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10分で胸キュン恋愛短編集

夏の終わり、花火大会、二人の淡い思いで。

作者: ニコ・タケナカ

8月31日。この日は、地元の夏祭りが開催される。

なにも夏休みの最終日になんてやらなくたって、休みの前半に開いてくれればいいものを。そうすれば夏の始まりの解放感に包まれて盛り上がれそうなものだが、明日からまた高校生活が始まると分かっているから羽目は外せない。

まるで湿気った花火が不完全燃焼を起こす様に、終わってしまう夏の寂しさも手伝ってパッとしない。


聞こえてくる祭りばやしの太鼓や笛の音も、どこか哀愁を帯びた音色に聞こえてしまう。

だが、夏の盛りは過ぎているので夕方ともなれば幾分過ごしやすくはなっていて、夕涼みには丁度いい。この夏最後の打ち上げ花火を見ながら夏の終わりを惜しむには情緒があっていい面もある。


こういった地元のお祭りはちょっとした同窓会の様な雰囲気も持っている。

そこかしこから「久しぶり!」「元気にしてた!」「変わってないな!」などと言った声が聞こえる。

オレも中学の友達グループと祭りを楽しむため会う約束をした。


「おっ!久しぶりっ」

中学を卒業して半年、声をかけてきた友達の笑顔はあの頃のままだった。

「なんだよお前、浴衣着て来たの?」

「なんだよって、全員浴衣参加だって言ってただろ!?」

「それは、女子達の話だって」

男友達は皆ラフな格好だった。その中でオレだけが浴衣を着て完全に浮いてしまっている。


「や~っ!カッコイイじゃん!!」

遅れてやって来た女子達がオレの姿を見つけ、笛の音の様な甲高い声を上げた。

(恥ずかしい・・・・・・)

男の中で一人浴衣姿だったオレは皆から好奇の目にさらされた。


女子達の歓声に合わせ、友達が更に茶化してくる。

「気合い入りまくりじゃねぇか」

「うるせぇ」

気合いを入れてきたのは事実だ。オレも浴衣なんて着るのは気恥ずかしかったが、半年ぶりに会うあの子の手前カッコを付けたかった。


「ねえ!写真撮らせてよ」

「いやだよ、恥ずかしい」

カシャッ!

オレの言葉など無視して、女子達は携帯を取り出し勝手に撮り始めた。

「ウェーイ!」

友達もふざけて写り込んでくる。

「ちょっと、邪魔!」

「邪魔ってひどくない?」

ふざけ合っていると、何だか中学時代そのままだ。何も変わってない。


「ほらっ!アンタも一緒に撮らせてもらいなよ」

思いがけず、背中を押されたあの子がオレの隣に並んだ。

「あ、」

履きなれていない下駄のせいか、彼女はよろめきオレはとっさに背中に手を添えた。

「大丈夫?」

「うん、ゴメン」


これを見ていた友達が冷やかす。

「え?なに?この甘酸っぱいオーラ。ひと夏の恋始まっちゃったの?もう夏も終わるのに!?」

「ちげーよ!」

「おー?」

「おおー?」

「オオー??」

他の友達も悪乗りしてくる。


「やめろって、」

オレは彼女の背中から手を離した。

隣を見ると、彼女は恥ずかしがって何も言えないでいる。

(ああ~っ!こんなはずじゃなかったのに)

久しぶりに会った友達だが、今は冷やかしてくるこいつらが煩わしい。


「ねえ!なんか買って食べない?」

写真撮影にも飽きたのか、女子達は先に歩き始めた。

「お!いいね。オレ、夕飯食ってきてないから焼きそば喰いてぇ」

「俺、たこ焼き」

友達もつられて屋台の方へと向かっていく。

(助かった、)


「オレらも行こうか」

「うん、」

久しぶりに近くで見る彼女は、随分大人びた印象になっていた。それは着ていた浴衣のせいもあるかもしれない。髪は結い上げ、それによって露わになっているうなじが妙に色っぽい。


見とれるオレに彼女が話しかけてきた。

「高校、どう?」

「ああ、大変だよ。中学と違って勉強とか。物理なんて付いていけない」

「わかる、」

・・・・・・・・・・・・

二、三言葉を交わしただけで会話が途切れた。中学の頃はもっと気軽に話せていたのに、何だか変に意識してしまう。

(昔は何を話してたんだろう・・・・・・)


ブーッ、ブーッ、


彼女の携帯が鳴ったようだ。

携帯を取り出し、その画面を見て彼女は微笑んでいる。

(もしかして・・・・・・彼氏とか)

オレはこの半年間後悔していた。なぜ中学の卒業式の日、彼女に告白しなかったのかと。

3年間一緒に居て、それが当たり前になっていたのだ。高校が別々になるという事もなんだかあまり実感が無く、いつでも会えるような気がしていた。

それは大きな間違いだった。学校が別々になってしまえば彼女との接点は全て無くなってしまった。会えなくなった事にじわじわと後になって気付かされた。


オレはこの夏祭りに彼女も来ると知って、ここで告白しようと決めてきた。それにはまず、彼女がまだフリーなのかどうか確かめなければいけない。

丁度いいと思い、オレは聞いた。

「誰から?もしかして彼氏?」

「え?そ、そんなんじゃないよっ!彼氏なんて・・・・・・いないし」

(よかった)

オレにもまだチャンスはある。


ブーッ、ブーッ、


また携帯が鳴っている。

「ゴメン。ちょっと待ってて」

「ああ、いいよ」

友達たちは立ち止まっているオレ達の事など気にかける様子も無く前を行く・・・・・・今、彼女と二人きりだ。


この状況を望んでいたはずなのに、いきなり訪れたチャンスに動揺し一気に鼓動が早くなったのを感じる。

聞こえてくる祭りばやしが、まるでオレの事をはやし立てているようでうるさい。

(今、言うか?)


返信を終えた彼女が顔を上げた。

「行こっか」

ニッコリ笑った彼女に目が奪われ、また何も言えなくなった。

「ぁ、あぁ・・・・・・」

まだチャンスはある。気を取り直し、オレは離された友達たちとの距離を詰めようと歩き出した。


ぎゅ、


後ろから引っ張られる感触にオレは歩きだした歩みを止めた。

見ると彼女がオレの浴衣の袖を握っている。

「ちょっと、つかまらせてもらっていい?下駄だと歩きにくくて、」

「あ、ゴメン!気が利かなくて。ゆっくり行こうか」

彼女に袖を掴まれゆっくり歩いていると、前を行く友達たちの後姿は人混みに紛れて見えなくなってしまった。


(あいつら、さっさと行きやがって)

彼女の話ではないが、オレも着慣れない浴衣と下駄の装いは歩きづらい。

やっぱり普通の格好で来た方が良かったかと、少し後悔していると・・・・・・

「浴衣、似合ってるね。カッコイイ」

彼女が褒めてくれた。

(しまった!)

オレはなんて気が効かないんだろう?


慌ててオレも彼女の事を褒めた。

「キミも浴衣、可愛いよ」

「フフッ、”浴衣が”カワイイの?」

「あ、いや、違うよ!キミの事が・・・・・・」

「フフフッ」

(何やってるんだ、オレ!)


照れ隠しに彼女に聞いた。

「何か飲む?オレ買ってくるよ」

「待って!混雑してるからはぐれるかもしれないし・・・・・・ねえ、もしもの時の為に交換しよ?」

彼女は持っていた携帯を振った。

(チャンス!)

高校に入ってから携帯を持ち始めたオレは、彼女と連絡を取る手段が無くて困っていたのだ。

思いがけず彼女と繋がることが出来てオレは喜んだ。


「じゃあ、何か食べる」

河原の土手には屋台が軒を連ねている。オレは側で目に付いた、たこ焼き屋を指さした。

「久しぶりに会ったんだし、おごるよ」

ベタな考えだが、彼女とたこ焼きを分け合って食べる姿をオレは妄想していた。

しかし彼女はオレに気を遣って遠慮する。

「いいよ、おごってくれなくても。悪いから」

こういう気の遣い方をされると、男としてはもっと何かしてあげたくなるものだ。


「遠慮しなくてもいいから。なら、焼きそばは?」

彼女は首を振る。

「実は、帯がちょっときつくって・・・・・・」

「あぁ、そうなんだ・・・・・・」

自分が嫌になる。さっきから自分の事だけで頭がいっぱいで、空回りしている気がする。


がっかりしたオレを見た為か、彼女が言う。

「でも、せっかくだしアレなら、」

指さしたのはリンゴ飴だった。

「うん、いいよ好きなの選んで」

彼女は一番小さなリンゴ飴を選んだ。彼女のこういう気遣いが出来るところにオレは惹かれたのかもしれない。


「おいしっ♪」

真っ赤なリンゴ飴をペロペロ舐める彼女の姿はとても可愛く、守ってあげたくなるようないとおしさを感じた。

(言わないと!)

オレは拳を握りしめ、意を決した!

「あのさっ!」


ひゅ~~~・・・・・・パーン!

唐突な打ち上げ花火の音に辺りは一瞬静まり返り、またざわめきが戻った。

「そろそろ花火始まるみたいだよ」

今のは予告の花火だったようだ。


「みんなとはぐれちゃったね。ここで見る?」

「あ、あぁ・・・・・・そうだな。そこに座ろうか」

目に付いた段差が座るのに丁度良さそうで彼女を誘い、一緒に座った。


「それで、何?」

「ん?」

「さっき何か言いかけたでしょ?」

「ああ、その・・・・・・」

中学の3年間、ずっと好きだったんだ。彼女はオレの気持ちなんて知るよしも無く、いつも笑顔で接してくれていた。それだけでオレは満足していたのかもしれない。

チャンスはいつでもあったはずなのに、オレは結局自分の気持ちを伝えることが出来なかった。


ここで告白しなければまた後悔する。オレは腹を決めた!

「あのさっ!」

ひゅ~~~

「ずっと、好きだったんだ!」

・・・・・・パーン!

(くっそ!)

またしても花火の音に邪魔された。


ひゅう!

ひゅう!

ひゅ~~~バーン、バン、バ―――ン!!


打ち上げ花火が始まり、花火がはぜる音と観客たちの歓声に完全にオレの声はかき消された。

彼女も何か喋った様だったが聞こえない。

「なにっ?」

オレは声を張り上げ、聞き返した。


すると、彼女はオレの肩に手を添え耳元で言った。

「来年もまた一緒に来ようね」

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