七夜目 外は内
読書は好きだ。誰かに気を使わなくてもいい。本の中の主人公は心の底から仲間に信頼されてるし、主人公も信頼してる。読者の目線だと登場人物の考えていることも読めばわかる。現実とは大違い。友達作るの大変だし、出来てもいちいち気を遣うのがめんどくさい。そんなことを言ってたおかげで、中学のころには友達はいなかったし、今思えばいじめられてもいた。気づいても私の両親は主人公の家族みたいに助けてはくれないし、いじめっ子は都合よく改心してくれない。そんな私に出来たただ一人の友達がモコだった。
「お二人とも、何かありましたか?」
「こっちはないですね。モコは?」
「こっちもなんもなーい。」
古本屋で有益な情報を探して多分2時間ほど。いまだ何も見つからない。少し前からモコは適当になってきてるし…
基本的に調べるのは歴史系と物語系、あとこの町のことを書いてる本。さっき一冊だけ見つけた歴史の本を読んでみると、ほとんど私たちの知ってる歴史と変わらなかった。物語もよく見る童話や、少し前に話題になった本とか。でも、鏡花さんがいうには、たまに現実とは違う歴史を記していたり、現実にはない物語があったりするらしい。そういう本に書かれているのはだいたい怪異に関するものらしい。
情報の大事さは昨日思い知った。予想よりもあの怪異の足は遅かった、あれなら別に囮なんかしなくても走って逃げればよかったのに。それに変身するなんて知ってたら絶対に別行動なんかしなかったのに。
「うわぁ、なにこれ。」
近くで何かを見ていたモコ。
「何見てるの?」
「チラシぃー。」
「どこにあったの?」
「ゴミ箱。」
「漁るなよ…」
「えへへ。」
まぁそれは良しとして、デパートの食品売り場のチラシだ。『夜市展』ってここの特産品なんだよ。それについての情報は得られたのかもしれないし、得られてないのかもしれない。なぜなら、チラシによるとここの特産品は『蠅』らしい。どの写真をみても蠅の塊…気持ち悪いなぁ。
「ここ、いますね。しかも強い奴。」
モコの声を聞いて鏡花さんも来た。
「そうなんですか?」
「はい、こういう感じで本でもなんでも書かれている怪異はだいたい強いです。昨日の奴の比じゃないです。別に夜市であってもチラシとか基本は普通のこと書いてますからね。ちなみに特産品はリンゴです。」
あ、そうなんだ。リンゴなんだ。そんなに好きじゃないなぁ。
「それより、これを見てください。」
鏡花さんに渡されたものは…紙きれ。…地図の一部だ。でも地図の一部じゃ…
「それの裏を見てください。」
裏には青いボールペンで『医者が秘密を知る』と書いてあった。医者?
「地図には小さな病院の場所が書いてありました。しかも病院の近くにある小学校は少し前に行ったことがあるので場所も分かります。」
「でもぉ、これって誰の字か分かりませんよね?大丈夫なんですか?」
「その通り、わかりません。でも、私が今まで見つけたことのある青い字は確かめられたもので良ければ正しいことが書いてあったのは確認できてます。」
確かに…誰の字か分からないし、鏡花さんの経験からは信用できそうではあるけど今回も正しいという確証は一切ない。でも、現状得られた情報は「デパートに多分怪ヤバい怪異がいる」ってこと、「病院にいると思われる医者が何かを知ってる」ってことと「夜市の特産品はリンゴ」ってこと。
最後のは別として、そろそろこの店の本も調べつくしたし、今のところ行く当てもない。
古本屋を出てから例の病院まで二度の起床を挟んだ。道中、怪異の気配も無かったし、疲労も無いのでまっすぐ進んだにもかかわらずこれだけの時間がかかるとは。しかも鏡花さんが言うには歩いてる距離は夜市を横断するときの五分の一ほどとか。この前の森を抜かしてもこの町大きいなぁ。現実に存在するとしたらもはや国規模だ。
「さっそく病院に入りますか?」
「いや、今日はやめておきましょう。夜市にいられる残り時間もそんなにないですし。怪異がいるかもしれないですし。そこの大きい屋敷見てみましょう。」
「医者って…私たちと同じ寝てる人なのかなぁー。」
もし、私たちと同じ状況ならあまりいいとは思えない。それはつまり夜市から抜け出せてないってことだ。まぁ根本的に医者がいるのかも分からないけど。違う建物にいる可能性もあるし。
「し…しつれいしまーすー…」
中は真っ暗だった。よくある地元の病院って感じの内装。待つための長椅子があって、奥には診察室。二階もあるみたいだけど…
「オヤ?アタラシイカンジャダネェ」
奥の部屋に明かりが点いた…でも、あれは部屋の電気とは違うような…その瞬間、心臓に激痛が走る。
「急いで出てください!」
鏡花さんが叫び、最後尾にいた私はドアを開けたが…
「早く出てください!アレが来る前に!」
診察室のほうからはカチャカチャという音と、バチバチという静電気のような音が聞こえる。おそらく怪異だ。でも…外から入ってきたはずなのに…
とりあえず三人で転がり込むように扉を抜けた。しかし、そこはさっきまでいた場所ではなかった。そこは、昔風な木造の屋敷の廊下だった。
「サァテ、シンサツヲシヨウカ」
続きます