第四十九話 黒幕
誰一人として、何も喋らなかった。ただ黙って、前へと進んだ。静かに涙を流している者もいた。
まだ要塞の最深部に到達していないにも関わらず、キングの不在は痛すぎる打撃だった。周囲に目を凝らすと、思わぬ発見があった。
「な、なあ。これって……」
自爆により建物の壁が破壊され、今まで見えなかった部分が露わになっていた。壁で仕切られていた部屋の一つに、人が一人通れるくらいの穴が空いていた。
「なるほど。ここから最深部に行けるらしいな」
ヘッドが穴を覗き込んだ。
その穴は、要塞の地下に向かうための穴らしかったが、ここで一つ疑問が生じた。
なぜ、このサイズの穴が空いているのだろう?
バビヨンは形態変化できるので、わざわざこの大きさにこしらえる必要はないはずだ。ちょうど人間一人分というのが妙に引っかかる。
疑問を抱えたまま下に降りると、そこは研究スペースらしき場所だった。薄暗くてだだっ広い空間に様々な機械やコンピュータが並び、センテレントエリアの研究エリアを思わせる。広さも大体似ていて、例えるなら体育館くらいの大規模な施設だった。
「おかしい。地球と同じ設備がある。これじゃあまるで……」
「人が住んでいるみたいか?」
知らない声が聞こえた。
「誰だ?!」
全員が後方を振り向いた。そこに、一人の男が立っていた。
その男は見るからに研究者のような風貌をしていた。伸びきった髪と髭、猫背の姿勢とよれよれの白衣。細いフレームの眼鏡の奥には聡明そうな目が居座っている。なぜこんな場所に人間がいるのか。
「ようやく来たな。地球の客人達よ」
「一体どちら様かしら?」
いつもクールなリッカの表情も強張っている。
「私が誰かって? ハハッ、お前達の生みの親だよ」
「生みの親……? どういう意味だ」
「そのままだ。私の名前は、ハンプ・ドランク。科学者だ」
その場にいる全員に、動揺が走った。ハンプ・ドランク。この名を知らないアーティーはいない。正真正銘、H型のAIを開発した男だ。
「どうして!? あんたは既に死んだはずじゃ?!」
「そんなのは私が故意に流したデマ。さて、悠長にお喋りをしているのもここまでだ。私は忙しいんでね」
そう言うと、ハンプは自身の体をアーティーへと変形させた。その変形過程は地球では見たことがなかった。図体は二倍近くまで大きくなり、最新鋭らしき武器をこれでもかと搭載している。
「悪いが、死んでもらうぞ。客人達よ」
パリン!
そう口にするなり、ハンプの剣がヘッドのAIを貫いた。一撃でヘッドのアーティー化が解ける。
「な……!?」
ヘッドが短い断末魔を口から発した。
一瞬のことに理解が追い付かなかった。ヘッドがドサッとその場に倒れる。この宇宙空間でアーティー化が解けるということ、それは死を意味していた。地球ではAIが破壊されても命が尽きるわけではないが、ここはM惑星という未開の地。AIによる装備を失った人間は、酸素の供給を失い絶命する。ただ、特殊な技術を持つ、この科学者を除いて。
横たわるヘッドの体に目を奪われ次の攻撃が見えなかった。すんでのところでシンはハンプの攻撃を避けた。
「あんた……何してるんだ……?」
「愚かな奴らだな。まだ気づかないか? バビヨンという生物、あれを作ったのは私なんだよ」
「なんだと……?!」
「科学者として成功を収めるうちに、私は野望を抱くようになった。このH型のAIを使えば地球を支配できるようになると考えたんだ。ところが、邪魔が入った。オリヴィエ・センス。奴は私のH型を模倣し、O型などというパクリを流通させやがった。仕方なしに私もH型のAIを世間に公表することで対抗したが、これではいつまでたっても終わりは来ない。それどころか、私を優に凌ぐアーティーが登場しだした。地球の支配を完遂するために私は独自にロケットを開発し、M惑星に移り住み、ここで研究をしていた。バビヨンはその過程で偶然できた私専属の兵士だよ。バビヨンを使って地球からお前達のような強力なアーティーを呼び寄せ、ここでまとめて始末する予定だった。そして、お前達は今、ここにいる」
ハンプが不気味に微笑んだ。つまり、シン達がここに来ている時点でハンプの思惑通りだったということだ。
何より驚かされたのは、そのハンプの戦闘力だった。さっきのヘッドを仕留めた一突きで分かる。この男は、次元が違う。まさか自分のAI開発者が、最後の最後に敵として現れるなんて。
「当然、O型もH型のAIを基にして作られている。お前達のシステムのことは、私が一番知り尽くしているんだよ」
「私は認めない」
サキが突然口を開いた。
「あなたみたいな人が作ったものによって私が今動いているなんて、考えたくもないわ」
「同感だな。O型のアーティーでも、こいつの血が流れているってことだろ」
バキが言った。
「そらそうや。ヘッドはんとキングはんの味わった痛みは感じてもらわなあかん」
アントンも前に出てくる。
「まとめて始末するみたいなことを言っていたけれど、結託した私達に勝てると思ったのかしら。だとしたら、随分舐められているみたいだけど」
リッカが戦闘体勢に入る。
「あなたみたいな人、私は許しません! 償ってもらいます!」
ヴィーナスも声を張った。
サーバスとコルン、バキでさえもハンプを睨み続けている。
「そういうことだ。あんたは確かに偉大な科学者だったかもしれない。けれど、俺は許さない!」
シンも銃を展開した。
「ハハッ、どこまでも愚かだなぁ。わざわざこの惑星に呼び寄せて始末しようと計画した時点で負けるわけがないだろうがよぉ!」
怒気を含んだ声でハンプが身構えた。
「行くぞみんな!」
シンの一声で、全員がハンプに攻撃を開始した。
明日、最終話です




