第四十四話 才能、解放
その日から、シンの9人組手は早速始まった。
15時から2時間は、シン対9人の戦闘演習が行わるのだ。
管理官の合図でトレーニングルームに特殊壁が起動し、各々のAIは破壊されない設定になった。その部屋にいる限り、どんな無茶をしてもAIは守られる仕様だ。もちろん、人命も。
シンは、4つのスロットを悩んだ末、【空気コントロール】【フォース】【5秒間無敵】【王政咆哮砲】を選択した。割とバランス重視のチョイスだ。
『9人組手スタートします』
場内のアナウンスが鳴り、壁が赤く光った。
シンを中心として、広い部屋に9人のアーティーが散りばめられている。
部屋の大きさは1キロ×1キロの立方体。暴れるには充分だ。
「【フォース:水の陣】発動!」
まず初めに、全体的なステータス強化のために、バキからコピーしたフォースを発動する。周りに水滴が浮上しだす。
「チッ、無断で使いやがって。成敗してやるよ」
右上空からバキが斬りかかってくるのが見えた。左に避けようとすると、左下からアントンがライフルの狙いを定めているのが見えたので、バキの方に突っ込んで盾にすることにした。
「おら! 喰らえシン!」
上から斬りかかるということは、腹部ががら空きになる。そこを狙って、バキの奥に逃げる。
腕を短剣に変形させて、身体を伸ばし、足から出るジェット噴射で貫こうとする。
そこに、さらに上の方から黒い影が見えた。
「【受け流しの構え】よ!」
盾を構えたサキだ。シンの剣は横に受け流され、バキの斬撃からは逃れたものの、体ごと横に飛ばされてしまう。
「うわっ!」
すぐに脚から炎を噴射し、体勢を整える。顔を上げると、そこにはパワー型のヘッドが立っていた。
「俺からの伝達だ。受け取りな」
そう言って、ヘッドの目は赤く光りだし、彼の巨大な右腕がガシャンガシャンと変形しだした。
まずい。まともに喰らえば一発ノックアウトだ。
かと言って、逃げてもストックとして特技にはならないので意味がない。相殺する必要がある。
「【水神】発動……!」
シンはまず、【フォース:水の陣】に含まれている特技を発動し、前方に巨大な水の塊を作り出した。
そして、すかさず次の特技を繰り出す。
「【空気コントロール】!」
一気に摂氏0度以下まで、前方の温度を下げる。液体だった塊は、大きな氷の塊となった。ちょうどそのタイミングで、ヘッドの特技が発動した。
ヘッドが低い声で言い放った。
「準備完了だ。【獄烈拳】を受け取りな」
恐ろしい量のエネルギー塊が飛んできた。氷の壁も、ピキッと音を立てている。
ダメだ。壊される。
そう直感したシンは、思わず【5秒間無敵】を使った。
ゴォォォ!
「なんてパワーだ……!」
初めて攻撃を受けるとはいえ、あまりの熱量に驚愕だった。パワーに関してはやはり次元が違う。
だが、すかさずシンも反撃する。
「あんた達には馴染みがない特技を見せるてやるよ。【王政咆哮砲】を喰らえ!」
アーグラで闇のアーティーが使用した最終奥義だ。胸の部分が開き、AIがおびただしいエネルギーを前方に放出する。
「遊んでいる暇はないわよ」
ふと、耳元で声がした。
何かと思って振り返ると、リッカが不敵な笑みを浮かべていた。近くにサキもいる。
「サキちゃん、いくわよー」
「了解です」
防御型の二人は、シンの目の前に立ち、盾を構えた。
「二人だからこそできる特技よ。【ワープホール】」
シュー……
シンの放った咆哮砲は、突如現れた黒い円に吸い込まれた。
「な……!? いったいどこに!?」
上空からすさまじい音がした。嫌な予感がして、とっさに右の方に回避した。
「くそっ……! 攻撃を吸収して任意の場所にワープさせるなんて!」
「ふふ。おもしろい特技でしょ」
「これでも手加減してるんだからね」
防御型の女同士は、いつの間にか意気投合していた。
「私とも遊びましょうよ」
次に現れたのは、復活型のサーバスだった。
そういえば、サーバスの特技って……
初めの自己紹介の事を思い出した。
「ボーっとしていてはだめですよ。私の特技です、【工場】!」
周囲に小型の飛行ロボットが作られていく。その数は一瞬で増え、視界が遮られるほどだ。
「さあ行きなさい! 私の部下たちよ!」
その合図で一斉にシンへの狙撃が開始された。
「下手な鉄砲でもこれだけの数がいちゃ……」
【空気コントロール】などで数を減らしてはいるが、一向に攻撃は絶えない。そろそろ、ボディの傷が深刻になってくる頃だ。
しかし、そこに更なる追い打ちがかかった。
「シン! ワイらを忘れんなよ!」
「ごめんねシン、もうちょっとだ」
砲撃型のアントンとコルンによる同時射撃が開始された。これで、明らかに避けられる量の攻撃ではなくなった。
彼らの放ったミサイルやホーミング弾、特殊効果のついた矢だけでなく、サーバスの部下のロボットからの銃弾も飛んでくる。状況は絶望的だった。
けれど、逆境を生み出すこと。それが、今回の9人組手の最大の目標である。
「やっと来たか」
胸に取り付けられたAIのsariが赤く光りだす。覚醒の合図だ。
『上級特技 が 解放されました』
端末に、新たな特技と5つ目のスロットが表示されていた。
「この特技は……【反撃】……?」
早速、その特技をスロットに設定し、使用するよう促した。
「Hey,sari 【反撃】発動!」
『了解』
シンは体の奥から燃えたぎるようなエネルギーが、むくむくと湧いてくるのを感じた。
「どんどんステータスが上昇してる……?」
スピード、パワー、防御、特技威力、全ての分野のパラメータが、今までより高くなっている。
奥にいたキングが静かに呟いた。
「やはり恐ろしい男だ。もはや私でも敵わないだろう」
【反撃】全タイプ共通
発生条件:途方もない戦闘経験を積むことで解放される
効果:ダメージを受ければ受けるほど全ステータスがアップする




