その場しのぎと特注品
便宜上、ここから第13話となります。
よろしくお願いいたします。
老婆の店を出てすぐ。
死角となる場所にて
サンサ兄弟はこそこそ話している。
「や、や、やるのねぇ? リード?」
「そうだよ兄貴! でないと
先月、先々月分の返済に
どうやっても間に合わないっ!
……ここで一発やるんだ。
兄貴の磁力の差を少し変えて
希少でくっつかない金属まで
ここに、引き寄せる……!」
「だ、だ、だめだよ。
それじゃばあちゃんが……」
「バレないように、周りにあるのを
一気に! じゃなくて、もっとこう
広ぉーく、ゆーっくり、だ!」
「や、や、やって、みるのねぇ」
ブラクバは尻尾を立てる。
額に汗をかきつつ
ゆっくり尻尾を揺らす。
すると変化はすぐに現れた。
キィンキィンと金属音が
わずかに聞こえる。
リードは外を眺める。
そこで見えたのは遥か遠く。
キラリと光に照らされながら
ふわふわと小さな時計が
リードの手元に着地する。
それは少し古ぼけているが
カチカチと正確な時間を示す
金時計である。
しかも留め金やチェーンも
頑丈なものである。
「す、すげぇ! 間違いない!
これは値打ちもんだ!
これならまず今月分は収まる……!
いいぞ兄貴! その調子だ!
やっぱ兄貴は大盗賊の息子だ!
親父さんの様だぜ! すげぇ!」
「……え、え、えぇぇ?!
ま、ま、まぁ……!
そんなこともあるのねぇ〜!」
ブラクバは褒められて
磁力があらぬ方向に振られていく。
「あぁ! 兄貴!
戻って戻って!」
サンサ兄弟は笑いながら
引き寄せた金属の山を見る――
* * * * *
「大陸南東部より。
地点Aから、目標地点付近。
全部隊、配置に付きました!」
行商人の店近辺。
ビル群の隙間を抜けていくは
非正規兵である特殊部隊。
特殊部隊の一人が
通信機器から連絡する。
暗い部屋で一人
それに応じるは少佐である。
受信機器を前に、送られた映像と
連絡から思案している。
「よろしい。特殊部隊は各々待機。
軍小隊は制圧後の後詰だ。
――シャル中尉」
「はっ!」
「謹慎前の、最後の任務だ。
こちらからの指示の下
目標地点への潜入および偵察。
抜刀は引き続き禁止。良いな?」
「……了解しました、少佐」
中尉は部屋を出る。
足音が遠のいたのを確認すると
少佐は通信機器の電源をすべて切る。
部屋に残る少佐は息をつく。
ひとり書類を手に取り
中指でこめかみを軽く叩く。
「――治安維持、秩序維持、か。
それらは、いつの時代も、名ばかり。
ただひとつ、統一意志を守るべく
安寧を保つべく、何もかもが
無秩序に、かつ秩序をもって
動いてるに過ぎない。
だが、そんなことはいい。
彼と直接会えるかもしれない。
そうなれば、さて、何を話そうか」
少佐は書類のあるページを眺める。
それはわるいこ研究所の職員リスト。
アナグマ博士やエリーの写真の上から
赤いバツがつけられている。
レムザ、ベルード、
そしてイチモの三名には
まるで首を切るように
赤い線が引かれている。
それ以外、保護の子どもたちには
詳細に数行の文章が付け加えられている。
そして、ハークのページ。
そこだけは、出生地および出身地に
赤い線のみ引かれている。
その一枚だけ、大切そうに
リストから外し、自身の胸ポケットに
小さく折って入れる。
通信機器から連絡が入る。
少佐はマイクの電源を入れなおした。
「どうした。不必要な事項なら」
「少佐。気になる……が。
電波の調子が……、悪く――」
特殊部隊からの連絡は
先程とは全く違う。
雑音が混ざっている。
導入して間もない新品。
電波も先の連絡時には
問題なく使われていた。
しかし突然の雑音に
少佐は視線を落とす。
脳裏をよぎったのは3つ。
ひとつ。機器類は不良品。
ひとつ。特殊部隊の不手際。
ひとつ。何者かによる妨害――
* * * * *
「ちょっと待ちな」
老婆は机に向き直る。
何枚もある紙に目を通す。
ハークから見えたのは
そこに描かれた風景画が
今まさに、動いている。
ベルードは理解する。
それが店から離れたビルの一角。
様々な角度からの風景が
映し出されている。
「あのバカどもは……ッ!
手段を選ばないのかい!
……こんな時にわらわらと
嗅ぎつけやがった」
老婆は棚の奥から
傷だらけの黒い電話を取り出す。
ダイヤルを回さず
ただ受話器を手に取る。
「……ライラナ。
聞こえているね。
『店じまい』だ。
急ぎな」
電話は切られる。
老婆は振り向かないまま
何枚もの書類を手に取りつつ
声を荒らげて、ハークたちへ飛ばす。
「いいかい! よく聞きな!」
突然の怒声に、ハークもベルードも
いままで隠れていたユミナでさえ驚く。
老婆の方へとピシリと背筋が伸びた。
「あのバカふたりのお陰で
面倒なものまで呼び寄せたッ!
客人だろうがなんだろうが
手伝ってもらおうかね」
「「手伝うって何を!?」」
「……ちょうどいい。
あのタコ坊主を真似ようか。
後はライラナの指示通り、動きな。
しくじるんじゃないよ。
アタシにゃ、別にやることが
あるんでね」
老婆はハークたちふたりを指差し
クイッと動かす。
するとふたりの身体は宙に浮く。
何かが具合を確かめるように
巻き付いていく。
「動くんじゃないよ。
今回は特別に作るんだ。
久しいさね。だが、理由問わず
採寸、装飾、何もかも間違えたくはない。
うっかり、解くんじゃないよ。
異界に居る、どこぞの魔法使いは
時間指定だが、アタシは違う。
見たところアンタたちは体格に恵まれた。
光栄なことだと思って着な。
最後に、大事に使いな。
アンタたち二人、これから――」
老婆は書類の一枚を見つめる。
そこには品のいい、かつ新し目の
衣服に身を包む男が一人。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2022.2.21(月)予定です。




