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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】たちは、北東部へ向かう
106/322

【わるいこ】とマンゴージュース

「……も、もういいよな?」


箒を持ち直し、息をつく。


* * * * *



「良い演技でした、ハク」


「ハクって……。まぁ誰なのかは

 すぐわかるからいい、かなぁ」


子供ハクは前髪をかき分け視界を広げる。

しかし髪は、その先から重力に負け、戻る。


「あぁ、貴方には長すぎたようですね。

 私のですが、こちらへ」


カウンターの女性ライラナは

どこからか細長い髪留めを取り出す。

子供ハク、もといハークの前髪を留める。


「なんでこんな格好に……」


「敵の目を欺くには

 まず見慣れない格好がよいのです。

 初めて見るという感覚が、疑いを払う。

 という主人のお考えです」


「えぇ……。ならもう少し服装を、

 というかなんでライラナさんと同じ

 何て言うのかよくわからないけど」


ハークは自身が着ている服を

改めて確認する。



ライラナ曰く、エプロンドレスというもの。

自身と同じようなものだが少し違う、と

ライラナは一言付け加えて説明する。


黒の上下がつながったもの。

背中のファスナーを以て着脱する。

今回はライラナと似たものにするため

後ろの腰あたりで飾り紐をつけている。


肩の部分が膨らんでいるが

何かふかふかしたものが入っている。



「現に欺けました。彼の目には

 貴方は職場体験に来た子にしか

 見えなかったはずです。

 あの男、シャル中尉は少しでも

 疑わしければ、なおさら問いただします」


「知り合い、なのか」


「いいえ。主人からの事前情報です。

 それに、咳払いや仕草はもちろん

 貴方に対しての態度も、不自然でした。

 ですが、一番はネクタイです」


「……ネクタイ?」


「あれは借物でしょう。歳相応ではない。

 あの歳で選ぶならもう少し安いもので

 かつ色も違うでしょう」


ライラナは本を取り出し

何かを書き込んでいく。



* * * * *



「それにしても、ジュース?

 開けたとき、中尉は驚いてたけど」


「マンゴージュースなのは変わりありません。

 ですが、それを注文する人間たちは

 味か、価値か、いづれかで買い付けに来ます」


「どういう――」


「マンゴーそのものを

 見たり食べたりは?」


「え? たぶん無い、です……」


「構いません」



ライラナは本へ書き込むペンを止め

ページをめくっていく。


「これがマンゴーという果実モノです。

 実際はこれより小さいものしか

 現在この大陸にはありません。

 もっとも、生るだけでも奇跡です」


そこに描かれていたのは、卵型の果実。

色は赤や黄色、そして緑の三種類である。


太い木の幹から生える枝先。

その先にふたつ、もしくは三つ生る、という。


その木は天へと伸びるようまっすぐ生えている。

葉は楕円形だえんけいであり、重なり合ってる。


初めて見たハークであったが

ある程度特徴を掴んで、絵に描けるほど

平易な見た目であった。


「これが、マンゴー。初めて見た」


「もう実物を目にするのも珍しいでしょう。

 しかしこの木は貴方や、……いえ、私たちだからこそ

 馴染み深い木です。……分かりませんか?」


ライラナは本ではなく

ハークの方へその細目を向ける。


考えた。辿った。思い返した。

しかし自分自身が見てきたもので

馴染み深いもの、と問われた木。


「……すみません。思いつかないです」


「……別名、モカウの木。

 わるいこ研究所のスタッフなら

 ご存知ですね」


「モカウの……。知っている。

 けど、マンゴーの木が、モカウの木?」


「そうです。あぁ、もしかしたら

 彼はそこまで教えてはいないのですね」


「彼?」


「Dr.アナグマです。モカウの木に備わる

 とある力があると考え、わるいこ研究と共に

 独自研究をしていました。

 ……我々わるいこたちの安全と安寧を守るために。

 限りある一生を、かけがえのない奇跡を

 そして次のわるいこたちを、護るために。

 ……彼は最初こそ願ったのです。

 わるいこの根絶を。わるいこなど、いなくて良い

 とさえ思った」


「……っ!? 待ってくれ。博士が?

 わるいこが、居なくなってほしい……?」


「いいですか。いつか貴方は、近い将来に

 【わるいこが何であるか】【わるいことは】

 という問いに直面するでしょう。

 主人はそれを半世紀も前から調査し

 ようやく手にした情報こと

 あなたは今まさに、聞けるのですよ」


「……どういうこと、ですか?」



* * * * *



ライラナは立ち上がり

店に置かれた棚から本をひとつ手に取り

別の場所へ移す。


すると棚はスライドし

奥から新たな本棚が現れる。


「――主人ではないため、細かな部分は省きます」


ライラナはそこからなぞるように本をたどる。

そして一冊の、赤い装丁の本を取り出す。



「【わるいこ】。エイール大陸創成の直後

 大魔法使いエイールが、最初の一歩を踏み出した。

 そこで多くの同じ時を生きる動物たちと出会った。

 彼らはエイールを守るべく、各々がエイールの魔法を

 あるものは一端を模倣し、あるものは生み出した。

 最後は、大魔法使いエイールを守る戦士として

 または騎士として、その生を全うした。

 ……これがいわゆる【わるいこ】の原型であり

 『廃墟の戦士の証』という伝説が元になっています」


赤い装丁の本のとあるページに

ゆっくりと手をかざしたライラナ。


かざした後から、文字が光を帯び

浮かび上がる。


『廃墟の戦士の証』という言葉を意味する

その文字の羅列が、ライラナの指先にとどまる。


「……もしかして、博士が言っていたのは」


ハークは思い返す。

わるいこについて、アナグマ博士に問うた。

()()()()()()()()()()()()()()()、と。


「従者って、戦士? 騎士? というものなのか。

 ……それじゃエイールって人は、神様なのか」


「従者。なるほど。彼はそう解釈したのですね。

 彼らしい、いや、手に入れた文献が問題であった。

 その可能性もありますが、およそそうでしょう」


ライラナは赤い装丁の本を閉じ、戻す。

浮かび上がっていた文字は途端に消え

どこかへと霧散した。


「後世、何を面白がったか

 それを動物の特徴を表出した子どもたちを

 それにあてがい、また頭文字を取って

 【わるいこ】と呼ぶようになったのです」


ハークは呆然とする。

説明に使われた言葉の意味が難しいこともあるが

ただひとつわかったことがあった


「つまり、わるいこってのは

 その魔法使いの、手下……?」


ハークはそうつぶやく。

それに引かれるように、あの記憶がやってきた。


鮮明に覚えている。


博士は言っていた。

自分の問いかけに答えてくれた。



――違う! 違うんだ! そう考える人もいる!


――けど君たちは人だ! 僕らと同じ人間だ!


――ただ、動物に変身する力があるだけなんだ!


――それ以外は同じ人間。同じ命ある人間だ!」



「――手下では、決してありません。

 恐らくは、主従。例えるなら、親子。

 それから兄弟、姉妹、祖父母と孫。

 広く言えば親友、悪友、隣人、仲間。

 ……私と主人マスター、といった縁です。

 人である魔法使いエイールに対して

 伝説に関わった動物たちが自ら進んで

 結果的に後世では、戦士や騎士という体で仕えていた。

 ですが貴方のように、見ようによっては――」


その時、地鳴りが起こる。


はらりとホコリが舞い散る。

そして突如として出入口の扉が

店内側へ吹き飛ぶ。


「ガ、ガ、ガガ……」


あいつだ。ベルードの、兄貴だ。



* * * * *



「(しかしあの子供、どこかで――)」


シャル中尉は帰還の途中であった。


あの子供、ハクがどうしても気になり

考えに耽っていた。


“ガンッ!”


ふと中尉は誤って、帰路に立つ柱に

木箱をぶつけてしまった。


ガチャンと音と共に

箱内からダラダラとしたたる液体。


「(! しまったッ!!

 考え事をしていた、ら――)」


液体はこぼれている。自身の手に伝っていく。

しかしそれは冷たくない。むしろ温かい。


こぼれたことが引き金となったのか

他のマンゴージュースも突然震え始める。


「な、なんだ。何かの仕掛けか!?」


「いいや、中尉。君は良くやってくれた」


その声に驚き、振り向く中尉。

そこに居たのは、少佐であった――

ここまで読んで頂き

ありがとうございます。


続きます。次話投稿予定は

2022.3.4(金)です。


※追記※

作中、一部の文章表現を整えました。

→2022年2月28日 22時47分

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