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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】たちは、北東部へ向かう
107/322

急襲と傷

――中尉。君は良くやってくれた。


その声に驚き、振り向く中尉。

木箱を隠しつつ、振り返った。


そこに居たのは、少佐。



* * * * *



「少佐!? 先程まで

 通信をしていたはず」


「そう。していた。

 だが任務中に事情が変わってね。

 臨機応変だよ。よくあるだろう」


少佐は手を後ろに

中尉へゆっくり歩を進める。


「しかしあの行商人、いやあの老婆は

 元看護師にしては、頭が切れる。

 やはり国立卒、だけのことはある。

 ……いや、そんなことはどうでもいい。

 だからこそ、だ。私が直々に来たのだよ」


中尉は少佐の言葉に

違和感を覚える。


「中尉。君が明日より研究所の

 警備の任に付くのは、私には僥倖でね。

 何せあそこは、そう行ける所ではない。

 そう、どこぞの金持ちが保身のために

 襲撃する以外、ほとんどない。

 ――なぜ、あの研究所ができた?

 そもそも【わるいこ】という

 わけのわからない言葉遊びな事象を

 なぜ研究所施設を設けるに至った?

 それは国も大陸も、理解しているのだ。

 それが重要な代物と。そう、モノなのだ」


眉間にシワを寄せ、顔色一つ変えない。

満面の笑みのままである。


笑顔である。しかしその表情は

怒りが入り混じっている。



ただ中尉が持つ木箱を凝視する。

少佐はゆっくりと中尉へ歩み寄る。


「……ッ! お待ちを」


中尉は反射的に少佐と距離を取る。


それは間合いに近い。

木箱を持ち直す。


帯刀する細剣を

手の感覚だけで確認する。


「抜刀は禁止だ、中尉。

 それとも、その木箱のジュースが

 飲みたいかね?」


少佐の手は自然と中尉の持つ

木箱に差し向けられている。


「少佐。貴方の話は分かりかねます。

 ですが、貴方にこの木箱の中身を

 渡してはならないことだけは

 わかります。」


「――そうか。残念だ。

 君なら、理解してくれると思ったが」


少佐は軍帽を取る。

胸に当て、しばし思いに耽る。


その眼が開かれた時

軍帽はその手のひらに潰される。


「この男も、そろそろ飽きてきた頃だ。

 軍規違反。それに伴う相討ち。

 ……格下げも、まあ仕方ないな」


軍帽を中尉の顔面めがけて

勢いよく投げつける。



突然のことに、中尉が払い除ける。


その次、目の前に現れたのは少佐。



「それをよこすのだ、中尉ッ!」


伸ばされた少佐の腕は

あと一歩の所で木箱に届かない。


中尉のその眼は捉えた。



少佐の身体が変化している。


禍々しい鉤爪がギラリと光る。

金色の眼光はこちらを捉えている。

少佐の背からは不気味な翼が2枚。

大きくはためかせている。


「貴様……。誰だッ!?」


「何を言う、中尉。私は私だとも。

 それとも、私を忘れてしまうかね。

 ……あぁそうか。君も忘れるのだな」


少佐の急襲は徐々に速まっていく。



* * * * *



――行商人の店。


あの男。ベルードの兄貴と

思わしき人物が現れる。


「ぐるる……」


体中、主に脚への切り傷が目立つ。


胴には紫に変色した痣が無数に並ぶ。

治りかけの上からは何度も何度も

ひっかき、切り裂き、えぐるような

一閃が刻まれている。


顔にもいくつか傷がつけられている。

それはまだ血が滴っているため

新しいものと思われる。


「あの男もわるいこ。

 ですが、わるいこがわるいこで

 なくなったら、あるのは自壊。

 ほとんど、死にます」


「死、え……っ!?」


男は態勢を低くし

ハークとライラナへ威嚇する。


牙のように鋭くなった歯をむき出し

飛びかからんと、機会を伺う。


「あの男は、運がいいのです。

 ここで出会うは、いい機会です。

 あなたがあの男を知るのです。

 そして、引き戻させなさい」


「は!?」


「ここから逃してはなりません。

 必ず戻してきなさい。

 主人の指示から、派生させ」


「どうしろと?!」


「貴方たち研究所スタッフの

 得意分野でしょう。言うなれば、保護。

 私ができるのは荷運びと記録だけ」


「無茶苦茶だ!」



男は飛びかかる。


ライラナは一拍前から飛び退き

その場を離れている。


男は、ハークに狙いが定まっている。


「嘘だろッ!?」


とっさに鉄槍ウェネスを出現させ

ハークは、男との力比べとなる。


すぐに、手足を赤い竜へと変える。

歯を食いしばり、体格差を補う。


「(なんて、力だ……!? 重い……)」


「(うー? うー!)」



するとハークのお腹付近がもぞもぞと動く。

服の隙間から顔を出したのは、ユミナ。


「ユミナ!? 出てきちゃ――」


「うぅぅ! ふうぅぅぅ!」


ユミナの一息は男の傷にかかる。

胴にかかり、放射状に足へ顔へ腕へ

それは広がっていく。


みるみる内に傷がふさがっていく。

しかし痣だけは残った。


するとその違和感に気づいたのか

ハークの鉄槍を弾き、男は距離を取る。


ふさがった傷の痕を眺める。


治っている。

きれいさっぱり治っている。


「ガ、ガ、……ガアアアアアッ!」


恐れるように、狂ったように

自身に爪を立て、再度傷を増やしていく。


「何、をしているんだ……?」


先程までハークを狙っていたはずが

それを放っておき、自身の身体を

傷つけることに躍起となっている。


あまりの突然のことに

ハークはただ呆然としていた。


「うー! うい!」


ユミナは服から出てよじ登り

ハークの頭に陣取る。


「う! ういうー!」


ユミナは誇らしげに片手をあげ

満足そうである。


「危ないから戻ってユミナッ!!」


「うぅぅ! ういうー!」


「痛たたたたた……!」


ハークが戻そうにも

がっちりつかんで離さない。



「うー!」


「な、なんだ……」


ユミナは指差す。

傷をつけなおした男は身構える。


その目線は、ハークよりも

ユミナをかなり警戒している。


「さすがに離れてユミナ」


「ううーッ!」


どうしても離れない。

どうする。ユミナを守りつつ

ベルードの兄貴と戦うのか。


出来るのか。しなければならないのか。

どうにかユミナを戻せないか。

どうする。


男は立ち上がる。

こちらを見据えている。


しかしよく見ると先程よりも

こちらを、いやユミナを警戒している。

ハークではなくユミナに目線がいく。


「……、離れないでねユミナ」


「うい!」


ハークは覚悟する。

ユミナを守りつつ、男と相対する。


大きく、深呼吸ひとつ。


鉄槍を構え直す。

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


続きます。次話投稿予定は

2022.3.7(月)です。

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