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AI棒  作者: 君名 言葉
第一章 2人の博士編
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第四話 伝説の改造師

「ほお。なかなかいいデータがとれたな。お前さんが菊間の犬か」

 その男は、学者風の身なりをした、顔の険しい

「正直、菊間の所のアーティーなんぞ、全く期待してなかったが、これは驚いた。奴も腕を上げてるようだな」

 老人は構わず喋り続ける。


「だから、あんたは誰なんだよ?」

 シンの顔が強張る。

「これはすまん。私は東郷という者だ。自分で言うのも何だが、この辺りじゃ伝説の改造師とかなんとか呼ばれている」


 この老人が、どうやらシンの探している人物らしかった。

「あんたが箱根の伝説の改造師か。探していた。一つ聞きたいんだが、なぜ俺の名前を知っている?」


 この老人が、シンと菊間博士の関係を知っているのが、どうも気がかりだった。


「お前さんは覚えてないだろうが、私は前に一度、お前さんに会ったことがある。菊間の奴と私がまだ一緒に働いていたころ。お前さんが、アーティーになる前の話だ」

 そう言った東郷博士の目は、少し遠くを見ていた。

「そうか。じゃあもう一つ。あのO型アーティーの集団は、あんたの手下か?」

「その通り。だが、お前さんを迎え撃とうとしてたわけじゃない。ただデータを取ろうとしてただけなんだが、そこでお前さんが来たから戦闘が始まっただけだ」

「なるほどな。実験中だったのか。邪魔して悪かった」


 仕方のないことだが、アーティーの間では、こういったことは頻繁に起こってしまう。H型とO型の仲は、それほど悪いのだ。

「いやいや構わんよ。おかげで膨大な出力数のデータが取れたしな」

 東郷博士は、何やら少し嬉しそうだった。そして、続けてこう言った。

「ところで、私に何か用かな?」

「伝説の改造師に強くなるヒントをもらおうと思ってな」

 そう言うと、東郷博士は少し驚いた顔をした。


「H型のアーティーが、O型の改造師にヒントをもらいに来たのか?」

「ああ」

 シンが答えると、東郷博士は笑い出した。


「はっはっは!面白いやつだ!そんな奴は初めて見た。いいだろう。気に入った。お前さんをさらに強くしてやろう」

「ほんとか?! いいのか!?」

「ああ。いいだろう。ただし、H型を改造するのは初めてだからな。少々難がありそうだ」

「やったぜ……」

「とりあえず、研究所の中に入れ。話はそれからだ」


 その研究所は、汚くてあちこちに部品が転がっている菊間博士の研究所とは大違いで、近未来的な、病院のような作りだった。シンと東郷博士は、白くて長い廊下を少し歩いた。


「いつもこんなところで改造してるのか?」

「どうしてだ?」

「いや、菊間博士の研究所とは大違いだと思って」

「はは。奴は昔からそうだからな。さあ、着いたぞ。ここが改造部屋だ」


 その部屋は、少し暗くて、真ん中に手術台のようなものが設置されていた。かすかに、油の匂いがする。

「しかし、ほんとにいいのか?」

 東郷博士は少し不思議そうに聞いてくる。

「なにがだ?」

 シンも聞き返す。

「改造は、かなりの大仕事だ。それこそ、改造中にAIを破壊しようと思えばできてしまう。普通なら信頼できる人間にしかやらせないものだが、ほんとにいいのか?」


 どうやら、東郷博士はシンの心配をしてくれているようだった。

「そんなことか。大丈夫だ。俺もその気になれば、O型アーティーを改造する奴だって言って、今すぐこの研究所を消し飛ばすことだってできるさ。でも、そんなんじゃお互いに腹の探り合いで、安心できないだろ?人に信頼してもらいたかったら、まずこっちから信頼しないとな」


 東郷博士は少し笑って言う。

「さすが菊間の所で育っただけのことはあるな。奴もそういう人間だった……」

「さ、できれば早く改造してもらいたいんだけど。アーグラまで時間がないんだ」

 シンは少しでも早く強くなりたかった。

「ほお。お前、アーグラに出るのか。なるほど、そういうことで来たわけか。だがその前に、お前さんのさっきの戦闘で得たデータを見せるとしよう」

 東郷博士がパソコンに向かう。その間シンが周りを見回すと、多くの写真が飾られていることに気づいた。


 これは?若いころの東郷博士か?隣に座っているのは奥さんに見えるけど。

 シンは少し気になったが、今は聞かないことにした。東郷博士がパソコンから目を離し、話しかけてくる。

「さあ見てくれ。これがさっきのデータだ。注目すべきは、お前さんもわかっている通り、このスピードだ。このスピード値は、正直、アーティーの中でもトップクラスだろうな。しかし、弱点も多い。例えば、この装備。ホーミング弾程度のパーツなら対処できるかもしれんが、アーグラでは通用すらしないかもしれんな」

「アーグラ出場者って、そんなに強いのか……?」

「ああ。百戦錬磨どころか、億戦練磨レベルの強者がごろごろいる。しかもスピード型不利の時代だ。今の出力で勝てるとは思わないことだな」

 ある程度シンの予想通りだった。そして、わざとゆっくりと、吐き出すようにつぶやく。


「スピード型不利……か」

「しかし、捉えようによっては少し有利かもしれん。アーグラでは、スピード型の装備で出場するアーティーは、かなり少ない。つまり、多くのアーティーは、スピード型の対策をしていない。お前さんがこのままスピードを限界まで上げれば、相手に触られることなく翻弄できる可能性すらある」

「だけど、これ以上スピードを上げるなんて……」

 シンは俯いた。このスピードを超えるイメージが、全く湧かなかった。


「お前さんは、何のために箱根まで来たんだ?」

 東郷博士が、パソコンを見たまま聞いてくる。

「そりゃあ、あんたに会うため……ま、まさか、このスピードを超えるための改造法が?」

「私は、自分にできないこと提案したりせんよ。さあ、そこに座れ」

 そう言うと、東郷博士は汚れて黄ばんだ歯を見せて笑った。

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