何もない中、その場をぐるぐると回り
跳び跳ね、尾を無造作に右へ左へしならせる。
じたばたと地に伏し、子供の駄々をこねるようなしぐさを取る。
「な、なによあの子。
人を切り裂いたら、今度は砂遊び?」
「……違う。混乱しているみたい。
ベルード、ハークくんを見張ってて。
注射持ってくる!」
博士は急いで研究所内へ。
スタッフを大勢連れて、大きな注射銃を構える。
装填されるは猛獣用の薬品。
正確に撃ち込まれたラプトル・ハークは
だんだんと動きが鈍くなり、やがてピタリと止まる。
博士の号令でラプトル・ハークは捕獲され
研究所内六番の部屋へと収容される。
* * * * *
ーー女優のエリー・スカーレットが
急遽芸能界引退を発表。
所属事務所側から弁護士を通し
一身上の都合により引退および退所。
突然のニュースは、各メディアで小さく報道された。
「本当に女優さんなんすね、エリーさん」
「そうみたいだね。
……まぁ色々あって疲れも出て
いま部屋で眠っているのが幸運かな?」
「博士。ハークくんは?
……てか、恐竜ってなるんすか?!
レムザさんと同等レベルの驚きなワケっすけど」
「私も初めて。凄いよね、恐竜。
肉食動物、それでいてハ虫類は珍しいけど
輪をかけて恐竜! 理由は分からないけど
ハークくんを早めに保護してよかった」
「元に戻らない、て無いすよね?」
「それは、わからない。
ハークくんのケースが他の子と同じなのか
それとも恐竜だから特別なのかも未知だね。
彼自身が、戻ろうとすれば、きっと」
ベルードは博士の部屋に設置された
部屋の監視カメラ映像に目を移す。
ゆっくりと深く呼吸し
あまり動かず静かに眠っているエリー。
ラプトルのまま眠っているハークのいる部屋。
そして他に写された映像には
様々な人や獣の姿が写し出されていたーー
お疲れさまでした。ここまでが2話分です。
次回から3話となり、続きます。
次話投稿予定は、2021年2月11日木曜日予定です。




