透かし文字から貴方へ
「来たかい。あの仕掛けを解くのに
これだけ掛かったところを見ると
……あんまり期待はできない、が」
ようやくか、と言わんばかりに
行商人と思わしき老婆は
溜め息混じりにハークたちに
振り返らずに、そう言う。
手入れなどされてない散らかった紫髪。
所々があちらこちらへと伸びてあり
風か静電気の性か、生きているように
うねうねと動いているように見える。
その顔。
頬は引っ張れそうなくらい垂れ下がり
目元は肉により上半分の視界を邪魔している。
背丈はハークの肩に付くかつかないか。
アナグマ博士と同じくらいとハークは感じる。
黒のシンプルなローブを身にまとう。
しかし光の加減具合で分かりにくいが
そこには緻密な紋様が施されているのを
ベルードはその眼で確認する。
黒縁の度の強いメガネをかけ
机に向かっていた老婆は
椅子を回転させハークたちの
姿を確認する。
眼鏡を少しずらして
じっくり眺めた。
「ふぅん。このガキが鉄槍を?
んでそっちが、あいつの弟って?
……冗談じゃないよ。全く。
なんだって面倒事が重なるんだい。
堪ったもんじゃない。
こっちは商売もしてんだってのに。
なんでこうお守りをアタシがしなきゃ
ならないんだい! あぁ全く!」
「あ、あなたが『行商人』?」
老婆のつぶやきを半ば聞きつつも
半歩前に出て、話を切り出したのは
ハークであった。
老婆はぎろりとハークを
怒りのまま睨む。
一瞬こそ驚いていたが
その後は毅然としてこちらに
ハークは顔を上げていた。
「……知らんね。目の前にいるのが
アンタ達が探している人物とは
限らない。なのにそう問うかい?
そんなの職業だから
いくらでもそんな奴らーー」
「『クレスヴェン闘争』」
老婆の口は止まる。
目は見開かれ歯を食いしばる。
小さく舌を打つも、口を開く。
「なんだい。あんたら、どこのーー」
「俺たちは、レムザさんから
メモをもらってここに
来ているワケ、です。
えっと、改めまして
この子がハーク君。
で、俺がベルード、です。
よろしく、っす。
あと、ユミナちゃん」
「うい!」
ユミナが突然ハークの服から現れ
一瞬姿を確認し終える老婆。
状況を理解し目の前の三人を
確認した途端、はぁ……と息つく。
「話は、聞いているだろう?
単刀直入にだ。いくら積める?
アタシに何を頼むんだい?
利子も期日も、ここじゃ一番だ。
貧相な子どもふたりにひょろながの
3人で、何ができる?」
ハークとベルードは顔を見合わせる。
ユミナも顔を突き合わす。
「利子、って?」
「期日って?」
「あうー?」
「「なんですか?」」
老婆は予想外な反応により
椅子から転げ落ちる。
背もたれから地面を背にした
老婆は、部屋の天井を眺める。
しばらく天井を眺めた後
ため息をつく。
「アイタタ……。イマドキは
それすらも知られてない……!
タコ坊主は何を伝えたんだい!
アイツの周りは、一体全体、全く!」
椅子に腰掛け直し
再びハークたちへと向かう。
* * * * *
「『行商人』『クレスヴェン闘争』。
まだこのふたつが読めただけでも
良しとしようじゃないか、えぇ?」
「最後のが読めなくて、それで」
ハークは胸ポケットに入れている
手帳を取り出そうとする。
しかし行商人である老婆は
掌を前に出して、それを止めた。
「読まそうたって、そうはいかない。
アタシが読んで、都合よく変えて
しまうかも――」
「しない、っすよね?
そもそも、俺らを追い返してない。
たぶん嫌なら、遭わないように
気を払うワケで」
「――よこしな」
ベルードが頷き
ハークは手帳を取り出す。
すると手帳はハークの手から離れ
宙を移動する。
するりと椅子に座った老婆の
手の中へ収まった。
「……ふん。小僧が持つには
ちと高価すぎる。
これは、素材もいい。
装飾が施されている……」
ペラペラとめくる。
とあるページにたどり着く。
「……あのイヴェルの知り合いかい。
頑固オヤジに、世間知らずな夫人様。
なんだってふたりの署名があるんだい。
ご丁寧に、あぁ……あぁ嫌だ嫌だ!
なんて奴だい! なんて世間は狭い!
嫌になる、あぁ全く!」
老婆は手帳を一度は閉じるも、再び開く。
「行商人。クレスヴェン闘争……。
これは、読めても読めなくても
どっちでも良くしたって体だ」
字に近づく老婆。
何度も目を見開いては、確認している。
老婆は突如、机に置かれた
ランプを持ち出す。
その光の近くにページを当てる。
ハークやユミナには
老婆の体で隠れて見えなかった。
しかしベルードには見えた。
老婆の上から見えたのは
何も書かれていないページの余白に
何かしらの文字が浮かび上がっていた。
「……ベルードとかいったね。
それと、ハーク」
「う! う! ういっ!」
「はいはい、ユミナね。
知っているよ。つまりだ。
『ハークたちに助力してほしい』
って書いてある。
それもアタシくらいしか
分からない字でね。
全く、相変わらずだね!
変な所で器用さを
発揮するんじゃないよ!
あのタコ坊主! これは単に
見えにくいから止めろと――」
「レムザさんを知って
いる、の、ですか?」
「知ってるも何も!
いいかい、アイツは……。
いや、話さないほうがいい。
話したって面白くはない」
その時、部屋に鈴の音が響く。
それもひとつではない。
あちらからもこちらからも
鈴の音は止まない。
何度も鳴るため、老婆は急いで
机に向かい直した。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
ここまでが便宜上12話です。
続きます。次話投稿予定は
2022.1.21(金)です。
内容は未定です。
※追記※
2022-01-17より
作者、体調不良のため
しばらくお休みします。
更新未定です。
申し訳ありません。
※追記2※
次話更新予定は余裕をもって
2022.1.28(金)です。
よろしくお願いいたします
※追記3※
申し訳ございません。
こちらでの連絡を疎かにしておりました。
次話投稿予定は、2022/2/18(金)となります。




