上京
移りゆく景色はビルばかり。僕は今、初めて東京に足を踏み入れようとしている。
電車の窓から眺める景色は住み慣れた故郷とはまるで違う国のような様だった。
果たしてこれからの新生活に適応できるだろうか?
いいや。適応しないといけないんだ。両親の反対を押し切り東京の高校に進学した僕に退路はない。
期待と不安に潰されそうな胸をそっと撫でて気持ちを落ち着かせ東京に足を踏み入れる。
「よージョル坊待ってたぞ」
「姉ちゃんその呼び方はやめてよ」
「おっ?わりーわりーお前からしたら黒歴史だもんなー」
僕のことをジョル坊と呼ぶのは5つ年上の姉、美樹だ。
ちなみに僕の名前は佑樹。ジョル坊ってあだ名は僕が小さい頃に父親の髭剃りのジェルで転んで頭を強く打ったのが姉的には面白かったらしく以降ジョル坊という不名誉なあだ名はが定着した。
僕のことをこのあだ名で言うのは家族くらいだ。
「ごめん姉ちゃん。人に酔いそう。早く家に行きたい」
「あーたしかに私も最初はそうだったな。まあ、そうなると思ってここで待ってたから気にすんな。ほらいくぞ」
「あ、うん」
姉に連れられ駅から徒歩15分ほどで家に着いたらしい。
わりかし綺麗そうなアパートたった。
「ほら。ここが私の家だ。そんでお前の家そこ」
「え?」
姉ちゃんの指差した方を見ると犬小屋が……
「冗談……だよね……?」
「ぷっははははは!冗談だよ。そんな不安そうな顔すんなってほらこっちだ入んな」
「………」
たまに姉ちゃんはガチで笑えない冗談も飛ばしてくるが基本的に情に厚いから頼りになるのだか……
「それにしても隣にも人が引っ越してきたしやっぱり春を感じるなぁー」
「へぇーどんな人だった?」
「さあ?挨拶にこねぇから知ったこっちゃねえよ。まあ、初めての引っ越しだからわかんねぇことの方が多いんだろうよ」
出た。姉ちゃんの必殺技下げた後に上げていくスタイル。
最後はちゃんと相手の立場になって考えてくれる。ヤンキーっぽい見た目と相反してぐっと心に刺さる。
「まあ、人付き合いってのは田舎でも都会でも一緒だ。
そこを疎かにしているようじゃまだまだ三流だな」
しっかりその後のアドレスまでくれるなんて……いい先生だな。
「ねぇ、僕も挨拶した方がいいのかな?」
「あーまあ、とりあえず会ったら軽く挨拶して向こうが返してくれたら後日ちゃんと挨拶に向かえばいいよ。そういうの急にこられると嫌がるのもいるからな」
「ふーん難しいね。ありがとう」
「私としてはさっさと挨拶回りして欲しいがな。お前と同棲してるなんか思われたらたまったもんじゃねえ」
「あはははは。そこは大丈夫だよ。だって姉ちゃんとはよく似てるって言われてきたじゃないか。ほら目の辺りとか」
「るせえ。それよりさっさと飯にするぞ。あ、台所は向こうだからな」
「あ、うん」
僕は家事全般得意なので実家にいる頃からよく料理してた。
姉ちゃんは食事中は何も言わないが食べ終わったあとにぼそっと旨かったって言ってくれるから作りがいがある。
まあ、ここでは家事をしないと追い出されるのでやるしかないのだか。
とりあえず姉ちゃんの冷蔵庫から何か使えそうなものを………
「姉ちゃん何も入ってないんだけど……」
「………カップ麺にするか。それと食料の調達もお前の仕事な」
「うん………」
東京で初めて口に入れるのがカップ麺か………
味はいつも通りだった。そりゃ変わらないか。
「そうだ。明日からお前学校だろ?ほら今から明日の準備始めな。あと朝飯作るの忘れたら家は犬小屋だからな」
「う、うん」
僕はしっかりアラームをかけて明日の準備をして布団に入った。
因みに姉ちゃんは部屋で寝て僕はリビングだ。
まあ、さすがに一緒に寝るのはマズイよね。
「おーいジョル坊。間違っても冷蔵庫の酒には手をだすなよー」
「わかってるよ!」
「あははは。じゃあな。おやすみ」
「うん。おやすみ」
僕はゆっくり目を閉じると旅の疲れもあってかすぐに眠ることができた。