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幽くんは噛み合わない  作者: 柚木
8/17

幽くんと休み時間

 幽くんは霊感があります。

 そのせいかたまに挙動がおかしいです。挙動がおかしいのは昔からみたいだというのは最近知りました。

 この日は選択授業で、美術を選択している私と技術を選択している幽くんは授業を受ける教室が違います。

 そんな寂しい授業も終わり、トイレから出てくると廊下の端に幽くんがいました。


 幽くんだ。そう思って駆けだそうとした時に幽くんは何度も頭を下げています。

 先輩か誰かいるのかと辺りを見ても誰もいなかったので、たぶん幽霊だと思います。

 これが噂になっている奇行なんだと今更気が付きました。

 霊感があることを知っている私から見ると怖い先輩風の人とぶつかって謝っている様に見えるのですが、知らない人から見ると確かにデスメタルの練習をしている様に見えているのかもしれません。


 それから許してもらえたらしく、握手を交わし友情を確かめ合ったのかハグしています。

 羨ましい幽霊です。私もああいう風に抱きしめてもらいたいです。そしてそのまま愛を囁いてもらえればこの世に未練はありません。


 ハグを終え、また少し歩くとまた誰かにぶつかったみたいです。

 見えているはずなのに、なぜそんなにぶつかるのかはわかりません。

 またさっきの様に羨ましいハグをするのかと思っていましたが、今度はしゃがんで何かを話しているみたいです。

 その目の高さからして小さい子供の様です。今回はどうやら目に入らなかったのでぶつかったのでしょう。

 それにしてもなぜ高校にあのくらいの小さい子供がいるのかわかりません。兄妹とはぐれて亡くなってしまったのでしょうか?

 急におろおろとしてしまったところを見ると子供が泣き出してしまったようです。鳴き声は聞こえませんがおそらくそれで間違っていないと思います。


 一度助けに行った方がいいのでしょうか?


 幽くんは急に後ろを振り返り、身振り手振りで何かを伝えているみたいです。

 ご家族の方が見つけてくれたのかもしれません。

 それにしてもなぜあんなに驚いているのでしょうか。首を傾げたりしていますが相手の首が無いとかでしょうか?

 そこは何があったかわかりませんが、どうやら知り合いだったのはたしからしく最後に目線を合わせて手を振っています。

 どこか満足気な幽くんは何かを見つけたようにこちらに小走りで向かってきます。

 また何か見つけたのでしょうか? それともトイレでしょうか?


「桜はここで何してんの?」


 見つけられたのは私でした。見つからないようにしていたのに見つけてくれて嬉しく思うとは、自分のことながら初々しいと思います。


「よく私のこと見つけられたね」


 愛のおかげさ。みたいな言葉を言ってもらえれば卒倒ものなんですが、現実は甘くありません。


「男子がトイレに行きにくそうにしてるから」


 幽くんを見ていて気が付いていませんでしたが、幽くんの言う通り私の背後には何人もの男子が私を見ていました……。

 そして私だと認識すると何事もなかったようにトイレに入っていきます。

 見ていたつもりが見られているとは思っていませんでした……。


「幽くんはさっき何してたの? 幽霊に謝ったりしてたけど」

「とりあえず教室に戻ろうか」


 男子トイレの前でまだ話そうとする私は幽くんに窘められ教室に向かいます。


「それで何があったの?」


 クイズの答え合わせの様でどこか楽しい気持ちです。


「変わった学生服を着た男に絡まれて、平謝りしてた。その後は子供が居て、泣き出してどうしようかと思ったらその男と兄妹らしくてそれを見守ってた」


 変な学生服ってどんな学生服でしょうか。私が知っている学生服は男子が着ているのくらいしか知りませんが、色が茶色とか紺色だったのでしょうか?


「それってどんな学生服なの?」

「学ランの上がものすごく長くて、ズボンもサイズを間違えていたみたいで異様に太かった。それだけも変だけど学ランの裏地に喧嘩上等とか書いてた」


 それはまたものすごく古風な不良さんでした。私もお父さんの持っている漫画でしか知りません。確かツッパリって呼ばれてた人達です。


「髪も凄かった、リーゼントって言うのか? 長いフランスパンみたいな髪型でビックリした」


 この学校は意外と歴史があるのかもしれません。実在していたら天然記念物に認定されている程にクラシカルなツッパリです。


「それで喧嘩上等と反対側の文字が読めなかったんだよ。夜の露に死ぬほど苦しむって書いてたけどなんて読むんだ?」


 『よろしく』です。その漢字をわざわざ説明すると何があったのか気になります。


「それはよろしくって読むんだと思うよ」

「それであんなに怒ってたのか。よろしくって挨拶されたのに首を傾げたからあんなに怒ってたんだな。でもあれ最初は読めないよな? どこかの方言とかか?」

「方言ではないかな」


 寧ろ業界用語と言ったほうがいいかもしれません。


「それは置いておいて子供がなんでこんなところに居るの? その人のお迎えとか?」

「誘拐されてその男の人が助けに来てくれたんだけど二人とも死んだんだって。ここも結構物騒だな」


 お兄さんを迎えに来たなんてほのぼのとした理由はありませんでした。不良の抗争に巻き込まれた被害者でした……。

 そりゃあ、幽霊になっているんですからそんなほのぼのしているはずはありません。


「でも死んでも二人でいるって本当に仲がいい兄妹だったんだな」

「そうだね。終わりよければって奴だね」


 幽霊でも子供を助けようとする幽くんは優しいです。

 そしてその二人がなぜ幽霊になったかは早いうちに忘れようと思います。

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