第四十二話 最終形
シンとバキのビリビリとした空気は収集する気配を見せなかった。
「ちょっとやめなさいって。二人とも」
珍しくサキが焦った顔で止めに入る。
しかし、そこで火に油を注いだのは女帝、リッカだった。
「あら。私は好きよ。そういうの。若いって感じがして可愛いもの」
その言い草は、少し揶揄っているようにも受け取れたが、そんなことは2人にとってどうでもよかった。
「さすが分かってるな女帝は」
満足げにうなずくバキ。それに対してシンも言い返す。
「もちろん、俺はいつでも相手してやるよ」
こちらも余裕の表情だ。
「シン……」
コルンは止めるでもなく心配そうな眼差しを向けるだけだった。
「管理官、A棟のトレーニングルーム借りるからな。いいだろ?」
恐神管理官は若干顔をしかめた。
「バキ……分かっていると思うが……」
「わぁーってるって。別に殺したりしねえよ。AI破壊もしねえ。それでいいんだろ?」
一応、乱暴な性格でも最低限の分別はあるらしい。
シンの内にある闘争本能は、燃え盛って広がっていた。それはバキも同じだろう。
シンとバキの二人は、中央管理棟から一番近い戦闘施設、A棟のトレーニングルームに入った。
他のアーティはと言うと、恐神も含め、2人の動向が気になったので、施設の二階、鑑賞用スペースで全員が見守ることとなった。
いつの間にか、空は赤く光っている。
「これでよしっと」
バキがトレーニングルーム中央にある台に設置されたモニターを触った。
ピ、ピ、ピ
『ゲームを開始します 任意の タイミングで 開始 を タップしてください』
場内にアナウンスが流れ出す。シンの脳裏には、昨晩、家の二階で急に始まったトレーニングモードがよぎった。
「ルールは簡単。相手のAIの機能を停止させるかギブアップさせるのどちらかで勝ちだ。分かったな?」
単純でおもしろい。どこかアーティカルグランプリを彷彿させる。
「勝った時のメリットと負けた時のデメリットは?」
「そうだな……負けた方は互いに持っている最もレアなパーツを勝った方に渡す。これでどうだ?」
シンは自分の脚パーツに目をやった。このパーツのレアリティはトップクラス、失うには痛すぎる。が、それだからこそおもしろい。
「いいだろう。俺はこの脚パーツを賭ける」
「じゃあ俺はこの剣のパーツだ。レアリティは同じくらい、交渉成立だ。特別に、お前に開始ボタンを押させてやるよ」
モニターに近づき、真ん中に堂々と書かれた開始ボタンに触れた。
けたたましいサイレンが鳴り響く。
『ウォォォォォン! 3秒後にゲームを開始します』
真ん中に突出していた台は収納され、全方位に高濃度粒子のバリアが張られた。二階席には観客が9人もいる。
『ゲーム 開始』
そのアナウンスが入り、先に仕掛けたのはバキだった。
「飛ばすぜぇぇぇ!! 【フォース:火の陣】!」
途端に、肌が熱を感じ取ったのが分かった。バキの周囲に炎の渦が巻きあがり、振りかざす双剣には炎が纏わりついている。
「おらぁぁぁ!」
目にもとまらぬ速さで上空まで飛び上がり、そのまま重力に身を任せ、シンに斬りかかってきた。本能で危険だということを察知した。
「っ……!【瞬間移動】発動!」
とっさの判断で回避特技を発動した。相変わらず、攻守ともに便利な特技だ。
ボォォォォ!
バキは何もない床に双剣を打ち付け、おもむろにこちらを見た。
「クク……」
笑ってる……のか……?
「そんなコスい技ばかりじゃなくてよ……楽しませてくれよもっと!」
再び斬りかかってきた。しかし、先ほどとは様子が違う。
ブゥン!!
「いつの間に?!」
ついさっきまで50メートルはあった距離が、もう2、3メートルまで縮まっていた。
「食らえ。【回転火炎斬り】」
その場で剣を振り回して一回転すると、周囲に炎が飛び散った。シンは避けきれず、腕パーツに少し損傷を追ってしまった。
「なるほどな……炎から起きる爆風を利用して一気に距離を詰めたのか」
右腕を庇いながら立ち上がるシン。バキの顔には余裕という文字が書いてあるかのようだった。
「ここが頭の使いどころだ……まさかもう終わりじゃないだろうな?」
相変わらず不敵な笑みを崩さない。
だが、この時、シンには1つの確信があった。
だがそれを試すのはもう少し耐えてからにするしかないな。
「もちろん俺も本気じゃないさ。今度はこちらから行かせてもらう」
いよいよ、反撃開始だ。
「特技発動。【時空移動】!」
そう、先程、恐神の特技【創造】で創り出してもらった特技。創造された特技は、重複して画面に表示されるので、【瞬間移動】から派生して選択できるようだ。
自由な時間軸の地点を選択し、その場所にタイムリープすることができる。ただし、移動した世界で活動できるのは3秒のみだ。過去にも未来にも行くことができる。
『1分前 に 移動します』
時空がだんだんとゆがみ始めた。初めて使う特技だが、思った以上に強力だ。
ウォォォン……
シンの意識が戻ると、すぐに特技を発動した。
「【5秒間無敵】発動!」
時間はバキが【回転火炎斬り】を発動する瞬間。これにより、損傷したシンの右腕は守られ、元の時間に戻った後も無傷で戦闘を続けられる。
『時間軸 修正完了』
その言葉と同時に再び時空が渦を巻き、元の世界となった。腕を見ると、真っ赤なメタリック塗装は健在だった。
「クク……そういう使い方もできんのか。やるじゃねえか」
「悪いけど簡単にやられる気はない」
「ならどうかな。こっちも本気で行くぜ! 【フォース:風の陣】!」
辺りに竜巻が数個出現する。やがて、その竜巻はシンに向かって近づいてきた。
「はは! どうだ! 避けられる術などないだろう!」
フッ……
シンは自分の幸運さに感心した。たまたまスロットに入れておいた特技が役立つとは。
「チャン! お前の特技借りるぞ!」
チャンとはまさに、アーグラ決勝で対戦した黒ずくめのアーティーの一人、中国の仙人のような風貌のアーティーだ。
「はぁぁ!【螺旋剣】!」
シンは高速で自転し始めた。そして徐々に、周りの竜巻をも飲み込んでいく。
「なんだぁ? そんな特技見たことないぞ」
これにはさすがのバキも驚いたようだ。シンはもちろん、裏の世界のアーティーの特技もコピーできる。
「おらぁ!」
渾身の一撃を喰らわせた感触がした。
竜巻が消え去ると、徐々に視界が晴れていった。
「はぁ、はぁ、奴は……」
おもむろにバキのいた方を向いた。
その時だった。
シンの周りに、数々の火柱が出現した。
「なんだ?!」
「フハハハ! みな、これが俺の合わせ技、【フォース:風の陣】で発生させた竜巻と【フォース:火の陣】を組み合わせて炎の渦を作り出したんだよ! しかもお前が巨大化させてくれたしなぁ!」
ボォォォ……
燃え盛る火炎。もはや逃げ場はない。
くっ……防御系の特技で防いでも意味がない……
「【空気コントロール】発動! 周囲の温度を氷点下にする!」
ついに4番目の特技も披露してしまった。トレース型という特性上、これ以降は不利な戦い方を強いられることになる。
「やっとすべて吐き出したか。つまりこっからは俺のターンってことだ」
「どうかな? まだ始まったばかりさ」
とは言いつつも、かなり厳しいな。
次なる攻撃は、銃弾の嵐だった。
「どうだよ。俺の撃つ弾は!」
「悪くはないけど、当たんないね!」
ギリギリでバキからの弾を避けていく。スピードに特化したシンならなんともないことだった。
しかし、そんな状況も長くは続かない。
「【閃光】発動! 死ね!」
【フォース:光の陣】に切り替えていたバキが、特技を発動し、辺りは眩しすぎる光に包まれた。目くらましのような戦法でシンを追い詰める。
「くそっ! 目が見えない!」
このままでは不意を突かれてダメージを追ってしまう。
察しろ……空気の揺れを感じるんだ……
バキが現れる場所を、肌で突き止めようと努める。
「ここだ!」
パン!
空気の振動を感じた方向に、銃弾を放った。
「残念でしたっ!」
耳元で声がした。背筋は一瞬で凍り、本能的に死を感じた。どうやらはずれだったようだ。
ガシャン!
背中を大剣で斬りつけられる。かつてない大ダメージを負ってしまった。
『背中パーツ 損傷 一部機能 停止します』
「クク……どうした」
「お前……なぜ背後から……」
「この光フォースってのは便利でなぁ。【光速移動】なんて特技が使えるもんだからなぁ」
シンはなんとか立ち上がった。しかし、立っているだけでやっとだ。
「まだ立てるとはな。ここでお得意の変身でもすんのかよ?」
サキやコルンと違い、シンは自由に変身状態になれるわけではない。しかし、そんなことはもう関係ない。
「フッ……」
シンは頬を緩めた。
「あぁ? なに笑ってやがる」
「いやぁ。感謝したくってさ。あんたと戦ってよかったよ。これで俺はまた、レベルアップできた」
「何が言いたい」
「見せてやるよ。お前がくれた強さだからなぁ!」
シンは特有の構えをして、特技を発動する。
「見ろ! これが俺の新しい特性! 【フォース:火の陣】発動!」
体からメラメラと炎が沸き立ってきた。周囲の温度は急上昇する。
なんと、シンはバキの特性であるフォースをもコピーしてしまったのだ。
「ふざけるな! なぜフォースを……!」
「俺も戦いの中で成長していく。今回、あんたとの戦闘中に、フォースのコピーを試みた。トレース型は、敵の特技しかコピーできないが、パワーアップした俺のsariは、あんたの"特性"であるフォースまでコピーした。しっかし時間がかかったぜ。できるだけダメージを喰らわないようにここまで戦ったんだ」
「お前が攻撃系の特技をあまり使わなかったのはそういうことかよ」
「正解。じゃあここからは俺のターンだ」
シンに出来てバキに出来ないこと。それは、特性と特技の合成だ。
通常、バキは戦闘で、設定したフォースに関連した特技しか使えない。【フォース:火の陣】の時は、【回転火炎斬り】のような。
しかし、シンの場合はあくまでコピー。フォースを身にまといつつ、別の特技も使うことができる。
「お返しだ。【螺旋剣】!」
再び高速回転し始めるシン。今度はさっきまでと違って、フォースの影響で炎の竜巻が出来上がった。
「こんなことが……!」
必死に対抗するバキだった、盛り返すことはできない。明らかにシンの方が一段上手だ。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!」
バキの悲痛な声がこだました。




