第2部 第1弾 登校日
「……はぁー」
ため息の主、高野俊は、夏のまだギリギリ穏やかと言えなくもない朝日が差し込む自室で目を覚ました。
珍しく、というか夏休みになってから初めて朝と言える時間に起きたわけは、今日が夏休み一回目の登校日であるからだ。まだ起き切っていない頭は半ば自動的に体を動かし、制服を着ていく。本日7月27日は教員たちの給料日に合わせて設定されたと言う登校日にうんざりしつつ、例年ではなかったもう一つの理由にうんざりしつつ、ネクタイを締め、鞄を手に食卓に降りる。
昨日のうちに買っておいたおにぎりを冷蔵庫から取り出し、鞄に入れて、平井駅まで歩く。歩きながら右手おにぎりを食べながら左手でスマホを弄ると言う大変行儀の悪い歩き方ではあるが、彼曰く、歩きながら食べないと目が覚めないそうだ。
平井駅から総武本線に乗り、御茶ノ水駅まで電車に揺られる。駅に着くまでのおおよそ8分間、缶詰めになりつつもスマホは弄ると言う日本人らしさを発揮しながら放課後の予定を思い出し憂鬱な気分になる。
「はぁ……」
「どうした俊?ため息ばかりつくと幸せが逃げるぞ」
クラスの人気者である山田孝仁が浅草橋で乗ってくるなり、聞いてくる。いろいろあってな。とごまかすと興味を失ったようで別の話を振ってくる。
「なあなあ、俊知ってるか?BGOでプレゼンターが再出現してプラマで暴れたらしいぞ」
もう噂になってるのか……と軽く絶望しつつ適当に返事をしておく。御茶ノ水で降り、明治大の前まで大学生たちの団子に同行し、大学の裏の高校前まで山田のマシンガントークに対して適当に返事をしながら放課後の予定をどのように対応するかプランを立てていく。と言っても、浮かんでくるのが遅滞防御とかアクティブディフェンスとかエアランドバトルとか主に絶望的なものしか出てこないのだが。
《本日は総武本線にご乗車いただき誠にありがとうございます。この列車は各駅停車、津田沼行きです。次は秋葉原、秋葉原です》
朝のホームルームと学年集会が終了し、電車に乗っている。全くもって対応策がまとまっていないが……
女子5人のチームに妹の紹介で一時参加するのか?ぜってぇー面倒くさいことになるだろ。男女均一の名のもとに女尊男卑が実現してしまった現代でトラブルが発生しないわけがない。
「…………どうゆうこと?」
駅から北にある大型商業施設「LD-X」の2階にある喫茶店「アポロ」の店内で顔合わせとなっていた。予想していたのはファッショナブルな服で着飾った女子校生たちだったが………戦車や戦闘機がデカデカとプリントされたTシャツを着た女子がいた。イメージと違ったが、妹もいるし、間違えではないらしい。というか、こっちこいと呼ばれた。
「なんというか、普通の高校生にしか見えないけど、本当に大丈夫なの?」
聞いてきたのは身長180センチはありそうなモデル体型の女子校生である。強気のお姉さんと言う雰囲気で人気の新進気鋭の読モである。お前の交友関係はなんなの?と妹に聞きたい。すっごい聞きたい。
「大丈夫、大丈夫。こんなナリだけど、これでもBGOのトッププレイヤーだから」
妹よ……フォーローしてくれるのはありがたいが、こんなナリはやめてくれ。
「ふぅーん。まぁいいや。ポジションはどこができる?それだけ聞きたい」
まずは、名前とか世間話とか無難な奴ではないのかとは思うが連携が期待できない以上、遊撃と答えるしかないだろうな。実際BGOではボッチ型のビルドを使ってるのだから間違えではない。
「なるほど。それはありがたい。私たちもひと月で連携できるわけではないし、抜けたやつもオールラウンダータイプだったから狙撃とかよりいい」
狙撃ポジと言うのは後方からの長距離狙撃による戦闘支援以外にも敵の裏取りを警戒したり、接敵まではポイントマンと同様に敵の捜索をするポジションで連携がモノを言う。
それに、高い空間認知力とエイム能力、カウンタースナイプのための速射能力、撃破されないためのカモフラージュ能力など高度な技術が要求され、癖の強いプレイヤーが多い。そんなやつをひと月で使えるようにするのは無理がある。
「そんなことよりもだよ!シュンシュン!アセンを聞いてないんだけど!?どんな感じ!?」
この元気いっぱいの馬鹿そうなチビは、岡木恵美。秋葉原デザイン専門学校2年の19歳だ。たとえアンダー150sであっても19歳である。
「軽量逆関にレーザーと小型ミサイルを合わせた立体機動型の機動打撃機かな」
「おー!バリバリの高速機だね!大型の高出力ジェネのエネルギー回復速度を利用したレーザー乱射機かな!そうすると、逆関の縦機動で翻弄しつつ、レーザーでEMPダメージを与えて張り付くみたいなコンセプトかな!」
「そんな感じですね。付け加えるとしたら小型ミサイルでヘヴィーアサルトのプライマルシールドを吹き飛ばしてレーザー乱射ですね」
ノリが軽すぎやしねぇーかと思うが19歳の先輩だ。かりにアンダー150sであっても先輩である以上、ある程度丁寧に対応しよう。と思う。すっげぇー話しやすい。
その後、後回しにされていた自己紹介やキャラビルド、アセン、チームポジションと打ち合わせを行い、雑談へと移行した。
「って!もう4時じゃん!?私帰る!!」
「ほんとだ。じゃあ、そろそろお開きにしようか」
打ち合わせ?が終わり、駅前のゲーム屋で買ったソフトをディスクドライブに入れインストールしている間にスーパーで買ったお惣菜を食べながらスマホでタイタンウォーズの情報を調べる。
「おいおい……1時間もかかるのかよ。さすが高グラロボゲーだな」
タイタンウォーズ最新作のキャッチコピーである『ゲームではないランド・ウォーリア戦闘に参戦せよ!!』は伊達ではない。と言う評価はよく聞くが、最新型の第13世代i9
CPUを搭載する高性能PCで1時間もかかるのは要求高すぎやしませんかね。と思う。実際BBSでも要求高すぎワロタとかどこのサ◯ドロットだ!とかVRシム◯ティ4かななど、動作環境に対するツッコミが多い。
大抵の場合『ゲームではない』といったキャッチコピーは文字通り次元が違う高度なグラフィックと高性能な物理エンジンが搭載されていて一つの世界ともいえる高性能CPU殺戮兵器となる。
レファレンス最高スペックのi9 1680シリーズでも悲鳴を上げるレベルになる。現在CPU最大手のADMが100億ドル市場に成長したVR市場に攻勢を強めるべくVRソフトウェア専用CPUシリーズi11の開発を進めていたり、ADMに負け続けのイミッテルが巻き返しのためにVRゲームに完全対応した次世代演算装置「半流体状電流可変演算装置」の開発を進めていたりする。しかし、1つのパッケージにダイを2つ乗せたディアルコア(物理)や『ユーザーはクロック数だけ上げとけば性能が上がったと思うから大丈夫』といって抵抗器だったり電熱線だったり電気ヒーターだったりドライヤーだったりを作ったイミッテルが作ったところでまともに動かんだろとは思うがハイエンドを超えるCPUが必要なくらいには推奨スペックが高い。
そんなことを考えながらネットを漁ってみるがかつてプレイしていた前前作『タイタンウォーズ3アスターテ星域攻防戦』と基本システムが変わらないばかりか一部データの引継ぎが可能であるらしい。
〔ピコーン〕
米軍の将来歩兵システム計画はランド・ウォーリアからネット・ウォーリア、システムウォーリアと名を変え、2024年に計画を凍結、その後2047年にランド・ウォーリア計画の名称で復活させていると言う設定です。




