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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】たちは、北東部へ向かう
109/322

細剣ルフェアと青髪ドレッドヘア

――なら、よく聞くさね、軍人さん。


少佐を目で追う中尉に

お構いなく老婆は言葉をかける。


「その腰に携える剣は

 ……いや、細剣ルフェアは

 振るう者の善と悪を見極め

 かつそれに呼応し、力を発揮する。

 軍人さんがより良く想うのなら

 その細剣ルフェアもきっと喜ぶさ」


「な……っ!? なぜこの細剣ルフェアを?!

 アンタは一体」


「アタシのことは知らなくていい。

 覚えてもらいたくないんでね。

 確かに伝えたよ。軍人さん」


老婆の言葉は中尉の背を押し

その気配は薄れ、消えた。


「知らなくていい、か。

 善と悪、振るう者に呼応する」


細剣を今一度確かめる。



蹴る。地を走る。


駆ける。壁を昇る。


宙へと飛び出す。


少佐の目の前。


その速さに、少佐は気づく。


「来たかッ!」


中尉が細剣ルフェアを抜かんとする。

少佐はそれを見逃さなかった。


「規律を破るか中尉。らしくないなッ!」


「軍法より人道を、と唱えた方が

 それを言う資格は、ないッ!!」


細剣が抜かれる瞬間。


少佐は高度を一気に下げる。



* * * * *



向かった先は、親子。


破壊された建物に取り残され

恐怖でその場にすくんでいる。


「待て!」


中尉は納刀のまま振りかぶる。


思いっきり振り下ろす。

その勢い、鞘を感じさせない速さ。



少佐を追い越す瞬間

細剣は輝き始める。


しかし少佐は振り返り

中尉の目の前に何かをつきだす。


子供であった。

母親は突き飛ばされ、壁に激突。



もう鞘からわずかに抜かれている。

目と鼻の先。戻すに間に合わない。


「正義とは、立場で変わる。

 犠牲もまた、正義となる!」


少佐は子供を前へと押し付ける。


中尉はうつむく。そのまま細剣を抜く。


輝きは一層増す。



「(勝った)」


少佐がそう思った瞬間。


視界が縦に真っ二つに分かれる。


斬られた。間違いない。


自分は斬られた。


だが、目の前の子供は

盾にしたはずなのに

斬られていない。


「細剣ルフェア。

 善を持って、斬るは悪。

 ならば、子供を盾にする

 悪だけを、斬る、のみ……ッ!」


「く、くそったれぇぇぇ!!!」


少佐の手から離れる子供を奪還し

その場から距離をとる中尉。


すぐさま母親に渡し、逃す。


斬ったはずの少佐から眼を離さず、警戒する。


「斬った。確かに斬ったな中尉。

 だが仮にも上司。反逆となるぞ」


少佐は地面に叩きつけられていた。

脳天から分かれた身体を押して

中尉に指さす。


「道を外れた上司など、人にあらず。

 もはや少佐ではない」


「……く、くく、くくく」


その言葉に、少佐は人目はばからず

腹を抱えて笑いこけた。


「では、この男にも

 意味はなくなったな。

 捨てるか」


「捨てる?」


それは服を脱ぐように

少佐の背を開いて現れた。



* * * * *



そこには青いドレッドヘアの

少年がそこにいる。


背丈は、わるいこ研究所の

ハークと同じくらいである。


自身の足元に転がった少佐を

まるでゴミを払うように足で蹴とばす。


「知ってる? 化けの皮ってんだ。

 脱皮。尻尾切り。変わり身の術。

 どれもこれも自分だけど、自分じゃない。

 誰もが自分と思っているじぶんを被って

 求められている役を演じて、生きている。

 それが上手ければ、この世は渡っていける

 って話なんだよね。こんなこと出来るのは

 俺だけしかいない、そう俺だけな」


その青髪は長いため

後ろでひとつに結んでいる。


上着は薄い黒の肌着一枚。

下は大人用の作業用ズボンを

裾を限界までまくって

ベルトで固定したもの。


額には飛行機乗りのようなゴーグル。

黒地で、骸骨の顎をあしらったスカーフを

首に巻いている。


手には何物も触りたくないのか

厚手の耐熱グローブらしきものを

つけている。


その中で目を引くのは彼の目。

突然片方だけ飛び出たり

ぐるぐると小刻みに動く。

しかしその瞳孔はカメラのように

幾重にも奥に何個も存在している。

もはや人の目ではない。


中尉がそれに戸惑った様子に気づくと

カラカラと笑って目を戻した。


「どう? どう? すごいだろ!?

 こんなの俺だけが出来る特技。

 お前できないだろ? そうだよな!

 できないよな! 俺だけだもんなぁ。

 俺ってすごい。俺以外どうしたのさ?

 何も無いの? へぇ変わってるな。

 努力とか才能とか、そういう話?

 うはは、面白れぇ。面白れぇな!」


少年は手を叩いて喜ぶ。


無邪気に笑うその様は、子供である。

しかしその笑顔は、歪だと中尉は感じた。


口を大きく開けて笑った時

そこから見えたのは、虫歯だらけの歯。

上下の歯も数本抜けており

そこからは生えてこない様子だった。


また、よく見ると上着の裏。

チラリと見えたのは、あざ。

時間が経っているのか紫に変色している。


腕や足など、肌を出ている部分には

擦り傷や切り傷などは見当たるも

絆創膏やかさぶたなどで処置されている。


青髪のドレッドヘアは、染めているようだ。

笑った際に頭頂部分は茶色もしくは

黒髪が見受けられた。


「――というか、さ。

 アンタ何でそれ持ってんの?」


青髪の子供は、中尉の持つ

細剣ルフェアを指さす。


その声は、先ほどの騒がしさとは

打って変わり、侮蔑するような声。

低く、淡々と、突き刺すような声。


中尉を睨むその眼は、間違いなく

まっすぐ何もかも見通さんとする

尋問に近しいものを中尉は感じた。

ここまで読んで頂き

ありがとうございます。


続きます。次話投稿予定は

3月14日(月)のお昼ごろです。

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