任務下でも信念を
「おいお前――」
中尉の呼びかけに子供ハクは驚く。
箒を握りしめ、震えている。
カツカツと中尉は靴を鳴らす。
だんだんその姿はハクには
大きく見え始める。
「――どうしてここで働いている?
先程の女の……、妹か?」
中尉は膝をつき、子供ハクと同じ目線となる。
そしてベルと呼ばれた女性が
入っていた扉を指し示す。
ハクと呼ばれた子供の様子を
中尉は少し気を付けて確認した。
最初と接触した時、どこか周りを見渡し
怯えているように見えた。
それを知ってか、カウンターの女性は
指示を出して仕事をさせていた。
着ているものは他の二人と同じ。
どこかほつれていたりしていないか。
それが子供の背丈と合ったものか。
とよく確かめる。
少し背が丸まっている。
怯えているのもあるが
相まって、やけに腹部が大きい。
中尉が凝視しているため
子供ハクはあまりのことに
その場で固まる。
――いいかい? アンタは喋らない方がいい。
ハッと我に返ると
ふるふると首を横に振る。
「なんだと……。知っているか。
子供の労働は、大陸共通法令にて
原則禁止されている。
しかし、居候もしくは奉公や奉仕
または仕事見習いならば、それは法令外。
これは大陸に生きる者すべてに通ずる。
知らないのか」
子供はまたも首を横にふる。
「……先程の女に聞かねばな。
それにしても遅いな。
そんなに大荷物なのか
マンゴージュースは」
中尉はため息をついて立ち上がる。
眉間に指をあててカウンターへ戻る。
帽子を一度外し、女を待った。
もう一度ハクに目をやる。
もしや……、と中尉の胸中はうずまく。
耳にかけた通信機器に手をかけようと
思ったが、飲み込む。
任務後、少佐か他の同僚たちに任せよう。
「(すまない、ハク)」
中尉はカウンターの女性を待った。
* * * * *
カウンター内の扉が開かれる。
「おまたせしました。
申し訳ございません。
こちらが商品でございます」
その手にあったのは、木箱ひとつ。
カウンターにドンと置かれる。
おおよそ彼女一人が力の限り
持ち上げるのがやっと、と
言わんばかりと現れた。
側面には赤い字で『取り扱い注意』
と言う意味の言葉が書かれている。
――中尉。木箱が出てきたか。
ゴホッ
――すぐに開けて確かめろ。中……
突然、少佐の声が途絶える。
直後、チチチ……という
小さな音を最後に通信機器の
反応がなくなる。
「(何!? ここで壊れるのか?!)」
「どうしましたか?」
「い、いや、少し立ちくらみが
しただけだ。少し待ってくれ」
中尉はそう繕うも
この後の事を知らされていない。
中尉は必死に考えた。
『中……』と最後に少佐は言っていた。
中、を確認する。中尉は直感でそう考えつく。
中尉は恐る恐る木箱に手を触れる。
中身はもちろん、これの価値などは
一切わからないが、単純に頑丈である
ということはわかる。
そして少し押してみるも
ビクともしないほど重い。
「(開けるしか、ない……っ!)」
中尉は意を決して、木箱のふたを開く。
* * * * *
「……これは」
中尉はその中身から、ひとつ手に取る。
『エイール大陸の恵み マンゴージュース』
木箱には、ぎっしり詰まったマンゴージュース。
立方体に近い木箱の高さの半分ほどに二段。
ラベルにはマンゴーの写真が大きく貼られた
深い緑色の瓶入りジュースが25本ずつ。
上下を仕切るように、一枚の薄い板が
瓶ジュースのふたと底に挟まれている。
仕切り板には『取り扱い注意』と書かれているが
小さく端には商品名と思しき文字が見える。
「(本当に、マンゴージュース、だと?)」
「こちらで間違いはありませんか?」
「あ、あぁ、すまない。これで――」
中尉は渡されていたスーツケースから
ずっしりと重たい封筒を手渡す。
「確かに。ありがとうございました」
木箱を抱えて店を後にする時。
中尉はふと元の位置に木箱を置き
カウンターの女に問う。
「すまない。あそこの子供。
法令では子供の労働禁止が
盛り込まれている。あの子は?」
中尉は掃除している子供ハクを
背中越しに指し示す。
カウンターの女性は一瞬言葉に詰まる。
しかしふと自身の後ろの壁に目を通した。
「その子は、……職場体験の子です」
「なに。職場、体験、だと?」
「はい。その書類はこちらの壁に。
中には、同じく問う方もいらっしゃるので
見える場所に、こうして掲げています。
前は別の場所に――」
女性は丁重に示す。
カウンター内、壁の一角。
複数の書類のひとつ。
そこには『職場体験 受入店 証明書』
と書かれている。
しっかり大陸のどこぞの役人の名と
署名、判が押されている。
「……そうか。
出来るなら、職場体験であるという
何か分かる目印でも付けてほしい。
壁の証明書だけでは心もとない。
……店独自でも構わないから
名札とかマークとか、検討してくれ。
……では。騒がせた」
中尉は木箱を抱えて店を出る。
去り際、もう一度子供ハクを一瞥する。
「(職場体験、か。……羨ましい限りだ)」
その時、ハクは箒を持ちながら
中尉よりも先に、店の扉へ急ぐ。
そして扉を開けて、中尉へ視線を送る。
「……ハクといったな。
ありがとう。達者でな」
中尉は礼儀正しくお辞儀をし
店を後にした。
* * * * *
「……も、もういいよな?」
中尉の姿が見えなくなってから
カウンターの女性ライラナへ問いかける。
構いません、とライラナは手で合図する。
子供ハク、の姿をしたハークは
身体の力が抜け、はぁと息ついた。
ここまで読んで頂き
ありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2022.2.28(月)です。
お楽しみに




