0 プロローグ
初めまして、1次創作は初めてのため不慣れな点が目立つと思いますがよろしければ最後までお付き合いください。
絶対に触れてはいけないものがあったとしたよう。奇跡のようなそれは、甘く輝き誘惑の光を放つ。
死者への干渉…つまるところ、死者蘇生の禁忌魔術。世界の概念すら揺るがしかねないそれは、今まで幾多の魔導師が追い求めたきた。しかし未だ嘗て、それを成し遂げたものはいない。そして、禁忌に触れた全ての魔導師はその代償としてその命を差し出してきた。
つまり、死。たった一回、それに手を伸ばしたが故に。
だとしても俺はそれに手を掛けた。悪魔でも、神でもなんでも良かった。
…ただ、俺は彼女に生きていて欲しかった。
その為なら、俺は命を捨てることになろうとも構わなかった。
例え、それが望まれないことだとしても。
俺は…もう一度、彼女に会って。
そして………。
「…随分と、懐かしい夢を見たな」
そう小さく呟いて、俺は布団から身体を起こした。黒く壊死したような左手を隠すように手袋をしてインナーシャツを着る。
ハンガーに掛けてある真新しい制服を身にまとい、冷やしてあった栄養ドリンクを一本身体へ流し込む。
机の上に用意した鞄を手に取り、専用の術具を腰に下げ自室を出た。
「遅かったな。幸福坊や」
「来てたのかよ。別に入ってきてもよかったんだぜ、学園長」
「私のような人気者が男性と逢引をしてみろ、学園中が男子の悲鳴で溢れてしまうさ」
「熟女好きは割とコアな趣味だぜ、今時の流行りは年下幼馴染だよ」
「そうか…おはよっ、おにいちゃんっ!」
…さて、ここで自問自答だ。
目の前に立つのはアラフォーボンキュッボンな赤いスーツを着た女性。自分よりふた回り近く年上の女性に、〝お兄ちゃん〟と呼ばれて喜ぶ少年がいるだろうか。いや、いない。
「ところで学園長。本当に良かったのか、俺みたいな異端者の入学を許して」
「おい、無視するな。流石に傷つくぞ」
「わざと触れなかったんだよ、それくらい分かれ。独身アラフォー」
「…くっ、言うようになったな。イブキのくせに……」
「はいはい悪かったよ…それで、だ。何で許可を出したんだ?」
「まぁそう急くな、学長室に向かいながらゆっくり話そうじゃないか」
学園長は踵を返し、ヒールを鳴らして歩き出す。ピンと伸びたその背筋の下に短い短剣が携わっていた。
「珍しいな、学長が学園内で術具を身につけてるなんて」
「最近はその学園も物騒でな、外部の不審者やら生徒同士での行き過ぎた《決闘》が多くてね。私も含め講師は皆、大忙しさ」
「なるほどね、学長なら術具なんて使わなくてもそんな奴ら簡単に撚れそうだけど」
「私も今やただの老兵、若い芽には勝てぬさ」
「ただ単にめんどくさいだけだろ」
「そうとも言うな」
学長、エーデル・ユーリ。又の名を《紅の女王》。
かつてこの学園を制した伝説の魔導師であり、火炎系魔術に於いては世界一とも評される、世界に5人しかいない特級魔導師の一人。
俺の恩人であり後見人でもある人物だが、基本的に関係は生活資金の援助だけなのでそこまで親しくはない。
「それで、お前の入学を許した理由だったな。簡単な話さ、お前の力を買ったのさ」
「…というと?」
「イブキ、おまえにはこの学園の抑止力となってもらう」
「抑止力…?どういうことだ?」
「簡単な話さ。おまえの力を学園に示せばいい、決闘に勝ち《首位》を奪い取ればいいのだ」
「…なるほどな。確かに、《首位》を獲ることは俺の目的への近道だ、あんたの言う抑止力にも必然的になるだろう」
この学園にある独自のランキング…《スターズ》。ランキング上位ほど使える研究費が多く、《首位》は一般的には禁忌とされている魔術…例えば、蘇生魔術の研究も黙認される。
卒業まで《首位》を守り続ければ、その時点で国家魔導師となり禁忌の研究が合法になる。
「分かった。で、それ以外にもあるだろう、俺をここに入れた目的は……そうだな、さっき言ってた外部の不審者、それに関係することか?」
「相変わらず鋭いな、当たりだ」
「嫌な予感が当たったよ。つまり、生徒同士の過ぎた《決闘》の駐在に加え、外部の不審者が侵入した時の迎撃、その二つを熟せってことか」
「ああ。今まで不審者の迎撃には教職員が当たっていたが、数が多いに越したことはない。お前にも力を貸してもらおう」
「…ま、この学園の入学許可に比べれば安いもんだ。受けるぜ、その話」
通常、禁忌に触れたものはその身柄を国に拘束される。例えそれが死体だったとしても、だ。俺のような例外の生存体だとすれば、体を隅々まで解体され研究の為に殺されても不思議はない。
そうならなかったのは、俺が運良くエーデルと出会えていたからだろう。
「そうか、賢明な判断を讃えるよ。イブキ」
「拒否する理由もないが、俺に選択権があるわけでもない…あんたには逆らわないさ」
「いい心がけだな、イブキ。私は嬉しいよ」
「はいはい、そりゃどうも」
「…そうだ、これを渡すのを忘れていたな」
「なんだこれ?」
「生徒手帳の代わりのようなものさ。クレジット、自室の鍵、インターネット、《決闘》申請など…その端末だけでことが足りる」
「すげぇな、どんな魔法だこれ」
この薄くて軽い、なんとも言えない板切れにそこまでの力があるとは思えない。
が、エーデルの言うことに間違いはない。俺が知らない間に、技術はそこまで進歩していたらしい。
「デンキと呼ばれる雷魔法の一種に機械工学を混ぜ合わせたらしいが、私も詳しいことは知らんな」
「ま、ありがたいことに代わりはないだろうからな。ありがとう、学長」
「なに、礼には及ばんさ。キチンと仕事をこなしてくれれば、な?」
やはり、エーデルの中身は底が知れない。思考回路、行動原理…人としての在り方が、自分とは似ても似つかないからだろうか。
再び満足そうに笑うエーデルを横目で見つつ、俺は応える。
「殺さない程度に、頑張るよ」
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