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二章 匂い立つ百合

 (家まではあまり遠くないはず……大丈夫……だよね……?)


 少々不安になりながら、「ヘヴィリリー」を出る。家を出た頃は暖かったが、今は少し肌寒い。それもあって、ノイシーの脳は暗い色に染められる。

 落ち着いて道を確認し、自分の知ってる道に出ようとする。手探りの作業だ。こういうのは明るいうちにやっておけばよかった、と後悔した。

 やっと知ってる道に出た。安心して家に帰れる。そう思ったが、右手に強い衝撃を受けた。バッグを狙ったひったくりか。そう確認する暇もなく、バッグはノイシーの右手からすり抜ける。

 ひったくりならどれほど良かっただろう。バッグはノイシーより離れた所に確認できる。次の刹那に、強い力で壁に向かって押し付けられる。

 相手は男だ。バッグは向こう。ノイシーは女性。人通りは少ない。誰が確認しても、これはレイプである。今、ノイシーを襲った男は、レイプをしようとしているのだ。

 身をよじって逃げようとするも、男の力が強すぎる。逆に体を痛めただけだった。身を守るナイフはバッグの中、つまり、手元にはない。

 大声を出そう、そう思ったが、口が塞がれた。一気に恐怖が加速する。

 男は乱暴にズボンのベルトを外そうとしている。それが、とてつもなく怖い。

 やけに興奮した息遣いが耳元で暴れている。ノイシーの脳は恐怖で埋め尽くされる。


 (イヤだ……! 助けて……! 助けて……!)


 ベルトが外れた。すると、聞き覚えのない、吃驚とするような音が鳴り響く。ノイシーにかけられていた力が無くなった。

 横目で見ると、男が倒れている。肩の辺りに血の池を作っている。そこで、音の正体を理解する。

 銃声だ。弾丸が男の肩を撃ち抜いたのだ。男はその場でうずくまっている。


 「大丈夫?」


 声の方向を見ると、ヘヴィリリーの従業員である、ショートのブロンドがそこに居た。左手はポッケに入れて、右手だけで銃を保持している。その銃口はずっと、男を捉え、離さない。

 恐怖が続いて、精神が治まってないノイシーを見たショートブロンドは、ぶっきらぼうな口ぶりで話し始めた。


 「姉さんから、あんたを無事に家まで送り届けろって言われてんだよね。……大丈夫だった?」


 「あの……それ……」


 震えた声と震えた指で、従業員には似つかわしくない物を確認しようとする。


 「ん?あー……これ……ん、まぁ、アメリカは銃社会だし、って言っても言い訳になるな。……明日、面接に来なよ。姉さんが話すと思うから」


 面接の話はすぐに理解できたが、この話は理解するのに時間がかかった。

 銃なんて、映画の世界でしか見たことが無い。銃自体は異界にもあるが、それだって規制が進んでおり、現在では有資格者でなければ銃を所有することはできないのだ。


 「あんたの家の近くまで付いていくから、落ち着いて。いいな?」


 話し方は姉とは大違いで、こちらは乱暴な口調だ。しかし、奥に優しさが見え隠れしている。ノイシーが勝手にそう感じているのかもしれないが。

 平静を少し取り戻したので、家に向けて歩き始めた。


 「あんたも運が無いね、まさかレイプ犯に会うとはね」


 「はは……私、あんまり運無いのかなぁ……」


 ノイシーの声は憔悴しきっている。会話も、ほとんどオウム返しだ。

 見かねたショートブロンドが、ぽつりと話し始める。


 「私、サラって言うんだよね。あだ名だけど」


 「そ……そうなんだ……」


 「…………あんたの名前は?」


 「え、あ、ノイシー、ノイシー・ミラットって言います」


 「ふぅん。良い名前じゃん。大切にしなよ」


 いつでも会話が途切れそうな話題だが、今のノイシーには安心できるものだった。

 それと、さっきから気になっている事がある。それをこの場で言っても良いだろうか。ノイシーは遠慮がちにサラに尋ねた。


 「あの、サラさんとお姉さんの目って、自然の人間の目じゃないですよね。カラコンとか入れてるんですか?」


 「…………」

 

 サラは黙り込んだ。


 (失礼だったかな……失敗した……)

 

 謝罪の旨を伝えようとするノイシーより先に、サラが口を開く。


 「私と姉さんは、異界で生まれた悪魔なんだよね。だから人間の目じゃないわけ。」


 確かに、異界の種族に悪魔は存在する。しかし、現在では悪魔と呼ばれる種族は少なくなってきている。

 現代では魔人と呼ばれる種族が、異界の主な種族だ。魔人は体格的には人間と同じで、寿命も人間より少し長い程度。それ以外は魔力を少し使えるくらいだ。最近、身体的特徴がある種族を魔人が差別し始めており、それが問題になっているということは、ニュースでも見たことがある。魔人は昔から居たが、昔はこんなに目くじらを立てることはなかったはずだ。

 悪魔の特徴は、目の色が黄金の色をしているぐらいだ。それなのに、魔人は自分らと違うものを迫害する。実際に、魔人からいじめられない為に地球に移住する種族も増え始めているらしい。

 ノイシーは上記の内容を頭に思い浮かべた。この内容にはノイシーの主観も入っている。


 「でも、ほら、私だって猫耳生えてるし、他人と違うところあるし……」


 「それ、同情してるつもり? 悪いけど、同情されるほど落ちぶれてはいないから」


 「あ……ご、ごめんなさい……」


 気まずい空気が二人の間を流れる。ついには話題を見つける事すらできず、無言で歩くだけになった。

しばらく歩いた。前方にノイシーの部屋があるアパートに着く。


 「あ、あそこです。私の家」


 「じゃあ私はこの辺で。明日は絶対来なよ」


 「はい……あ、ありがとうございます?」


 感謝を述べる頃には、サラの後ろ姿だけが見えていた。


 (うーん…………もっと勉強しないとなぁ……)


 ノイシーは後悔している。自分のせいで、傷つけさせてしまった。自責の念に駆られながらも、部屋の鍵を開け、ドアを開ける。

 部屋に入ると、いくつもの空き瓶が出迎えてくれる。あの時レイプされていたら、この部屋に戻るのは難しかっただろう。そう思うと、お礼をしきれないほどの感謝が湧き上がる。

 感謝と同時に、真面目に生きようという感情も芽生えた。明日、空き瓶を片付けよう。


 (…………あ、明日何時に行けばいいんだっけ…………)


 確認し忘れた。すっかり忘れていた。


 (営業中は邪魔になるし……お店始まる前から行ってみようかな……)

 

 結論が出たので、今日はゆっくり寝ようと思い、ベッドに寝転がった。

 しかし、寝られる訳がなかった。あれだけ怖い体験をした後なので、心臓が大きく鼓動している。早めに忘れようと思い、布団を頭までかぶり、朝が来るのを願った。


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