三者の誓い
――レグリシス山での一件後。
ハーク、レムザ達が
レグリシス山脈から脱出し
電車に乗り込む。
新たな仲間、もとい成り行きで
保護することになったユミナ。
乗り込んだ電車で出会ったのは
裁判官イヴェル夫妻。
夫妻と話すレムザとイチモだったが
突如、鉄の武器を携えた軍人が
ハーク達を追ってきた。
ハークとユミナを成り行きで預け
逃げる体でレムザとイチモは
電車内から飛び出す。
軍人は勢いそのまま二人を追った――
レムザとイチモの眼前に広がるは
レグリシス山から流れる急な川。
そして木々が生い茂る様。
滝の始まりが見える。
「レムザさん!? ピンチでは?!」
「ははは」
「笑って誤魔化さないで下さい!」
「逃さんぞ!」
「あの軍人まで来ましたが?!」
レムザはすぐ木々めがけて
透明にした触腕を伸ばす。
その後ろ。
軍人はとにかく二人を捕まえるべく
帯刀した細剣ルフェアを、抜刀。
その刀身はゆらめく。
しかしただ一点を目掛けて空を切る。
レムザが木々を掴んだ
と思った瞬間、掴めない。
それどころか触腕の感覚が途絶え
痛みが走る。2つの感覚が前後する。
「……ッ!? 掴め――」
「落ちる――!」
「逃がすかッ!」
三人は川に落ち、滝の底へと沈んでいく。
――滝壺からその先。
穏やかな流れの中
レムザは意識を失ったイチモを
脇に抱えて近くの岸にあがる。
周りを確認する。
エイール大陸
おおよそ南東部に位置する
と思われる名もない森。
落ちた滝上。
線路をひた走る電車。
その駆け足が遠のく。
そのまま通過していったようだ。
「ゲッホ、ゲッホ……。
突然過ぎませんかレムザさん」
イチモは息を吹き返し、起き上がる。
「仕方ない。
あのままでは我々は捕まり
細剣振るうあの軍人が
ただでは済まさずにいる」
「まぁ、そうですけど」
レムザは濡れた服を絞り
森に落ちた形様々な木々を
触腕で回収していく。
「何をしている。火を起こすぞ」
冷静にそう言い放つレムザに
イチモは半ば呆気にとられる。
ヒュゥーっと自身の肌に吹き付ける
寒風にハッとし、立ち上がった。
“ドボーン”
ふと、滝壺に何かが落ちる。
レムザたちはその方へと目をやる。
しばらく見つめていると
ぷかりと浮かび上がる背中。
流れに身を任せ、流されていく。
「……助けた方が良いと思います」
「そう、だな」
レムザが触腕を伸ばし
それを岸へとあげた。
* * * * *
「……ッ!? カハッ!!」
軍人はひとりで息を吹き返す。
すぐさま生きていること
自身が置かれた状況を確認する。
そして目の前で服を干し
火を起こそうとしている
半裸のレムザを目にすると
すぐさま細剣に手をかける。
「待て軍人。
今はそれどころじゃない」
レムザの冷静な言葉に
一層怒りがこみ上げるも
軍人の身体は寒風に震えた。
「ムッ!? さ、寒い」
「軍人。貴様と同じだ。
我々も、寒い。火を起こして
まずは暖を取ろう」
「温情など受けん! くしゅん!」
「それでいいなら構わない。
だが野戦訓練を受けているのに
それを怠るのは、どうだ?」
「む……」
軍人は構えを解こうとしない。
鼻水が垂れ始めようが構わず
ふたりから目を離さない。
「強情ですね。僕としては
死にたくないので、温まりますね」
レムザの起こした火を絶やさぬよう
イチモは枝葉を集め、戻ってきた。
軍人はしばし考えたのち
細剣を収め、服を干し始めた。
三人は火を囲む。
各々そこらへんにあった石を
椅子にした。
「その剣、どこで手に入れたんですか?」
イチモは軍人の持つ細剣を指さす。
「これは軍から――」
「違い、ますよね?
伸びる剣なんてそんな珍品を
一軍人が持ちますか?」
「何を根拠にそんな」
「本来、その細剣ルフェアは
紛れもなく遺失物です。
用心深い持ち主がどういうわけか
盗まれた、と話しています」
「黙れ! 知った口を!」
激昂した軍人が細剣に手をかける。
立ち上がり、柄を握る。
しかし抜かれない。
レムザの見えない触腕で
細剣ごと制されていた。
「貴様……、ズズッ……」
軍人は寒風に負け
静かに座りなおす。
* * * * *
「隠さず言えば良いのだろう。
……この細剣はある事件の
いわゆる証拠物品、だった。
しかし解決後、持ち主は不明。
上司である少佐が管理していたが
後にその事件の功労者として
私に任されたのだ」
「……使ってますけど。
それただの押しつけ
じゃないですか!?」
「……やむを得ず――」
「言い訳がましいな、軍人」
「……何も、言えない」
焚火はパチパチと音を鳴らし
うまく重ねていた木々は
その身では耐えきれなくなり
火の核へと身を投じていた。
「だが、貴様らは犯罪者だ。
バルドリア山麓村から訴状が届き
巡り巡って私が請け負っている」
軍人は座り直し
ふたりへ語り始めた。
「内容は、主に村への危害と聞く。
村の掟に反した人物との接触が
一番重い罪にしろ、と彼らは話している。
……それと相まって軍部や警察が
必要な調査や費用、残業追加に
元からの仕事量が増えたことが
言いはしないが、そこも考慮せよ
と、盛り込まれていた」
「後半、私怨が混じっているような……」
「村への危害、は彼等の主観だろう。
こちらが知らずに乗り込んだのはわかる。
しかし、こちらのスタッフが
人質として捕縛され、村の儀式の
供物として捧げられかけた、という
訳のわからない事実がある。
危害うんぬんよりも、たとえ村の掟でも
人命軽視のほうが犯罪ではないか、軍人」
「むむ……」
レムザからの意見に
軍人は腕を組み、唸り、悩んだ。
「軍人。貴様の思いは分かる。
正義とやらを守るべく
日夜死力を尽くしている。
しかし、ただ目前ばかり向いては
何度も繰り返されるだけだ」
「なんだとッ!? レムザニット!
貴様に何がわかる」
「――知っての通り、レッド=アシッドは
多くの命を守るべく戦った故に必要以上の犠牲を作った。
それは敵にも、家族が、子供が、伴侶が
愛する人が居たのにも関わらず、互いに守るために
戦いを止めることを放棄した。
それが、今こそ大陸北側を分断する山脈の元で起きた
『クレスヴェン闘争』。一軍人なら知っているはずだ」
「……十数年前くらいだったか。暴徒化した武装市民の鎮圧。
警察、軍まで出動した中規模戦、と学んでいる。
軍が出なければ大規模となったとまで予想されている」
「あれを扇動したのは実質的にレッド=アシッドだ。
あの時は信じていた。ここで勝てば子どもたちは
俺たちは安心して暮らせるだろう、と。
だが結果は、真逆。どちらに転ぼうと
世間から爪弾きにされるだけだった。
それから、一層わるいこへの反感や
忌避を持たれたと言われているのは
俺の、レッド=アシッドの紛れもない事実」
「――罪滅ぼしか」
「そう思われてもしかたない。
だが、俺は選んだこの選択を
何があろうと全うするつもりだ。
博士もそうだ」
レムザと軍人はしばし口を閉じ
それぞれに何かを考えていた。
* * * * *
「貴様の考えは分かった。しかし、俺はこのまま
帰るわけにはいかない。そこで、だ」
軍人はイチモへ目を移す。
「な、なんですか?!」
「この男。研究所職員であり
バルドリア山麓村の宗教について
内情を知っている人間だな?
そして、この鉄の武器を知っている」
「そう、ですけど……」
「俺の手柄として
こいつを連れて帰る。
どうだ?」
「は?!」
「構わん」
「レムザさん?!」
イチモはなぜ自分なのかを問うた。
軍人はかいつまんで、現状と事情を
交えながら、説明していった。
「ーーつまり、僕が人質になり
レムザさんと軍人、中尉さんが
事件解決のため奔走すると」
「それしか方法はない、犯罪者」
「犯罪者じゃなくて
僕にはイチモーー」
「一緒くたにするな、と思うだろう。
しかし、軍としては
余計なことに気に止める必要は
極力無くせとのことだ」
「なぜイチモだ?
そもそも人質が必要なのか」
「俺の上司、少佐は用心深い。
レムザニット、貴様でも構わないが
少佐は一歩先を行く。
この男は、研究所と正体不明集団の
両方を知る、それこそ
今件の重要な部分を知る人物を
手元に置きたいと考える」
あまりに事が蚊帳の外で進み
イチモは呆気にとられ
開いた口が塞がらない。
「……だが、現状こちらの人間だ。
何かあれば軍の立場が危ういだろう」
「そんなもの、少佐ならもみ消せる。
好きなように、出来る。
ならば、得になれば大切にするし
自分のためなら敵だって温情をかける」
「ーーなら、仕方ないな」
「良くないですよ!?」
「まぁ落ち着け、犯罪者。
だがそうすれば、少佐は必ずお前を守る。
最低でも、双方との橋渡しにもなる。
この件が終わるまでは」
「最後は殺されそうですけど……」
「……信用できないか。
ならここで誓おう。俺の信条だ。
『体現せしは己の意志と行動のみ』
これは、とある人の言葉だ。
――犯罪者。できる限り軍に
いや少佐へ協力姿勢を貫け。
その限りは、犯罪者であろうと
俺は貴様が危うくならないよう
こちらでも、口添えはしてやる」
「イチモだけか? 参考人だけ守り
その他は気にかけないのか。
軍人というのは?」
「なに……? ならレムザニット。
貴様も共犯だ。貴様も誓え。
俺たち三人、事件解決のため
一時的な休戦協定を結んでやる、と」
「……よし。分かった。
それなら協力しよう。
なら『焚火の休戦協定』とでも
名付けておこう」
レムザは少しずれた眼鏡の位置を直す。
その際、少しだけ口角が上がった。
誰にも悟られまいと直さんとする手で
口元を覆い隠した。
「……イチモ。
先ほどの夫妻への演技は見事だった。
大丈夫だ。いってこい」
「絶対、行くというのが
死ぬような意味合いに
聞こえるんですけど?!」
イチモは呆れつつも
自身の安全と情報提供を
条件にしぶしぶ了承する。
* * * * *
中尉が後に提出した
報告書には、こう記してある。
――本件に関する重要参考人として
わるいこ研究所職員であり
バルドリア山麓村の宗教集団の
関係者であるイチモを拘束。
その際、わるいこ研究所職員である
レムザニットとの慎重な交渉の末
参考人からの情報提供、本件への協力
という条件の元、合意を得た。
また、参考人本人からも
協力的な姿勢を保つ代わりに
自身の安全保障を条件に出された。
以降、イチモを丁重に扱うように――
内容に目を通した軍人たちは
誰もがこう思った。
――レムザって男に
いいくるめられていないか?
と思ったが、提出人への恐怖から
誰も言い詰めるものはいなかった。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2022.1.31(月)です。
次回の内容は
投稿直後時点では
未定です。
よろしくお願い致します。
※追記※
22.1.30より
また体調不良のため、休載します。
早めにツイッター、この後書きにて
お知らせします。
申し訳ございません。




