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AI棒  作者: 君名 言葉
第一章 2人の博士編
5/50

第五話 写真の女性

「ん……」


 少し油のにおいがする。何かの上で横になっていたシンは恐る恐る目を開けた。頭上には古そうなライトがオレンジ色の光を放っている。

「お、目が覚めたか」

 見覚えのある老人が目に入った。


「あ……そっか。俺……」

 シンは、その老人を見て、全てを思い出した。そうだった。俺は東郷博士に改造を頼んで……

 シンは自分の脚に目を向けた。そこには、見慣れぬ紫色の脚パーツが装着されていた。

 これは……


「どうだ。感想は」

 東郷博士が、パソコンを見たまま聞いてくる。

「どうって……確かにかっこいいのはいいけど」

 形、色と言い、かっこよさでは100点満点だ。


「そのパーツはな、おそらく今は世界で一つしかないだろう。そもそも、最近はスピード特化型アーティー自体が少なくなってきてる。そうすると、自然と市場に出回る脚パーツは、パワー型、砲撃型、万能型とかになってくる。だから、レア中のレアだろう」

「そんなすごいパーツ貰っていいのか?」

「いいんだ。ただし条件がある。絶対に優勝しろよ。アーグラでな」

「もちろんだ」

 シンは笑って言った。


「さて、そろそろ試したくなってきたころじゃないのか?」

 博士は少し嬉しそうだ。

「え?もう飛べるのか?」

「当たり前だ。むしろ、早く実験データが欲しいくらいだ」

「分かった。じゃあ一回外を飛んでくるよ」

 外はとうに日が落ちていた。辺りは闇に包まれていて、飛ぶのには少し難がありそうだったが、赤外線ゴーグル付きのシンの顔パーツがあれば、問題はない。


「それじゃあいくぜ。東郷博士」

「ああ。3分間の飛行で、そのうち1分間は最高速を維持してくれ」

「お安い御用さ。Hey,sari 飛行モード」


『脚 パーツ が 変更されて います 飛行モード に 変形しますか?』

「そのまま変形してくれ。3分間の飛行で、そのうち1分は最高速度だ」

『了解 脚パーツ を 変形します』


 ボォォォォォ!


 派手な音を立て、シンの脚から炎が出始め、体が宙に浮きだした。それから、脚の形が、鋭く、風を切る形に変わっていく。


 ウィーーン


『変形完了 飛行開始』

 だんだん高度が増していく。夜風が頬にあたって心地よい。向こうの町は、灯りがたくさんついていて星のようだった。もっとも、肝心の星空は、雲で隠れて見えないが。


『速度 上昇』

 速度が増す。炎の勢いが強まる。実際、その時一番驚いたのはシンだった。シンの体は、1、2秒ほどで速度0から最高速度まで上がった。速すぎて、飛んでいる実感がなかった。身体にかなり負荷がかかるから、多少は慣れる必要がありそうだが。


 まるで瞬間移動でもしているみたいに飛行という行為を行っている

『最高速度 に 到達しました 1分間 速度を 維持します』

「すげえなおい……」

 体が自在に動く。速度が速すぎて、1分が10分に感じられた。相対性理論とは、案外こんな感じのことなのかもしれない。知らんけど。そして、永かった3分が終わった。


 再び研究所の長くて白い、無機質な廊下を歩き、扉を開ける東郷博士も満足そうに頷いていた。

「どうだ、飛んでみた感じは」

「なんていうか、全く飛んでいる感触がなかったっていうか。本当に俺、飛んでたのかな?って」

「まあ無理はないだろう。おそらく、スピードで言えばアーグラ出場者のトップクラスだ。それは成功した。しかしだ、お前さんもよくわかっている通り、アーグラではスピードだけでは勝てん。やはり、パワーもいるんだ」

 アーグラは、やはり相当厳しい壁のようだ。


「どうすれば……」

「おいおい。何を言いだすんだ。お前さんの専属改造師は誰だ?」

「そりゃあ菊間博士……あっ!!!」

 すっかり忘れていた。


「そうだろう?私も、パワーに関して、菊間より優れている者はいないと思う。あとは自分の所で。強くなるこった。」

「ああ。ありがとう。東郷博士」

「礼などいらん。さあ、帰るんだ。まだ仕事があるんでね」

「サンキュ!」

 シンは足早に研究所を出た。いち早く菊間博士に報告したかった。


 ◆


 シンがいなくなり、研究所にはいつも通り、東郷博士一人となった。

 博士は、なぜか少し悲しそうな目で、遠くを見ていた。

「あのシステム設計はどう考えてもスピード型の構造じゃない。それでもあのスピードが出せるということはまさか……」

 東郷博士は、シンのブースターの改造中に、あることに気づいていた。それは、シンの体パーツの殆どが見たことのないもので、明らかにスピード型ではなかったのだ。

 もし私の仮説が正しいなら、もしかしたら。彼なら。

「シン……闇を……暴いてくれ……」

 そう言った東郷博士の手には、彼の奥さんと思われる女性の写真が握られていた。

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