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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】たちは、北東部へ向かう
108/322

後始末と抜刀

――中尉が店へ入る少し前。


ブラクバは自身の力をうまく使い

値打ちのある金属をゆっくり回収していく。


「すげぇ、これも値打ち物だ。

 銅貨も銀貨も集まってきた。

 ……? 見慣れないものもあるな。

 けど、兄貴の力で引き寄せられたんだ。

 きっとすごい値打ち物に違いないっ!!

 これで借金は全部返せる……っ!」


「う、う、うーん……。

 あと、どれくらい?」


ブラクバは目を閉じ、額に汗かき

うーんうーんと、一心に念じている。


「もう少しだ兄貴!

 これで――」


「これで、なにが、起こるさね?」


突然かけられたその言葉に

リードは背筋が凍る。


ゆっくりとその方へと体を向ける。


そこにはいま一番会いたくない

鬼の形相をした行商人が

顔を近づけて待ち構えていた。


「あ、あぁいや、そのぉ……。

 こ、これだけあれば借金が――」


「借金ドコロじゃないよ……ッ!

 ウチの商売を潰す気かい?

 いい度胸さね。おかげで、見な」


行商人は指差すは壁の穴。

まるで外を見張るように作られたような

人間の指一本入るほどの小さな穴。



* * * * *



リードが目を凝らして見ると

そこにはやけに静かなビル群。


しかしよく見ると

その隙間にぞろぞろと

隊列を組んで動く塊が複数。


リードは焦る。


軍だ。


今まさに近くにいる

行商人の老婆と同じくらい

絶対に会いたくもない奴らだった。


「さて、交渉しようかね」


「え?」


サンサ兄弟を前にして

老婆はそこらに置かれた

木箱に腰かける。


どっしりと腰を据えて

サンサ兄弟が集めた物を

品定めした後、口を開く。


「この集めた品物を

 今回の騒動の分として没収。

 だが、足りないね。軍まで来た。

 この分、また借金とする。

 アタシだって鬼じゃない。

 アンタ達が喉から手が出るほど

 欲しかった返済期間の猶予を

 与えるさね」


「つまり、また借金増えちまう……」


リードはうつむき、思考する。


軍隊の俊敏な足音がだんだんと

はっきり聞こえ始める。


だがいま目の前にいる老婆の提案を

飲んでしまっていいのか。


「さぁどうする? 決断の時だ。

 アタシはアンタらを突き出して

 そうさね……。報奨金でも貰おう。

 それと今までの事も伝えておくね。

 例えば、最近まで軍への不可解な

 電子機器類やら物資の喪失の――」


「わ、わかった……!

 それでいい!」


「リ、リ、リード?」


端から聞いていたブラクバが

一瞬リード達の方へと意識を向けた。


「いいんだ兄貴。俺に任せてくれ」


リードは頭を下げる。


「わかりました。その提案、受けます。

 集めた品物と、返済期間の猶予の交換。

 よろしくお願いします」


その姿は、本人が身に着けた

いや、叩きこまれたような

礼儀正しさがそこにあった。


「交渉成立だね。猶予は、2週間だ」


リードは内心ほっとし、息をついた。


「だが、まず後始末をしないとねぇ。

 ブラクバ、アンタの力の使い所だ」


「へ?」


ブラクバは自分に指さし、頭を傾げた。



* * * * *



「ふはは! その俊足は健在だな。

 中尉、君が逃げ隠れるなど

 部下がどう思うかな?」


少佐、と思われる男は

翼を強くはためかせ

突風を巻き起こす。


路地裏に面した建物の窓は

耐えかねて破壊されていく。


中尉は狭く入り組んだ路地を走る。

壁を走り、蹴って前へ進む。


「(少佐、のはずだ。だが少佐か?

 まるで、あのレムザニットのような

 わけのわからない力じゃないか!

 どうなっている? まさか、少佐も

 その、わるいこ……?)」


中尉が壁を蹴る。

別の路地へと逃げ込まんと、滑り込む。


「む!」


中尉の姿を見失った少佐は

天への飛び上がった。


空から路地裏を見下ろす。


「ふはは! 隠れたか中尉!

 出てこい! 逃げられないぞ!」


少佐はその場を旋回し

何度も突風を地上へと叩きつける。



「お困りかい。軍人さん」


突然何者からの問いかけに

中尉は振り返る。


そこにはボロの布を何枚もまとう

中尉の半分にも満たない背丈の

老婆がひとり。路地裏の地面に

座り込んでいる。


「む!? 何者だ」


「あたしゃ見ての通りさね。

 見たところ、あんな奴と戦うのに

 その剣は使わないのかね?」


老婆は、中尉の細剣ルフェアを指差す。


「民間人が知る必要は」


「そうかい。じゃあ問おうかね。

 いまあそこで飛んでいる奴は

 アンタの知る少佐ひとかい?」


老婆は旋回している少佐を指さす。


突風を地上へ叩きつけている。


元からあった建物は耐えきれず崩れる。

路地裏の一角に並んだ掘っ立て小屋など

元のゴミに戻ってしまう。


「突然で気づかなかったさね。

 周りをよくご覧。

 物陰に身を隠す男がひとり、

 子供を守ろうとする母の姿は

 見えないのかい?」


その言葉に、中尉はハッと周りを見る。


老婆の言うとおりである。

突風に破壊された建物に怯える人々。


泣き叫ぶ子供。それを抱え怯える女性。

何が起こったかわからず逃げまどう人々。


「違う。少佐は民間人を守る人だ。

 何か理由があるのだろう。

 しかし、他者を虐げてまでのことか」


中尉は細剣に手をかける。


「いいのかい。軍人さん同士で

 イザコザとなれば、軍だけじゃなく

 この大陸にまで広がってしまうさね」


「……軍という組織でなくとも

 民間人を守る方法は、ある。

 俺は、俺自身は、民間人を守るために

 軍人となった。この考えは、変わらない」


中尉は木箱を一度老婆に預ける。


少佐の姿を見据え、細剣ルフェアを抜刀する。

ここまで読んで頂き

ありがとうございます。


続きます。次話投稿予定は

2022年3月11日(金)です。


お楽しみに。

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