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バレットゲイルオンライン  作者: Rafale
第1部 プライベートマッチ編
7/11

第5弾 コンバットオープン

「シキによるとアウトレット方面に半分を釣れたらしい。残り半分がこっちに来ると思う。あいつのことだ。徹底的なゲリラ戦法でボコボコにするに違いない。つまり、こっちに来る半分を殲滅したところで敵は全滅する。迎撃の準備をするぞ!駅前をキルゾーンとする。ユッケが駅ビルから狙撃準備を、シグルドが右のデパートから、俺とルークがロータリーのバス待合室から攻撃して、レーカンとシーナの2人が銀行の陰から突撃準備を」


 ヨークの指示の下、パーティーが戦闘準備を進める。通常のパーティーなら無理だが、連携が問題なく機能し、反発することが少ないと言うのはリアルで知人であることが優位に働く一例なのだと思う。それでも、10人にも満たない数でチームを分割した場合、キルゾーンに誘えなかったら各個撃破され全滅する恐れがある。かなり危険度が高い布陣であった。


―10分後―


《こちら、ユッケ。目標を発見。(中央)ルートレンジ(距離)700。AK持ちが5人、ミニミ持ちが1人。接触まで2分程度》


 スポッターの役割を持つ、ユッケにより片側2車線の大通りをのこのこと無警戒(のうてんき)に歩いてくる敵チームを発見した。まずは第一段階クリアである。ヨークは自分のプレキャリのベルトにつけられているTPPスイッチを押し、ユッケに指示を出す。


ミニミ持ち(SAW手)を狙撃しろ。レンジ400で狙撃開始。2人やったところで第二狙撃ポイントに移動。以後周辺警戒。

 シグルドは狙撃後射撃開始。頭を押さえろ。オレとルークでタゲ取りをする。その後、レーカンとシーナが背後から突撃、殲滅する」


「了解」×5


 ヨークの作戦はシンプルなものであり、攻略サイトでも基本とされるものであった。この作戦はシンプルであるがゆえに、一度思い通りにつり出されると、完全にハメが成立し、脱出は不可能になる。ほとんど唯一の対処方法は最初から罠に入らないことである。つまりすでに遅い。




―二分後 相対距離420メートル―


「(距離(レンジ)400……普通のSR持ち(スナイパー)なら150で半分以上外してしまう地雷職(やくたたず)だけど、私にとっては丸めたクズ紙をゴミ箱に投げ入れるようなモノ。外すわけがない)」


《距離400。ユッケのタイミングで撃て》

「…了解」


 駅ビルの最上階で獲物であるレミルトンMSRを構えながら思考の海に入っていたユッケはヨークからの無線で現実(ゲーム)に戻る。すぐに雑念を払い、精神統一を図り……

「スー、ハー」  〔ダン!〕


 弾着予測円バレットサークルが400メートル先のミニミ持ち(SAW手)の男の頭に収束した瞬間、トリガーを引き、7.62㎜NATO弾がガンパウダーの爆発により発射された。


 距離400メートルの狙撃は現実世界(ブートキャンプ)()訓練(クリア)を積んだ(した)軍人ならば、アサルトライフルでもあたる距離だが、このゲームの世界では不可能だ。理由は弾着予測円(バレットサークル)がめちゃくちゃに暴れるからである。一応、合計プレイ時間が長く古参なプレイヤーほど、おとなしくなるように設定されているが、完全なマスクデータであり、一部の最古参(ベータテスター)が疑念を持っているという段階でしかない。つまり、400メートルの狙撃は「命中を期待する距離ではなく、玉の無駄使いにしかならない」と言うのが一般的な認識だ。


 ――にもかかわらず、狙いを外すことなく、額に命中し、脳幹を破壊、システム的即死判定がなされ、アバターがポリゴンのチリとなった。


 ガチャ カーン!

「次!」  〔ダン!〕


 第一目標のSAW手の狙撃に成功し、素早く排莢を済ませ、次の目標に狙いを定め、第二射を放った。そしてそれは、第一射と同じく、額に正確に命中し、HPを全損させた。


 まだ接敵していない段階で、瞬く間に分隊火力の主軸となるSAW手がやられ、さらに一人やられた敵PTは突然のことに動揺した。しかし、その動揺も続かなかった。すぐさま、機関銃による制圧射撃で頭を押さえられたからだ。その後、正面よりアサルトライフルによる正確で無慈悲なバースト射をもらい、全員のHPが50%以下に低下する。ここにきて何とか動揺を抑え込んだ敵PTであったが、「前方への脱出」を図る前に背後よりアタッカーの奇襲突撃を受け、完全に統制を失い、全滅した。


 カタログスペックだけでは表せない「集団としての戦闘能力」がそこにはあった。数の力は偉大だ。人類の歴史上最強の力は戦艦でも、装甲(せんしゃ)軍団でも、核兵器でもない。民主主義(たすうけつ)とジャーナリズムである。つまり、数の暴力だ。

 どこぞの帝国が「銃剣は裏切らないが、物量も裏切らない」と言っていたように、数とは至高にして理不尽で無慈悲な暴力だ。だがそれは、「集団として統制がとれ、明確な目標が存在し、有効な作戦指揮と効率的な後方支援」が正常に作動している場合に限られる。つまり、100人の暴徒と10人の部隊ならば10人の部隊が勝つと言うことになる。そこに、ランチェスターの法則によって証明される攻撃側3倍の法則が加わり、戦略的には数的不利でも局所的視点での数的有利を作り出せば惨敗することは避けられるようになるのだ。


 しかし、それでも一度負けているのだ。そういった常識論を覆す何かが敵にはあると言うことになる。それが何なのかは、割とすぐ明かされることになる。


《残り、1人……敵の全滅を確認》

《MGローディング》


 最初の狙撃以降、観測に専念していたユッケの全滅確認により、シグルドが軽機関銃の再装填に入った。所謂(いわゆる)、リロード癖であるが、今回は運が悪かった。


 何度も言っているように、軽機関銃と言うのは分隊火力の主軸である。それは、歩兵中隊の火力が小銃火力や擲弾火力などではなく、配備されている機関銃の質量だけによって算出されることからも明らかだ。

 当然、機関銃は大きな持続射撃能力を得るため、現代の機関銃のほとんどすべてがベルト給弾方式を採用している。ベルト給弾方式は多数の装弾数を実現するために、再装填(リロード)に時間がかかるようになっているのだ。だからその間、どうしても火力が低下してしまう。

 それをどうにかするために、自動小銃で短い連射(指切り)を行い、敵が頭を出すのを防止するのが機関銃を中心とした戦いとなる。


 上記のように機関銃が使用できないと歩兵火力は大きく減少してしまう。だからこそ、再装填(リロード)中は気を遣うことになるのだ。だが、戦闘が終了したため次の戦闘のために、タクティカルリロードしておこうと言うものであるため、他の者もリロードを行ってしまった。












 だからこそ、これは偶然かもしれないし、そのすきを突かれたのかもしれない。











パパパパパ!!

《…ッ!! エネミー6!Lルート!!オールアタッカー!!》


 唯一気が抜けていなかったユッケが気付いた時には既に敵チームはトップスピードに乗り、射撃を開始していた。




 兵力が数十倍の相手に平然と包囲殲滅を敢行し、見事に成功させたリアルチートがいるのはノーカンで。

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