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少年ハークとわるいこ研究所  作者: きむら
【わるいこ】たちは、北東部へ向かう
104/322

スーツとマンゴージュース

「――まさか任務で

 こんな格好をする日が来るとは。

 ……明日から謹慎なのに、な。

 軍服の方が、すぐに話がつきそうだが」


シャル中尉はいつもなら直さない襟に

位置を正すべく反射した窓を眺める。

手首に巻き付き、一種の手かせとなった

袖口を引っ張ってはボタンの位置を気にかけた。


軍服ではない、着慣れていない

衣装を身にまとっている。


紺の真新しい上下のスーツ。

下ろし立ての様で、シワはなく

うっすらと飾り線の入ったもの。

軍服とは違い、軽く心もとない。

服自体の収納もほとんど無いため

中尉は納刀のままの細剣ルフェアのみ

持ち合わせることとなった。


自身の給料一月分ほど相当する腕時計。

とある高名な時計技師の作品である。

金持ちや役人、軍にまで卸している。

丈夫さと頑丈さはもちろんのこと

多くの客層に重宝されている腕時計である。


銀縁の伊達メガネ。

レンズがはめ込まれているものの

度はなく、あくまで飾りである。

とある噂によれば、あと数年には

眼鏡と通信機器を組み合わせた物が

軍に導入予定であった。

残念ながら、今日ではない。


そして耳には小さな通信機器。

一見しても、耳にかけるタイプの

ピアスのようである。


それらは中尉の物ではない。

軍から支給されたものである。



それ以外にも追加で

中尉はとあるものを身に着けている。


何度か締められ癖のついた赤いネクタイ。

そして黒の中折れ帽。

これらは少佐から手渡されていた。


少佐となれば、現場以外の仕事が増える。

その際に少佐が使っているものを

半ば押し付けるように渡されたものである。


「(……落ち着かないな。

 少佐は何を考えているのだ)」


中尉は渡されたスーツケースを持ち

とあるビル群にある店へと訪れる。



* * * * *



――ここか。……店札がない?


中尉は辺りを見回す。


ほとんど物が置かれていない店の前。

店の看板や黒板ボードはなく

積みあがった木箱や、観葉植物すらない。


目の前に一枚の扉。

中尉の目線の高さくらいに

一枚のガラスがはめ込まれている。

しかしそこから注意深くのぞくも

中は暗くてよく見えない。


果たして店なのか。

もしかしたら民家なのかもしれない。

中尉は店である手掛かりを探すもない。



「少佐、目標地点前。ここで?」


「――そこだ。間違いない」


少佐はそう言いきる。


はぁ……、と息をつき

中尉は意を決し、店へと入る。



「――いらっしゃいませ」


カランカランと扉の鈴の音が響く。


中尉は店を隅々まで目を通す。


見た目は普通の雑貨屋である。

店内は薄暗く、燭台に似た灯りが

壁や机に小さく置かれ、点在するのみ。


壁には大小さまざまの棚。

そこに置かれるは輝く小さな石や装飾品。

また、料理道具や筆記具、包装された

お菓子の山が見て取れる。


先ほど扉越しからは分からなかったのは

店内に差し込む光が少なかったからだろう。

さらに言えば、置かれた品物の数々は

燃えやすいものばかり。


燭台と思わしき灯りは、火が使われていない。

どうやら自身が知らない所では

火を使わなくても灯りがつく品物がある。

中尉は驚くどころか、そこに感心した。



店には女性が一人、カウンターに座る。

メガネをかけ、それこそどこぞの

貴族に仕えるメイドのような様相である。


ふとカウンター横の扉奥から

現れたのは、背丈の小さな子供。


茶髪で目元を隠し、おさげをした子供である。

同じようなメイド服を着て

不相応なほうきを手に持つ。


中尉の姿に気づくと、驚きつつ距離を取った。


「ハク。掃除をおねがいします」


そうよばれた子供ハクは掃除を始める。

少し覚束無い様子と中尉は感じ取る。


「ね、姉さん。こちらは……」


カウンターへ声をかけたのは

気品よく整えられた白い長髪の女性。


彼女らと同じ様な服を着ているが

口元に一枚の白布をあてがっている。


布にはわけのわからない

赤の紋様が刺繍されている。


蜘蛛の姿とも、太陽と放射に伸びる

光とも見える形である。


「……あぁ、これは向こうの部屋に。

 それが終わったら、倉庫の整理を。

 ゆっくりで構いません。

 終わり次第、私に報告してください。ベル」


カウンターの女性から指し示された先。

ベルと呼ばれた女性はカウンターを後にする。



「失礼しましたお客様。こちらで伺います」


中尉はカウンターへすすむ。

一瞬、自身の方を子供ハクが

じっと見つめているようだったが

中尉は振り返らずに進む。



* * * * *



――中尉。『マンゴージュースを1カートン』


「マンゴージュースを1カートン」


「……取り扱っておりません。ご予約ですか?」


――いいや。予約した。すぐに確認しろ


「いいや。予約した。すぐに確認を」


「わかりました。しばしお待ちを」


――これでいい。後は案内される。そこで待て。


「ゴホッ」


中尉は咳払いをひとつする。

少佐はそれを聞き届けると

回線を落とす。


「(マンゴージュース、1カートン?

 なにかの暗号か。見たところ飲み物は……。

 置かれていない。何か理由があるのか……。

 いや、それは戻ればわかる。だがその前に)」


掃除を続ける小さな子どもハクに

中尉は気づかれないよう目線を向ける。


それに気づいたのか

子供は顔を背けて掃除をし始める。


「おい」


子供は驚く。ビクビクしつつ

中尉の方を振り向く。中尉は近づく。

ここまで読んでいただき

ありがとうございます。


続きます。次話投稿予定は

2022.2.25(金)です。


よろしくお願いいたします。

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